第22話 捜査 (ウォール)

 ローレル殿下からの呼び出しは、最近学院内で、mPadの紛失が相次いでいる問題についてだった。


「どうやら、落としたり、起き忘れたりしているわけではなく、誰かに持ち去られているようだ」

 マカバ先輩が眼鏡をクイっと上げながら説明を始めた。


「それって、盗難ということですか?」

「そうだ」

 俺が質問するとマカバ先輩が簡潔に答えた。


「犯人の目処はついているのですか?」

「それはまだだが、外部から侵入したとは考えずらい」


「確かに、学院の警備はしっかりしてるからな」

 イチイがマカバ先輩の考えに同意した。


「そうなると、在校生の犯行ですか?」

「もしくは、教師や職員だが、盗まれているのがmPad限定だというのが気になる」

 学生だけでなく、教師や職員まで疑っているのか。流石はマカバ先輩、抜かりがないな。


「mPad限定なのですか?」

「一緒にあった、お金や貴金属に手をつけた様子がない」


「そうなると、金銭目的ではないということですね?」

「そうだろうな。嫌がらせの可能性もあるが、それでも、なぜmPadなのかの説明が難しい」


「mPadの中の情報が目的でしょうか?」

「その可能性もあるが、盗まれた者に共通する点が見られない」

 犯人像が絞り込めないな。ただの愉快犯か?


「まずは、聞き込みと不審な行動をしている者がいないか見回ってくれ」

 俺の質問が終わったとみると、殿下が命令を下した。

「承知しました」


 俺たちは殿下の命令で、mPad盗難事件の捜査にあたることになった。


 聞き込みなら、レイが得意だし、張り込み、潜入ならチークが得意だ。

 俺は、人と話すのは得意でないので、チークと一緒に行動することにした。


 で、調べ始めてすぐに、魔術研究会が怪しい行動をしていたことが判明した。


「どうする?」

 俺が。チークに尋ねると、チークは嬉しそうに答えた。

「これは、忍び込んで調査が必要だね。動かぬ証拠を押さえよう!」


「忍び込んで調査ね……。そこまで必要か?」

「必要、必要! さあ、さっさと行こうよ」

 チークは楽しそうに歩き出す。チークと組んだのは間違いだったかもしれない。


 俺たちは、調査をすべく、魔術研究会室に来ていた。

 扉には鍵がかかっていたが、それはチークが簡単に開けていた。


「それで、この段ボール箱はなんだ?」

「もちろん、この中に隠れて魔術研究会を見張るんだよ」


「証拠となる物を探すだけじゃないのかよ?」

「それだと、誰が関わっていたか特定が難しいでしょ」

 捕まえた犯人から聞き出せばいいと思うが、とぼける奴もいるからな。


「それにしたって、わざわざ、こんな狭い中に入らなくても、認識阻害の魔法で良くないか?」

「駄目駄目! 相手は魔術研究会なんだよ。魔法だとバレちゃうよ」


 チークの言うことにも一理あるが、ここの魔術研究会にそこまで警戒する必要があるか?


「さあ、入って入って」

 仕方がないので、段ボール箱の中に入る。

 しかし、部屋の中に見慣れない段ボール箱があったら余計に目立たないか?


 チークも一緒に段ボール箱の中で息を潜めていると、魔術研究会のメンバーが、集まってきた。

 今のところ、怪しい動きはなく、ただ集まって世間話をしているだけのようだ。


 お前ら、魔術研究会なんだから、だべってないで、魔術の研究をしろよ‼︎


 そう怒鳴りたくなったところで、ドアがノックされた。

 ドア越しにやり取りがあり、誰か入ってきたようだ。


「あれは……」

「ウォールの浮気相手の男爵の娘だね」


「僕は浮気なんかしてないぞ! そんなことより、彼女も魔術研究会のメンバーだったのか?」

「話の様子から、見学に来たみたいだね――」


 しばらく様子を見ることにすると、何やら俺との関係を聞かれているようだ。


「それで、本当はどうなの? 隠れて付き合ってるとか?」

 チークも俺に聞いてくる。

「そんなこと、あるわけないだろ。だいたい俺はそんなにモテない!」

「相変わらず自己評価が低いんだね――」


「それより、調査に集中しろよ!」

「はいはい」


 話がmPadのことになると、急に周りの雰囲気が変わった。


 どうやら、こいつらが犯人で当たりのようだ。


 こいつら、よくも俺が作ったmPadを……。


 俺が作ったと言っても、俺が一つ一つ手作りしているわけではない。基本となる設計を俺がしているだけだ。

 見本となるスマホは、前世で使っていたからな。それを参考に作っただけだ。


 mPadを盗んだ奴らに怒りが込み上げたところで、男爵の娘が大声を上げた。


『大体、これでは、mPadが無くなった人が、新しいmPadを買うことになるでしょうから、結局mPadを作っている人を儲けさせるだけです!』


 おお、そうか! こいつら俺を儲けさせてくれていたのか! ここは見逃そう!


「急にニヤけて、どうかしたの?」

「いや、なんでもない――」


 おっと、危ない危ない。私利私欲に走るところだった。


 なぜか、魔術研究会員たちは、簡単に男爵の娘に説得されてしまったようだ。男爵の娘が何か、怪しい魔術でも使ったのか?


「見てよ、証拠のmPadを出してきたよ」

「出ていって、証拠を押さえるとするか」


 バタン!


 俺たちが箱から出ようとしたタイミングで、扉が急に開かれ、誰かが入って来た。あれは……。


「アカシア?! なぜ、ここに?」


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