第7話 ストーカー? (アカシア)

 学院の新入生歓迎パーティーで婚約破棄に失敗した翌日から、私は暇があるごとに、ウォールに見つからないように彼の監視をしています。


 なぜ、ストーカーのような真似をしているかというと、ウォールが私の婚約者に相応しくないという現場を押さえて、婚約破棄を迫ろうと考えたからです。


 王命である婚約であっても、婚約破棄に値する理由が有れば婚約破棄できるはずです!


 それだというのに、今日で五日目になるのに、ウォールは、なかなかボロを出しません。


 まったく!! 少しは婚約者の私に気を利かせて、悪い事をすればいいのに。

 悪い事どころか、褒められるような事もしません!本当に平凡な男です……。


 今日もウォールは、殿下達と一緒に学生食堂でお昼を食べています。

 私は、決定的瞬間を証拠として残すため、柱の影からmPad(マジックパッド)を構えて、いつでも撮影できるように準備しています。


「なに盗撮してるの?」

「キャア!」


 突然後ろから声をかけられて、驚いた私は悲鳴を上げます。


「ちょっと貸して」

「えっ! 私のmPad。ちょっとなにするのよ!」


 私は、後ろから声をかけてきた男に、mPadを取られてしまいました。

 声をかけてきたのは、ホースチェス伯爵家の三男で、チークという同級生です。

 ですが、彼はさっきまで殿下と一緒に食事をしていたはずです。

 いつの間に、私の後ろに回り込んだのでしょう?


「お、最新型じゃん。で、何を撮ってたのかな?」

「勝手に中身を見ないでよ! 返しなさい!」


 私のmPadは、学院入学を機にお父様がお祝いに買ってくれたばかりのものです。

 おしゃれな最新型ですが、勝手に中身を見られては困ります。

 私は奪い返そうとしますが、うまく避けられてしまい、なかなか奪い返せません。


「ふーん。なぁーんだ、ウォールの写真ばかりか。それなら隠し撮りしないで、ちゃんと撮ればいいのに。見かけによらず恥ずかしがり屋なのかな?」

「これは……、違うんです! そういうのじゃなくて……」


「あ、赤くなった!」

「なってません!!」


「素直じゃないなぁー。あれ?」


 チークの手からmPadを奪い取った人がいます。

 誰かと思えば、婚約者のウォールです。


「なんだ、ウォールか」

「チーク、僕の婚約者を虐めないでくれるかな?」

「虐めてるわけじゃないよ、念のため確認しただけさ。見てみなよ、君の写真でいっぱいだよ」


「違! そうじゃなくて……」

 私が慌ててウォールからmPadを取り返そうとしますが、mPadを高くも持ち上げて、彼も帰してくれません。


「ちょっと、返しなさいよ!」

 飛びつけば、届きそうですが、淑女たる私がそんなことはできません。


「本当だな。それなら、これをこうして。はい、アカシア」

「あ、ありがとう」


 ウォールは、mPadを少し触ってから、私に返してくれました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る