第14話 土下座 (アカシア)

 私に睨まれて、カリンさんは深々とペコペコ何度も頭を下げて謝罪しています。

 はたから見ると、私が虐めているようにしか見えないでしょう。


「カリンさん、私、その謝り方はどうかと思いますわ」

「……。わかりました。土下座をすればいいのですね」


「え? ちょっと!」

 私が止めるより早く、カリンさんはその場に土下座しました。

 ちょっと、ちょっと! それじゃあ、もっと、こちらが虐めてるみたいじゃないですか。

 私が慌てていると、校舎の方から声がしました。


「おい、そこで何をしている!」


 声の主はウォールで、女の子を連れてこちらに走って来ます。

 その女の子は確か、カリンさんと一緒にいた方ですわね。


「アカシア、カリンさんに何をしていたんだ!」

「カリン、大丈夫? 怪我してない?」

「ホリー? 別に怪我はしてないわよ」


 なんですかこれは。これでは、まるで、私が暴力をふるっていたみたいじゃないですか。


「カリンが、アカシア様に連れて行かれたから心配で、ウォール様を探して来てもらったの」

「そうなの? ありがとう。でも、心配されるようなことはなかったけど」


 ホリーさんがカリンさんに手を貸して立たせます。

 その間、ウォールは私を睨んでいます。


「私たちはお話をしていただけですわ」

「なら、なぜカリンさんは転んでいた!」


 転んでいたのではなくて、土下座をしていたのだけど、土下座と言ってもわからないでしょうね。

 予言の書にはよく出てきますが、私も実際に見たことはありませんでしたから。


「あ、それは私が謝っただけなので」

「誤った? カリンが自分で転んだということ?」

「転んだわけではないんだけど。自分でやったことには違いないわ」


 やはり、ホリーさんは、土下座を知らないのですね。

 まあ、土下座を知っていたとしても、印象が悪いことに変わりないですが。


「アカシアが、何かしたのでないなら二人は帰ってくれるかな。僕はアカシアと少し話があるんだ」


 カリンさんが私の方を見ますが、私が何も言わないでいると「それじゃあ、お先に失礼します」と頭を下げました。

 ホリーさんが「いいの?」と聞いていましたが、カリンさんは「いいのよ」と答えて、二人で去っていきました。


 ウォールと二人で残されてしまいましたが、彼は私の話をちゃんと聞いてくれるでしょうか?

 状況的には私が悪役にしか見えません。


 これも、カリンさんの罠だったのでしょうか?

 だとすれば、侮っては行けない相手です。

 そうなると、やはり、ウォールとの婚約破棄を急がないといけません!


 そうだ、いいことを思いつきました!!

 この状況、ウォールから見れば、完全に私が悪役に見えるでしょう。きっと、私を断罪するはずです。

 ここでウォールが、私の言い分を聞いてくれなかったら、それを理由に婚約破棄を迫りましょう。

 私は悪くないのですから、婚約者に冤罪を着せようとするなら、婚約破棄の理由に十分になる筈です。


 ピンチの後のチャンスです。

 さあ、ウォール、かかってきなさい!!


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