第27話 政略結婚と連休の予定 (アカシア)

「どうかされましたか? お姉様」

「いえ、少し考え事をしていましたわ。ごめんなさい」

 いけない、いけない、王女殿下たちお茶会でボーっとしてしまいましたわ。


「あら、婚約者のウォール様のことでも考えていらっしゃったの?」

「いえ! 違います、ニレ姫様」

 ウォールでなく、目の前にいる義妹のエンジュのことを考えていたのですが、そうも言えませんね。


「そういえば、この前学院で追いかけっこをされたそうですね?」

「いや、それはですね――」

 なぜ、そのことをご存知なのでしょう? 学院では誰も気に留めていないようでしたが――。


「仲がよろしいようで羨ましいですわ」

「あたしも学院に入学して、追いかけっこしてみたーい」

「カヤ姫様、学院は追いかけっこをする所ではございませんよ」

 エンジュがすかさずカヤ姫様を窘めます。


「追いかけっこはともかく、学院で婚約者と毎日会えるのは羨ましいわ」

「ニレ姫様の婚約者は隣国の王子様ですよね。お会いできなくて寂しいですか?」


「寂しいというより、婚姻前にお互いを知る機会がないのは残念ですね」

 私とウォールは三年前に婚約して、もう何度も会って、お互いを知っています。

 その機会がないということは、どんな相手か、心配でならないでしょう。


「ニレ姫様が結婚されるのは来年ですよね?」

「そうね、来年の春先の予定よ」

「お姉様が隣国に行かれてしまうのは寂しいですー」


「代わりに、ローレルの婚約者のシュリ姫が、来年には、隣国からいらっしゃって学院に入学されますからね。仲良くしてあげてくださいね」

「わかってるわよー」


 他国との政略結婚ですが、まあ、なんだかんだいっても、これは人質交換のようなものです。

 王命で婚約者を決められた私ですが、他国に嫁ぐ、ニレ姫様やシュリ姫様に比べれば、まだマシな方でしょう。

 ウォールも決して悪い人ではありませんし――。


「ところで、お二人は連休中どこかに行かれるのですか?」

 ニレ姫様が話題を変えて私とエンジュに尋ねてきます。


「連休中ですか?私はお兄様と領地に行って来ますよ」

 エンジュがそう答えます。領地というと、クィーンズランド辺境領ですね。

 馬車ですと三日はかかりますが、魔導列車なら一日で到着できます。

 日帰りは難しいですが、連休中なら十分に行って来られるでしょう。


「まあ、連休に領地に戻られるのは珍しいですね?」


 確かに、毎年ウォールは夏と冬の長期休暇の時期に領地に戻っていました。この時期の連休に戻られるのは珍しいことです。


「なんでも、お兄様が所属する研究会で、領地にあるmPadの工房に見学に行くそうなのです。私もついでに、付いて行くことにしました」

「そうなのですか? では、アカシアも一緒ですのね?」


「いえ、私は誘われておりませんし……」

「まあ! お兄様ったら、お姉様を誘わないなんて、気がきかないこと! 私からお姉様も誘うように言っておきますよ」

 エンジュが大袈裟に声をあげます。いや、そんな声をあげるほどのことではないのですが。


「え、いえ、別に行きたいわけでは――」

「お姉様、遠慮なさらずに」

「そうですよ。婚約者と一緒にいられる機会は、無駄にするべきではありませんよ」


 婚約者に会えないニレ姫様に言われると、なんだか申し訳ない気持ちになってしまいます。

 でも、確かに、婚約破棄の理由を見つけるのにいい機会かもしれません。

 それに、研究会で行くというところも気になります。


「そうですね。エンジュ様、お願いしてもよろしいですか?」

「もちろんですよ!」

 私は思い切ってエンジュにお願いします。エンジュからお願いされれば、ウォールが断ることはないでしょう。


「あたしも行ってみたい!」

「カヤ、無理を言ってはいけませんよ」


 王女が行くとなると警備が大変です。簡単には行くことはできないでしょう。


「カヤ姫様、申し訳ございません。姫様がいらっしゃるのでしたら、警備を整えねばなりません。ですので、次回、夏休みにでも早めに計画することにいたしましょう」

「ブー。仕方ないから今回は諦めるけど、夏休みにはちゃんと連れていってよね!」

「はい、承知しました」


 エンジュは、そんな安請け合いしても大丈夫なのかしら? まあ、エンジュなら大丈夫か。

 いざとなれば、ウォールがどうにかするでしょし。


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