本来の目的を忘れてはいけません

第33話 領都 (ウォール)

 魔道列車は、クィーンズランド辺境領の領都オリエンタルに、定刻通りに到着した。

 さて、これからみんなには、俺の屋敷に泊まってもらうことになる。迎えはちゃんと来ているだろうか?


「ウォール様、こちらでございます!」

 駅を出た所に二台の馬車が停められており、迎えに来た執事のオルダーがこちらに呼びかけている。

 オルダーは領都の屋敷を任されている執事長だ。


「オルダー、すまない。突然来ることになって――」

「ウォール様のお屋敷なのですから、いつお帰りになってもよろしいのですよ」


「だが、今回は人数が多かったから準備が大変だっただろう?」

「いえいえ、この程度なら、いつでも全く問題ありません」


「そうか。二泊だがよろしく頼む」

「畏まりました」


「オルダー、ただいま」

「エンジュお嬢様、おかえりなさいませ」


「また、お世話になります」

「アカシア様、遠い所いらっしゃっていただき、ありがとうございます」


 エンジュとアカシアも寄ってきて、オルダーと挨拶を交わしている。


 二人のことはオルダーに任せて、俺は魔術研究会のメンバーに指示を伝える。


「皆さん、これから馬車で僕の屋敷まで移動します。四人ずつ馬車に分乗してください」


 俺が、馬車に乗るように指示すると、魔道列車で座っていたのと同じ様に分かれて馬車に乗車した。

 カリンさんが一人残された形だが、彼女だけ新入生だから、まあ、そうなるだろうと思っていた。

 しかし、親睦を図る意味では、あまり良くないな。何か考えた方がいいだろうか?


 とりあえず、カリンさんは、俺たちと一緒の馬車に乗せ、駅前を出発する。

 屋敷まで馬車なら、十分もかからない。


「わざわざ、馬車で迎えてくださったのですね。ありがとうございます。まるでお姫様になった気分です」


 カリンさんが目をキラキラさせて、感謝の言葉を述べた。

 最近、魔導自動車が主流となってきたが、馬車もそれ程珍しいものではない。

 逆に、農村では荷物を運ぶのに、今でも荷馬車が主流だ。

 カリンさんが言いたいのは、高級な馬車ということだろう。


「感謝される程のことではありません。こんな機会でもないと使うことがありませんからね」

「確かに普段は車での移動が多くなりましたからね。でも、王宮に行くときには乗るでしょ?」


「私、王宮へ行ったことはありません――」

「あ――、そうなのね」


 アカシアの不用意な発言で、場が白けてしまった。


 普通、男爵の娘であっても、このくらいの歳になれば、社交で王宮に行く機会はあるものなのだが……。

 彼女は、ずっと地方で、王都に出てきたことがなかったのだろう。


「そうだ、カリンさんも、よかったら今度、王女姫殿下とのお茶会に参加しませんか?」

「いえいえ、とんでもない! 私なんか、とても参加できません」


「王女姫殿下は、お二人とも大変気さくな方ですよ?」

「いやいや、本当に無理ですから。勘弁してください!」


 エンジュは気を効かせたつもりだろうが、彼女には少し荷が重いだろう。


「エンジュ、無理に誘うのも良くないぞ」

「そうですわね、お兄様。ごめんなさいね、カリンさん。でも、気が向いたらいつでも言ってくださいね」


「いえ、こちらこそ、誘っていただいたのにすみません」


 雑談をしている間も、馬車は坂道を折り返しながら登っていく。


 山の中腹の開けた場所にできた領都の街並みは、石を積み上げた家が段々に続いている。

 向かっている俺の屋敷は、その上の方だ。真っ直ぐ登っていくのは馬車では難しい。


 階段を走って登れば、馬車とたいして変わらない時間で、屋敷まで行くことができる。

 ただ、階段を走って登る体力が有れば、の話だ。俺に、そんな体力も気力もない。


 やがて、馬車は屋敷に到着する。俺の屋敷も街並みと同じ石積みであるが、その大きさは、城と呼んでも差し支えない程大きい。

 いや、屋敷や城と呼ぶより、砦と呼ぶのが一番正確かもしれない。


 いざという時、領民の避難を受け入れるだけのスペースを備え、自然災害に耐え、侵入者を寄せ付けない堅牢な造となっている。


 屋敷に到着すると、一人に一部屋を割り振り、夕食までは自由時間とする。工房の視察研修は明日の予定だ。


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