第28話 某伯爵邸 (???)

 なぜ俺が学院を追われて、自領で謹慎させられなければならない……。

 それも、ここは本宅でなく別宅だぞ!

 これではまるで罪人扱いではないか!!


 大体、俺は魔術師の未来のために行動していたのだ。

 なにもやましいことなどしていない!


 それだというのに、父上ときたら、王太子殿下のいいなりになり、俺をこんな所に閉じ込めやがって。

 将来、俺が魔術を使って、兄上に代わって、この伯爵領を繁栄させてやるのがわからないのか?


 そもそも、王太子殿下はなぜ俺の言っていることを聞いてくださらない。

 臣下の言葉に耳を貸さないなど、王太子としての資質に欠けるのではないか。

 きっと、私の崇高な理念を理解できないのだな。お可哀想な方だ。


「御坊ちゃま、ご学友の方がお見えですよ」

「御坊ちゃまと呼ぶのは止めろと言っているだろう」


 俺の世話をしているメイドのばあやが、来客があったことを部屋まで知らせにきた。

 しかし、いくら子供の頃から世話をしているからといって、未だに俺のことを御坊ちゃまと呼ぶのは勘弁してもらいたい。


「そんなこと言われましても、ばあやには、御坊ちゃまは、いつまでも御坊ちゃまですよ」

「ああ、わかった、わかった!」


 まったく! この屋敷にはもっと若いメイドはいないのか?


「それで、ご学友はどうされますか?」

「適当に応接室に通しておけ。俺もそのうちに行く」


「そのうちにと言わずに、お待たせしないようにお越しくださいまし。折角訪ねて来て下さったのですから」


 それにしても、ご学友?

 学院からわざわざ領地まで訪ねて来そうな奴は、魔術研究会の後輩だったネズコくらいか――。


 あいつは子爵家の次男だったな。

 使い走りにちょうど良かったが、こんな状況でも俺の元を訪ねてくるなら、もう少し重用してやろう。


 俺は、待たせないように、部屋を出て応接室に向かった。


「待たせたな」

「お元気そうで何よりです。先輩」

「お前は……」


 俺が応接室に入ると、待っていたのは、予想外にネズコではなかった。


「いったい俺に何のようだ」

 俺は警戒して来訪者を見据える。


「実は先輩に、少し面白い物をお持ちしました」

「面白い物?」


「そうです。学院の学生にひと泡吹かせることができる物なんですが――」

「ひと泡吹かせるだと!」


「興味がおありですよね?」


 興味がないわけではないが、こいつは、何で俺にそんなことを言ってくるのだ。それがわからない。


「まあ、話だけは聞いておこうか」

 少し、探りを入れさせてもらおう。


「これなのですが――」

 そいつは、小瓶を取り出して説明を始める。


 成る程、これなら学院の連中にひと泡吹かせられるな。

 あは、ははは! 面白くなってきたぞ!


 こいつが、何を考えているのかわからないが、俺を学院から追い出した連中にひと泡吹かせられるなら、そんなことはどうでもいいだろう。

 俺は、そいつが差し出す小瓶を受け取った。


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