列車の旅は眠くなりますよね

第29話 辺境領 (アカシア)

 今日から連休です。学院も一週間お休みになります。

 私は、先日の姫様方とのお茶会で、勢いに任せて、義妹のエンジュにとんでもないことを言ってしまったため、今日から二泊三日で、婚約者のウォールと辺境伯領で過ごすことになってしまいました。


 といっても、二人だけで過ごすわけではありません。魔術研究会のメンバーとエンジュも一緒です。

 むしろ、元々、魔術研究会の親睦を兼ねた、視察研修ですので、私の方がおじゃま虫です。


 これから向かうウォールの実家であるクィーンズランド辺境領は、カンバラ王国の北西部に位置し、四方を山に囲まれた山岳地帯です。

 そのため、カンバラ王国の一領でありながら、自治国に近い扱いを受けている自治領になっています。


 山岳地帯なだけあって、夏は涼しくて、避暑にもってこいでしたが、冬は雪も降って、寒くて大変でした。

 もっとも、外に出なければ、部屋の中は暖房が効いて快適で、雪が降るといっても、雪かきが必要なほど降るわけではないので、我慢できる範囲です。私が、冬に訪れた時は、部屋からほとんど出ませんでした。


 クィーンズランド辺境領から、南の山を越えた先は、私の実家のウェスタン・ヘムロック公爵領、東の山を越えた先は、レイの実家のインディア・シルバーグ公爵領になります。


 西の山は、隣国アボジラ王国との国境になっています。過去には国境線をめぐり、争いになったこともあったそうです。

 国同士は和解していますが、戦いに参加した兵士や巻き込まれた住民の間では、まだ、わだかまりが完全には解消されていないようです。


 北の山は険しい山脈で、そこを超えた人の往来はありません。


 カンバラ王国の王都からは、馬車で三日かかりますが、私が子供の頃に、魔導列車が開通したおかげで、その日のうちに到着できるようになりました。


「アカシアお姉様、魔導列車に乗るのはこれで三回目ですか?」

 列車に乗り込む前に、エンジュが私に話しかけてきます。ウォールは魔術研究会メンバーの引率で忙しそうです。


「ええ、そうね。乗る機会としては三回目ね」

 去年の夏と婚約した年からその翌年にかけての冬の二回、ウォールの実家を訪問したときに魔道列車を利用しています。勿論、往復利用しているので、すでに四回乗ったともいえますが――。


「エンジュ様は、もう何度も利用されていらっしゃるのでしょう?」

「そうですね。結構領地との間を行き来することが多いですから、それでも、これで、二十二回目ですね」

 エンジュのとこですから、それらを全て覚えているのでしょうね。

 彼女は記憶術の素質がランク4ですから。


「皆さん凄いのですね。私はこれが初めてです」

「カリンさんの実家がある南部方面は、まだ、建設中ですものね」


 なぜか、男爵の娘のカリンさんもここにいます。

 いえ、魔術研究会に入ったということなので、視察研修に参加するのは当然なのですが、魔術研究会の他のメンバーは、私たちから少し離れた場所にいます。


「そうなんです。来年には開通するそうなのですが――。もっとも、開通しても、私の実家は南部でも端の方なので、利用する機会はないと思います」


「西の方だったかしら?」

「そうです! 南部の領都より、アカシア様のご実家の方が近いぐらいです」

 どういう訳か、懐かれている感があるのは何故かしら?

 あの時、私が魔術研究会に行ったのは、mPadを探すためで、カリンさんを助け出すためではなかったのですが……。


「そうなの? ところでカリンさんは、あちらの魔術研究会の方々と一緒にいなくてよろしいの? 親睦を深めるための視察研修なのでしょ?」

「あ、えー。そうなんですけど……。あちらは、先輩ばかりなので……」


 まあ、私とエンジュとは同級生ですが、私たち二人は、魔術研究会のメンバーではないのですよね――。


「全員集まったようだから、この車両に乗り込んでくれるかな」

 点呼が終わったようで、ウォールが号令をかけます。


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