第25話 後始末 (ウォール)

 扉を開けて入って来たのは、俺の婚約者のアカシアだった。


「アカシア? なぜ、ここに?」


「ねえ、あの婚約者は何故ここに来たんだい?」

「僕に聞かれても、分からないのだが、不味い事になったな――」


 話の内容からすると、彼女のmPadも盗まれて、あの箱の中にあるらしい。

 しかも、予言の書になぞらせて、魔術研究会を悪の組織と決めつけている。


 まあ、確かにmPadを盗んだ悪の組織なのだが……。


 だが、このままでは事が大事になってしまう。アカシアに真実を知られれば、穏便には済まないだろう。


 殿下が、俺たちに調査を任せたということは、教師に知られず、事を穏便に収めたかったからだろう。

 盗難事件とはいえ、組織的な犯罪となるとスキャンダルとなってしまう。しかも、学生を五人もまとめて処分することになれば、後々まで影響がでかねない。


「どうするんだい? 殿下は事を荒立てたくないよね?」

 チークも殿下の意向をくみ取っているようだ。考えは俺と同じだ。


「そうだろうな。アカシアは僕が何とか連れ出すから、チークは殿下に連絡を取って、ここをどうにかしてくれ」


「わかったよ。じゃあ、上手く婚約者を連れ出してよ。お姫様抱っこなんかがお勧めだよ」

「こんな時に、なに言ってんだ」


 チークと打合せしている内に、案の定アカシアは暴走しているようだ。

 さて、上手く説得して部屋から連れ出せるといいのだけれど――。


 そうだ、アカシアの目的は自分のmPadを探す事だったはずだ。それなら……。


 取寄せ<アポーツ>!


 俺は、彼女のmPadを魔法で手元に呼び寄せた。


 この魔法は、何に対してでもできるものではない。

 予め、彼女のmPadが、俺のmPadに登録してあったからこそできたことだ。


 彼女のmPadは、公爵に頼まれて、俺が特別に作った一点ものだ。市販のmPadにない機能が、ふんだんに組み込まれている。


 俺がアカシアのmPadを手にするのと同時に、彼女も俺たちが潜んでいる段ボールの蓋に手を掛けていた。


 俺は、彼女のmPadを握りしめ、意を決して段ボール箱から飛び出した。


「キャー!!」

「いやー、アカシア。見つかってしまったか。上手く隠れたつもりだったのだが――」


「ウォール? なんでそんなところから? ……。それより、その手に握られているのは私のmPadではなくて?」

「ん? これか? 僕の写真が壁紙になっているし、たぶん、君のだろうね」


「そんな恥ずかしいこと、ここで披露しなくていいのよ! それより、それ、どこで手に入れたの?」

「これ? どこだったかな? よく覚えてないな――」


「ウォール、それがなくなったのは、更衣室のロッカーなのだけど……。あなた、女子更衣室に忍び込んだんじゃないわよね!」

「なっ! 僕がそんなことする訳ないじゃないか!!」


 アカシアが、疑いの眼差しで俺のことを睨んでいる。


 なぜか、部屋にいた他の女子からも冷たい視線が向けられる。

 ちょっと待て! これ、盗んできたのはお前たちだろう!!


「本当に違うのね? ならいいわ! そのmPadを返しなさい!!」

「あ、いま一瞬、僕のことを疑ったね。僕は傷ついたなぁー」

「そんなことは、いいから早く返しなさい!」


 アカシアは、mPadを取り返そうと、俺を追いかけ始める。

「取れるものなら、取ってみなよー」


 俺は、上手くアカシアを躱しながら、扉の方に誘導し、扉を開けて部屋の外に逃げ出す。

「待ちなさい!!」


 うまい具合に、アカシアは追いかけてきたようだ。

 魔術研究会のメンバーは突然のことで、まだ、どうしたらいいか考えあぐねているようだ。


 チーク、後は任せた。俺は、上手く逃げ切らないと、アカシアに再起不能にされてしまうかもしれない。


「はい、そこ! 動かないでね。もう直ぐ殿下が来るから、おとなしくしていようね!」

 後ろから、チークの声が漏れ聞こえてきていた。


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 その後、殿下の裁定で、魔術研究会の会長だった男は、一身上の都合で領地に帰っていった。

 他のメンバーはおとがめなしであったが、殿下に弱みを握られ、都合のいい駒となった。

 そして、魔術研究会には監視、監督役が置かれた。


 まあ、ご想像通り、新しく魔術研究会会長になったのは、ウォールナット・ビーン、つまり俺であった。


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