第34話 自室 (ウォール)
自室に入り一息ついたところで、ドアをノックする音がする。誰か訪ねてきた様だ。
「はい、どちら様?」
俺がドアを開けるとそこにいたのは、アカシアだった。
「ウォール、少しいいかしら?」
「構わないよ。さあどうぞ」
俺はアカシアを部屋に招き入れる。
メイドを呼んで、お茶の用意をさせる。
「それで、何か用事かな?」
「用事というか……。カリンさんに魔術を教えるようなことは、しないでもらいたいの!」
「心配しなくても、彼女と浮気をする気はないけど?」
「そうじゃなくて……、それもあるけど――、彼女は聖女候補と呼ばれているのよ。その彼女に魔術を教えたら、あなた、死んでしまうわよ!」
「僕が死ぬ?! ……。ああ、『予言の書』ね」
「そうよ。折角、私の機転で回避できたのに、また、戻ってしまいかねないわ」
『予言の書』にある、俺の死亡フラグは、アカシアの機転で回避したことになっていたのか? 単に、アカシアに魔術の素質がなかっただけだと思っていたが――。
まあ、アカシアもかなり努力をしていたし、それをここで指摘するのは止めよう。
「そんなに心配することは、ないと思うが――」
大体あれは予言の書ではなく、異世界のラノベだから心配する必要はない。
「甘いは、甘過ぎよ。予言の書をなめては、いけないわ!」
もしかして、『予言の書』は舐めると甘いのか? と、馬鹿なことを考えていてはいけないな。
「アカシアが、そこまで心配してくれて、僕は嬉しいよ。やはり、僕のことを愛してくれているんだね?」
「あ、あ、愛しているって!! 馬鹿じゃないの‼︎ 一応、王命で決められた婚約者だから心配しただけよ。深い意味はないんだからね!」
相変わらずのツンデレ反応だな。いつになったら、デレるのだろう。
しかし、アカシアの『予言の書』が、万が一にも本物ということは、ないと思うが、魔法がある世界だしな。それに、俺自身転生者だ。
カリンさんも転生者の可能性があるから、お近付きになりたいところではあるが、あまり関わらないように注意しよう。
といっても、同じ魔術研究会ではそれも難しいか――。
トントントン。
ここで、再び部屋のドアをノックする音がする。
「はい、どちら様?」
「私です。お兄様」
「エンジュか? どうした?」
「アカシアお姉さまは、いらっしゃっていませんか?」
「アカシアか……」
俺はアカシアの方を確認する。
アカシアは、ここにいることをエンジュに伝えてもいいと頷いた。
「アカシアならここにいるから、入ってきていいぞ」
「そうですか、では失礼します」
エンジュは、ドアを開けて部屋に入って来た。
「お姉様、お邪魔じゃありませんでしたか?」
「ウォールとの話は済んだところよ」
「それで、エンジュは何の用だったんだ?」
「明日のことなんですけど――」
「明日は、午前中工房の視察研修で、昼から湖畔でバーベキューの予定だぞ。二人にも伝えてあったよな」
「それなんですが、私は魔術研究会のメンバーではありませんし、mPadの工房には興味がありませんから、先に湖畔に行ってバーベキューの準備をしていようかと思いまして」
「バーベキューの準備は使用人がするから、必要ないが、視察研修がつまらないということなら、先に行って遊んでいても構わないぞ」
「そうですか。なら、そうさせてもらいますね」
俺からの承諾を得ると、エンジュは次にアカシアに話しかける。
「それで、お姉様は、どうされます? お兄様と離れたくないということなら、無理にこちらにお誘いしませんが――」
「エンジュ様が誘っていただけるなら、私も先に湖畔に行っていますわ」
「そうですか。わがまま言ってごめんなさいね」
「そんなことございませんわ」
アカシアも先に湖畔に行っていることで話がついたようだ。
そうなると、視察研修に行くのは、魔術研究会のメンバーだけに成る訳か――。
それなら、少し班分けを考えるとするか。
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