チートが役立つとは限らない
第9話 転生者 (カリン)
私の名前は、カリン・オバンコール。サウスランド・ビーチ公爵領の港町イヌビの代官を務める男爵の娘である。
イヌビは港町といっても、漁港しかない寂れた街で、輸送船が着く交易港のような賑わいがあるわけではない。ハッキリいってしまえば、ただの漁村だ!
私はそんな田舎の漁村で育った。
イヌビは、寂れた街で、貧乏人の漁師しか住んでいなかったが、幸いにも私は代官の娘であったため、贅沢はできなかったが、衣食住に困ることはなかった。
これが、ただの漁師の娘に生まれていたら、私は、その生活にとても我慢できなかっただろう。
実は、私は異世界からの転生者である。前世では日本という国の女子高生であった。
どうして転生することになったのかは、よく思い出せないが、神様に会って、魔術の素質をもらったのを朧げに覚えている。
お陰で、生まれ変わった私は魔術ランク5の素質を身につけていた。
前世の記憶と合わせて、これでチートし放題だと、子供の頃は真剣に思っていた。
だが、現実はそんなに甘いものではなかった。
この世界では、前世と違い魔法があり、それが、生活に根付いていた。
そのため、前世の常識が通用しなかったのだ。
例えば、前世では汚れたら水洗いすることが常識だが、この世界では、水洗いという概念がなかった。
汚れたものは全て魔法で綺麗にできるからだ。
食べ物も、食器も、廊下や部屋も、手や体も、トイレに排泄物まで、全て、綺麗さっぱり、魔法で片付いてしまう。
ゴミや汚物がどこに消えてしまうのか、気になるところだが、それは魔法だからとしか教えられていなかった。
とにかく、魔法は手間要らずなのだ。
逆に、水洗いしようと思ったら、先ずは水を浄化しなければならず、洗浄後の汚水も処理しなければならない。
二度手間、三度手間になってしまう。
水洗いをすることがないので、下水などの設備は必要ない。
街の中も、魔法のおかげで、前世よりも綺麗で衛生的だ。
汚物の匂いに悩まされることは、全くなかった。
魔法は、細菌やウイルスまで綺麗にしてしまう。そのため、伝染病の発生は少ないようだ。
お風呂がないのは残念だが、それも、洗浄と回復、気分転換の魔法で事足りている。
つまり、石鹸もシャンプーも、水洗トイレも洗浄便座も、洗濯機も物干し台も、ホウキもチリトリも、存在しないし、必要なかった。
それだけ魔法が生活に根付いていれば、魔術ランク5の素質はさぞ役に立つだろうと思っていたら、今は、魔道具が発展したため、魔術の出番はなかった。
つまり、魔術ランク5の素質は、無用の長物だったのである。
それでも、私は、こんな田舎の漁村で一生過ごすのは嫌で、王都の高等学院に入るために、必死になって勉強した。
幸い、勉強は前世でもそこそこできた。この体も、頭は悪くないようで、学院に無事に入学できた。
そう、入学までは無事にできたのだ。問題が起こったのは、入学歓迎パーティーの時だった。
公爵令嬢が突然婚約破棄を宣言したのだ。
そして、婚約者の浮気相手として挙げられたのは私だった。
え? 私。
それが最初の感想だった。
全く身に覚えがなかった。
困惑しながらも、公爵令嬢を観察すると、すごい美人で、スタイルもいい。ただ、目が吊り目で、気が強そうに見える。
これで、金髪縦ロールなら、まるで、乙女ゲームに出てくる悪役令嬢のようだ。
あれ、悪役令嬢?
この、いかにもイベントのような事態に巻き込まれたということは。
もしかして、私、乙女ゲームの世界に転生してるの?!
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