第16話 逢い引き? (ウォール)

 引き続き校舎の裏庭で、俺はアカシアと二人で話し込んでいた。


「それで、どうして彼女が土下座をすることになった」

「あら、ウォールも土下座を知っているの?」


「前に君に教えてもらっただろ」

「そうだったかしら?」


 本当は教えてもらったことなどないが、俺が転生者であることを彼女は知らない。そう言っておかないと、なぜ知っているのか、という話になってしまう。


「まあいいわ。彼女が土下座をした理由だったわね。それがよくわからないのよね。彼女がペコペコ頭を何度も下げるから、それだとこちらが虐めているように見えるから止めるように注意したら、土下座されてしまったのよね」


「それで土下座されてしまったのか? そうなると、彼女と会う時は気をつけた方がいいな。それこそ、虐めていたと噂されるぞ!」

「そうね。やっぱり、あれは私を陥れようとする罠だったのかしら?」


「そうは見えなかったが、女はわからんからな――」

「そうよね――。ということで、婚約破棄してちょうだい!」


「何が、そういうことなんだ?!」

「だから、あなたがいつ彼女に騙されるかわからないでしょ! 手遅れになる前に婚約破棄したいの」


「そこがよくわからないんだけど『予言の書』によると、結局別れることになるんだろう。俺と結婚したくないなら、そのままでもいいじゃないか?」

「別にあなたと結婚したくないわけじゃないのよ――。浮気をされて、そちらから婚約破棄を言い渡されるのが嫌なのよ。私のプライドが許さないの!」


 力強くそう言うと、彼女は少し頬を赤らめてそっぽを向いてしまった。


「そうか、結婚したくないわけじゃないんだ。なるほど、なるほど、うんうん」

「なによ!」


 彼女は俺の向こう脛を蹴飛ばした。


「王命なのだから当たり前でしょ! まったく、なに考えてるのよ!」

「はい、はい。王命ですからね。当然ですよねー」


 今度は怖い目で睨まれてしまった。


「すみません、調子に乗りました。すみません。もう調子に乗りません。ごめんなさい。許してください」

 俺は、深々と、ペコペコ何度も頭を下げた。


「だから、そうやって頭を下げられると、私が虐めているように見えるでしょう!」


 ああ、これか――。確かにこの世界では、こんなに深々と頭を下げることは、よほどのことがない限りしないな。

 ここまで頭を下げると、どうぞ斬り殺してください。と首を突き出しているようなものだ。


 そのへんの習慣が、前世の世界と微妙に違うのだろう。


 だが、あの目で睨まれたら、どうしたって、ペコペコ頭を下げてしまうぞ。


「ウォール、こんな所にいたのか。なんだ、逢い引き中か?」


 声をかけられて振り返ると、やって来たのは、騎士団長の息子のイチイだった。


「逢い引きなどではございませんわ!」

 アカシアが大声を上げて否定した。

 なにも、そこまで、必死に否定しなくても……。


「イチイか。何か用があったのか?」

「殿下からお呼び出しだ!」

「僕にか?」


「いや、お前だけじゃない。全員に召集だ。お前、ちゃんとmPad見ろよな」

「え?」

 俺は、慌ててmPadを確認する。


 やば、何度も殿下から呼び出しの通知が来ていた。


 それにしても、全員に呼び出しとは、何事だ?

 まあ、行ってみればわかるか。


「アカシア、そういう訳だから、僕は行くな」

「婚約破棄について考えておいてくださいね」


 俺は、それには答えず、手を振ってその場をあとにした。


「まだ、婚約破棄だの言ってるのか?」

「ははは、まあそうなんだが……」

「ちゃんとしないと、また殿下に怒られるぞ」


 と、言われても、相手があの勘違い令嬢じゃな。


「僕には何ともしようがないよ――」


 俺は、小声で答えて、殿下の元に急いだのだった。


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