ストーカー行為は程々に
第6話 王太子の側近達 (ウォール)
「おい! ウォール、また来てるぞ!」
学院の食堂で、王太子のローレル殿下と俺を含めた五人の側近達が集まり、昼食をとっていると、側近の一人であるイチイが俺に目配せしてきた。
彼の名前は、イチイ・パウアマレロ。父親は、伯爵で、騎士団長をしている。ちなみに、彼自身も剣術がランク5で、騎士団長を目指している。
体格も良く、猪突猛進、脳筋タイプだ。
年齢は、俺やローレル殿下と一緒で、彼も幼い頃から一緒にいた、幼馴染の一人だ。
イチイに言われて、俺がそちらを見ると、慌てて婚約者のアカシアが柱の影に隠れた。
「愛されてますねー」
マカバ先輩がニヤニヤしながら、俺のことをおちょくってくる。この先輩は!!
「マカバ先輩、からかわないでください!!」
学院の入学歓迎パーティーで婚約破棄宣言をして以降、アカシアは毎日隠れながら俺を見張っている。
彼女の奇行は毎度のことだが、今回は、一体何がしたくてストーカーを始めたのだろうか?
「そういえば、あの後、ちゃんと話し合いを持ったのか?」
ローレル殿下が、パーティーでの騒動の後始末を確認してくる。
「……。いえ、まだですが……」
俺が、正直に答えると、殿下は呆れた様子だ。
「そのせいだろう。いっそのこと、今、こちらに呼んだらどうだ」
「それはご勘弁を」
アカシアをここに呼べば、また、厄介なことになるのは間違いない。俺は丁寧に殿下にお断りを入れた。
「レイが言ってくればどうだ。お前の交渉術なら付き纏わないように説得できるだろう」
イチイが、我関せずを決め込んで、食事を進めているレイに話を振った。
レイ・インディア・シルバーグは、交渉術がランク5だ。おまけに、アカシアと同じ公爵家で、幼い頃はよく行き来していたようだ。いわゆる幼馴染というやつだ。
「嫌ですよ! 交渉というのは、言葉が通じる人とするものです。話をまるで聞かない人と交渉なんてできませんよ」
レイは、食べるのを止めずにイチイに抗議した。
「随分な言いようだな?」
「イチイは、彼女のことをよく知らないからそんな事が言えるんです。彼女には子供の頃から懲りてるんです。ウォールには彼女を引き取ってもらって感謝していますが、彼女に関わることは勘弁してください」
レイは子供の頃、かなり酷い目にあっているのだろう。
爵位的には同格だから、縁談話があったのかもしれない。
それが進まず、俺のところに回ってきたのだから、余程相性が良くなかったのだろう。
レイは、見た目も良く、話術に長けているため、女の子にモテるが、本人曰く、女の子は苦手らしい。もしかすると、アカシアのトラウマなのか?
「あれで、隠れているつもりなのかな?」
苛立たしそうに、チークが呟いた。
チーク・ホースチェスは、殿下や俺より一つ年下で、伯爵家の三男だ。諜報術がランク5で、隠密活動を得意としている。
いたずら好きの、やんちゃ坊主だ。
ここまでの紹介で、おわかりいただけただろうか?
そう、ローレル殿下と、俺を含めたその側近が全員ランク5の素質持ちということだ。
伝説級といわれているランク5が、これだけ集まっているのは異常なことで、それだけに、殿下と俺たちへの周りからの期待も大きい。
まあ、俺がランク5なのは、魔術なので、今更、誰も期待していないだろうが。
それに、それでなくても今更な魔術ランク5なのに、男爵の娘が入学してきたことにより、同じ学院に魔術ランク5が二人もいることになってしまった。これでは、希少価値もなくなってしまう。
大体、俺が殿下の側近にいる意味があるのだろうか?
折角、入学した学院であるので、卒業はしたいが、卒業したら早々に暇をもらって、領地に帰ることにしよう。
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