第21話 犯罪集団? (カリン)

「はいどうぞ」

 私が渋い顔をしていると、先程の男子学生から、お茶とお菓子が差し出された。

「ありがとうございます。いただきます」


『いただきます』の言葉に反応して、携帯型多目的魔導装置マジックパッド(mPad)が、毒物鑑定の魔法を自動的に実行する。

 これのいいところは、『いただきます』の言葉で魔法が自動的に実行されるため、目上の人に対しても失礼にならないことである。

 これが、魔術では魔法陣をわざわざ描かなければならないため、そうはいかない。目の前で毒物鑑定の魔術を使われたら、いい気はしないだろう。


 これが普及したおかげで、貴族でも気兼ねなく食事ができるようになった。本当にありがたい事だ。


「ほー。魔術ランクが5でも、mPadを使用しているのか?」

 座っていたもう一人の男子学生が尋ねてきた。

 態度が大きいところを見ると、最上級生だろうか?


「それは便利ですもの使いますよ。皆さんも使ってますよね?」


 あれー。なぜか皆さん顔を背けてしまった。


「ここにいる者はみんな魔術ランク4だからな。そんな軟弱な物など使っていない!」

「軟弱って……、便利ですよ。mPad」

 なんなんでしょうこの人? ちょっと変わった方だな。


「大体、それが普及したせいで、魔術師の地位が地に落ちたのを知らないのか?」

「それはそうかもしれませんが、今更どうしようもありませんよね?」

 今からmPadがない生活など考えられない。mPadを使っている人の、ほとんどがそうだろう。


「そんなことはない。我々魔術研究会では、魔術の有用性を皆に伝えるため、mPadの排除活動を行なっている!」

「mPadの排除活動? なんですそれ?」

 何か話が怪しくなってきたが、大丈夫なのだろうか?


「具体的には、mPadが使えないように、一時的に私たちがmPadを預かっているのだ!」

「それって、持ち主が納得しているのですか?」

 折角買ったmPadを使えないように人に預けるなんて、そんな人いるのでしょうか? そんな人がいるとはとても思えません。


「持ち主は納得しないだろう。だから、持ち主にわからないように行なっている」

「それって、盗みじゃないですか! 犯罪ですよ!!」


「いや、我々は、あくまで一時的に預かっているだけだ!」

「そんな理屈、通るわけないでしょ!」

 この人、馬鹿か? 馬鹿なのか? 馬鹿なのだな!


「よく考えてくれ。ランク5の君ならわかるだろ。このままでは、我々の未来は真っ暗であることが。近い将来、魔術師なんて居なくなってしまうかもしれないんだぞ。そうなったら君も困るだろう」

「それは、そうかもしれませんが、こんな方法間違っています!

 大体、これでは、mPadが無くなった人が、新しいmPadを買うことになるでしょうから、結局mPadを作っている人を儲けさせるだけです!」


「……そう言われると、確かにそうだな。我々がやってきたことは敵を肥らせるだけだったのか!」


 人の話を全く聞かない人かと思ったが、そうでもないようだ。

 それなら、思い切ってこんなこと止めさせよう。


「そうです。ですから、預かっていたmPadは早急に返しましょう」


「そうだな!」


 男子学生は鍵のかかったロッカーから箱を取り出すと、その箱をテーブルの上に乗せた。

 箱の中身はもちろん、mPadだった。


 馬鹿だけど、物分かりがいい人でよかった。

 加入した研究会が犯罪者組織だったなんて、冗談じゃないから、秘密裏にさっさとかたをつけないと。

 さて、これをどうやって本人に返したものか……。


 バタン!


 今後の対応を考えている最中に、急にドアが開けられ、誰かがこちらに構わず入って来た。

 扉に鍵は掛かっていなかったのか?

 mPadが入った箱は、机の上に出たままだ、今入って来られるのは、まずいんじゃ――。


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