第15話 疑い (ウォール)

 アカシアがカリンさんを校舎裏に呼び出したと言われて、俺は伝えに来た女学生と一緒に校舎裏へ急いだ。

 校舎裏ではちょうど、カリンさんが土下座をしている最中だった。

 俺は慌てて止めに入った。


 しかし、カリンさんが土下座をしているのはなぜだろう? この世界に土下座の習慣はない筈だ。

 話を聞くと、カリンさんが自分でやったようだ。

 地方には、そういう習慣があるのだろうか?


 兎に角、アカシアが何かしたわけではないようなので、カリンさんたちには先に帰ってもらうことにした。


 俺は、アカシアと二人だけになったところで、改めて彼女に問いただした。


「それで、カリンさんを呼び出して何をしていたんだ!」

「先程も言いましたが、お話をしていただけですわ」


「だから、そのお話とはなんだ?」

「あら、私がカリンさんを虐めていただろうと一方的に断罪するのではないのですか?」


「虐めていたのか?」

「いえ、虐めていませんでしたが」


「なら、話の内容を教えてくれ」

「私を疑わないのですか?」


「なぜ疑う必要がある」

「客観的に見たら、私の前にカリンさんが転んでいて、虐めているように見えますわよね?」


「確かにそう見えるが、違うのだろ?」

「確かに違いますが、そこはもっと疑ったらどうですか! 計画が進まないではないですか!!」


「計画?」

「チッ! もういいですわ!」


 こいつ、なんで舌打ちしたんだ?!


「話の内容でしたわね! 婚約破棄を宣言した理由についてですわね!」

 アカシアは何故か怒りながら話し始めた。


「それなら、謝っているのが君でなければおかしいだろう」

「なぜ、私の方が謝らなければならないのですか?」


「パーティー会場で濡れ衣を着せて、迷惑をかけただろう」

「濡れ衣など着せていませんわ。事実を申し上げただけです!」


「どうせまた、『予言の書』に書いてあったとかいうのだろう」

「その通りですわ!!」


 やっぱりか。今度はどんな内容なんだ?

 彼女の『予言の書』には毎度毎度迷惑をかけられている。


 そういえば、最初に会った時にも婚約破棄を宣言されたっけ――。


「それで、今回はどんな内容なんだ?」

「パーティーの時に少し話した通り、あなたとカリンさんが浮気をして、カリンさんが私を陥れようと、虐められたふりをするのですが、最終的には嘘だとばれて、カリンとあなたは投獄されるのですわ」


「なるほど、ヒロインが実は悪役パターンか。それをカリンさんに話したのか?」

「ええ、あなたの計画は既にばれているから、諦めなさいと言ってやったわ!」


「頭は大丈夫なのか? という目で見られただろう?」

「そんなことありませんでしたわよ。どうやらカリンさんは転生者らしいですから――」


「彼女が転生者?」

「ええ、私のお婆様が転移者じゃないか、とも言ってましたね」


 アカシアの祖母が転移者ではないかとは、俺も前から思っていた。

 アカシアが予言の書だといっているのは、どう見ても日本のライトノベルだ。


 それに、彼女が転生者なら、土下座をしていたのも納得がいく――。


 いや、していた、ではなく、知っていた、だな。

 だが、どうすれば土下座をする状況になるんだ? 土下座をしていた理由がわからない。


 やっぱり、アカシアがカリンさんを虐めていたんじゃないのか?


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