第8話 壁紙 (アカシア)

 チークから私のmPadを奪い返してくれたのは、婚約者のウォールでした。


「そのmPadを使ってくれていたんだ」

「くれていた? これはお父様からもらった物ですが、何か勘違いしていませんこと?」


 ウォールからは、いろいろプレゼントされていますが、mPadをもらった記憶はありません。

 もしかして、他の女に贈ったのと勘違いしているのではないでしょうか?


 私は、ウォールを睨みつけます。


 なのに、ウォールは気にも留めず話を続けます。


「一番写りがいい写真を、壁紙にしておいたから」

「え?」


 返してもらったmPadを確認すると、壁紙がウォールの写真に変更されていました。


「なんなんですの、この壁紙は! どうやって元に戻せば」

 私は必死に、mPadを操作し元に戻そうとしますが、あれ? 壁紙変更にパスワードロックなんてかかっていたでしょうか?


 私が慌てていると、チークがからかってきます。


「愛する婚約者の写真なんだから、そのままでいいじゃん」

「愛してなんか……」


 私が言い淀んでいると、チークがまじめな顔になって話を続けてきます。


「僕はね。監視するのは好きだけど、監視されるのは嫌いなんだ。もし、監視をやめないなら」

「やめないなら?」

「君がウォールの写真を壁紙にしてると、学院中に言いふらしちゃおうかなー!」


 チークは、まじめな顔を崩して、ニヤリと笑います。


「やめてください! そんなことになったら、恥ずかしくて学院に来られなくなってしまいます」


「それが嫌ならストーカー行為はやめようね」

「ストーカーじゃありません!!」


 私は怒ってチークに文句を言いましたが、彼は涼しい顔で「じゃあ、忠告はしたからねぇー」と言って食事に戻っていってしまいました。


 私は、残ったウォール捕まえて文句を言います。


「ちょっと、なんてことしてくれたのよ‼︎」

「写真を撮っていたのは君だろ?」

「それは、そうだけど……。そういう目的じゃないのよ!」

「じゃあ、どんな目的かな?」


 ウォールまで、ニヤリと笑っています。


「キィー! ウォールのくせいに、生意気よ!! それより、壁紙を変更するためのパスワードを教えなさい!」

「君が愛している人の生年月日かな?」


「愛している人って……」

「ほら、愛している人の生年月日を入れれば、すぐ解けるよー」


 どうせ、自分の生年月日をパスワードにしたんでしょう。

 でも、それって、ここで、すぐに解いたら、私がウォールを愛していると言っているようなものじゃない!


 あれだけ大騒ぎしていれば、当然周りの注目を集めてしまいます。

 そして、よりにもよって、ここはお昼時の学食です。ウォールと殿下達の他にも、沢山の学生達が食事をしている最中でした。

 そんな衆人環視の中で、そんなことできません。


「壁紙の変更は後にするわ。殿下をお待たせするといけないから、ウォールを早く戻って食事を済ませた方がいいわよ!」

「そうだね。そうさせてもらうよ」


 私が、引きつった愛想笑いを浮かべながらそう言うと、ウォールは満面の笑みを浮かべてそう返してきます。

 キィー! 悔しい。今回はしてやられた感じです。


 ウォールが戻ったところで、私も何事もなかったようにその場を離れます。


 ウォールに、監視していたことがばれてしまいました。

 彼に警戒されてしまうと、この作戦を続けても、余り意味がありません。


 食堂を離れながら、彼から見えないので、思わず仏頂面になってしまったのは、仕方がないでしょう。


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