初めから婚約破棄ありきでした

第17話 回想、初顔合わせ (ウォール)

 俺がアカシアと初めて会ったのは、三年前、王命により婚約が決まって、初めての顔合わせの時だった。

 場所は王宮の応接室、国王陛下夫妻とお互いの両親が見守られてのことだった。

 この時、俺は十四歳、アカシアは十三歳だった。


 当時のアカシアは、まだ流石に幼さが残るものの、将来、絶対に美人になること間違いなしの、美少女だった。

 一目見て、話をする前から、この美少女が自分の婚約者になることを神に感謝したほどだった。


 しかし、神は意地が悪い。

 俺に期待だけ持たせておいて、必ずその後、落としてくるのだ。


 俺は、魔術のことでそのことを身にしみていたはずなのに、美少女の前で、ついつい有頂天になり、すっかり忘れていた。


 アカシアは応接室では、しおらしく受け答えをしていた。

 それにすっかり騙されていたのだ。


 いざ、王宮の庭園で二人きりになると、いきなりアカシアが宣言したのだったな。


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「ごめんなさい! あんたとは王命なので婚約しましたが、すぐに婚約破棄することになるわ!」

「え? どういうことだい?」


 いきなり、婚約破棄宣言されて驚いたが、前世では四十近いバツイチだった俺は、嫌なことに、別れを切り出されるのには慣れていた。そのため、慌てず理由を問いただした。


「実は、私は聖女なの。もうすぐ転生者である勇者様と一緒に、魔王を倒すために旅に出なければならないの。魔王を倒した後は勇者様と結婚することになるから、あなたとは一緒になれないわ」

 これには、ビックリである。俺は自分のことが転生者だということを隠していたが、実は、この世界では珍しい事ではなかったのか?


「この世界に魔王がいるなんて、初耳なのだが?」

「世間一般には知られていないわ」

 魔王どころか、魔獣も魔物も見たことも聞いたこともない。魔法はあるが、俺が住む辺境でも出るのは、熊や虎などの獣だけだ。


「転生者である勇者って誰のことだい?」

「それはまだわからないの。これから私が聖女の力に目覚めたら出会うことになるわ」

 まさかその勇者って俺のことじゃないだろうな? この娘と結婚するのはいいけど、魔王を倒す旅になんて行きたくないぞ!


「きみも転生者なの?」

「私は転生者ではないわ」

 残念。転生者ではないのか。転生者ならいろいろ話ができただろうに。


「じゃあ、そのことを誰から聞いたの?」

「……。婚約で迷惑をかけるから、あなたには特別に教えるわ。でも、絶対に他の人には秘密よ!」

 聖女と言っていたし、神のお告げだろうか?


「わかった」

「実は、予言の書があるの」


「予言の書?」

「これよ!!」


 アカシアが見せてくれたのは、日本語で書かれた、転生した勇者が魔王を討伐するライトノベルだった。なぜ、こんな物がここにある?


「きみは、これが読めるのかい?」

「ふふーん。見たこともない文字でしょ? でも、私はお婆様に教えてもらったから読めるのよ!」

 アカシアはドヤ顔で、胸を張った。うーむ。まだ十三歳だよな。これは将来楽しみな――。


 まあ、日本語だから俺も読めるが、彼女は俺が読めないと思っているようだ。優越感に浸っているようだし、ここでは黙っていよう。


「そのお婆様に、僕も会えないかな?」

「残念ながら、お婆様は、二年前に亡くなられたわ」


「そうか。それはすまん……」

「いいのよ。気にしないで」

 そのお婆様なら、なぜ、日本のライトノベルが、ここにあるか知っていたかもしれないのに、残念だ。

 予言の書と言っているし、もしかすると、この世界は、そのライトノベルの中の世界なのか?

 勿論、アカシアのただの妄想で、ただのライトノベルの可能性の方が大きいが、もし勇者が俺のことであったら大変なことになる。このまま勇者なんかになりたくないから、確かめなければならない。


「それで、その『予言の書』によるともうすぐ、きみが聖女の力に目覚めることになるんだね?」

「そうよ。だけど、魔術の訓練をしているけど、うまくいかないの――」


「そうか、魔術の訓練なら僕も手伝えるかも」

「あなた、魔術が得意なの?」

 こう見えても、魔術の素質はランク5だからな。


「ああ、割と得意だ!」

「そう。羨ましいわ。私なんかランク0、素質無しよ」


「それでもあきらめずに魔術の訓練をしているのか? 凄いな!」

「凄くはないわ……。これは、きっと『試練』ってやつなのよ」


「試練か……。だからといって、一人でやることはないだろう。僕で力になれるならいくらでも力を貸すよ。魔術の訓練をするなら、僕が教えてあげる。それに、一人でやるより二人でやった方が楽しいだろ!」

 ついでに、『予言の書』が本当に予言の書なのか確かめせてもらうけどね。


「本当! やった! これで聖女の力が目覚めるわね。……もしかして、あなた、賢者なの?」

「いや、違うと思うけど?」

『予言の書』には、賢者も出てくるのか?


「……それなら、まあいいわ。これからよろしくね!」


 こうして、俺はしばらくアカシアに魔術の特訓をすることになった。


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