第10話 魔術の授業 (カリン)
学院に入学して五日が経過した。
その後、乙女ゲームのイベントのようなことは発生せず、できるだけ、公爵令嬢を避けていることもあり、平穏な学生生活を送れていた。
私が思うに、公爵令嬢は、ライバルキャラの悪役令嬢だ。関わってはいけない。
今日は楽しみにしていた魔術の授業が行われる。
ウキウキした気分で教室に入る。
「なにせ私は魔術ランク5の素質を持っていますからね。ここからは私の無双ターンです」
独り言をつぶやきながら教室に入ると、既に何人かの学生が登校していて、おもいおもいに集まっておしゃべりをしている。
私も入学してから知り合いになった、ホリーに挨拶をする。
ホリーは私と同じように男爵の娘ですが、彼女の父親は王宮の官僚で、彼女は子供の頃から王都で暮らしているそうだ。
そんなこともあり、彼女は私の比べて色も白く、垢抜けている。
田舎者の私とは大違いだ。
「おはよう。ホリー」
「おはよう。カリン。今日は上機嫌ね」
「そうね。やっと魔術の授業だからウキウキしているわ」
「カリンは魔術が得意なの?」
「魔術は得意よ! 実はランク5ですもの」
「魔術がランク5なの――。それはなんというか……」
「あはは。今は、魔術の授業でぐらいしか役にたたないわね。だからこそ授業を頑張るわ!」
「そうね。頑張って」
なにか、憐れみを含んだ笑顔を向けられてしまった。
これが、一昔前なら尊敬の眼差しを向けられていただろうに。
昔は、魔術師といえば花形でしたが、魔道具が発展して、魔術師の出番は無くなってしまった。
魔術が使えなくても、誰でも魔道具は使える。
どんどん便利な魔道具が開発され、今では世の中魔道具だらけだ。
特に最近は、mPadと呼ばれる携帯できる魔道具が開発され、人気を博している。
これのすごいところは、ポケットに入るほどの小ささにあるが、それだけではない。
なんと、mPadは、いくつもの魔法を登録しておくことができるのだ。
登録してある魔法は、画面で選ぶか、音声で命令すれば実行される。
今までの魔術のように、魔導書で魔法陣を覚えて、杖(タクト)で描く必要がないのである。
本当に便利なこと、このうえない。魔術ランク5の私でさえ、魔術を使わず、mPadに頼りきりなのだから。
ですから、魔術の授業を始めるにあたって、こんな意見が出るのももっともなことだった。
先生が来て、授業を始めようとしたところ、一人の学生が手を上げた。
「先生!」
「何かな?」
「mPadがあるのに、魔術の授業が必要でしょうか? その分、他のことを習った方がいいと思いますが」
「確かに、mPadができて魔術を使うことは減りました。ですが、mPadをはじめとする魔道具がどのようにして動いているかご存知ですか」
「いえ、よく知りませんが」
「魔道具の中には、魔法陣が組み込まれていて、それで魔法を実行しています。つまり、魔術と一緒なのですよ。新しい魔道具を開発しようと思ったら、魔法陣を理解していないとできません。それに、魔道具を開発しようとする人は少ないでしょうが、魔術を知っていれば、魔道具を効率的に利用できるのですよ」
先生の答えに、手を上げた学生は一応納得したようだ。
「まあ、とはいえ、昔に比べれば、魔術の授業は大幅に削減されています。授業で教えるのは基礎だけですので、興味が湧いた人は、研究会に入るなりして自分で勉強してくださいね」
そうなると、私は、魔術ランク5を生かすためには、研究会に入った方がいいことになる。
「それでは授業を始めますよ」
先生は、そう宣言すると授業を始めたのだった。
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