第5話 聖女候補 (アカシア)

 私は、サンタマリアにドレスを脱がせてもらいながら、今日のことを思い返します。


 歓迎パーティーの前、講堂で新入生を集めて式典と説明会がありました。

 その時、遅れて講堂に入ってきたのが男爵の娘のカリンさんでした。


 最初、私は彼女に見覚えがありましたが、どこで会ったか思い出せませんでした。

 特徴的な、ふわふわのローズピンク色の髪は、一度会えば忘れるはずがありませんのに。


 モヤモヤした気持ちでいたら、どなたかが、カリンさんが聖女候補であると噂しているのが聞こえてきました。


 聖女候補ということは、カリンさんは、よほど魔術の素質があるのでしょう。

 ですが、お婆様の時代ならいざ知らず。今の時代、聖女といわれても「今更ですか?」と言ってしまいそうです。

 魔道具が発展した現在では、聖女は教会のお飾りでしかありません。


 しかし、聖女候補の話しを聞いて、私のモヤモヤが晴れました。

 そうです、カリンさんは『予言の書』に出てくる聖女候補とそっくりだったのです。


 私は、聖女候補が出てくる『予言の書』の内容を思い出します。


 そこには、とんでもない未来が書かれていました。


 重要な登場人物は三人。公爵令嬢とその婚約者、そして聖女候補の男爵の娘です。


 内容は、聖女候補の男爵の娘が、公爵令嬢の婚約者に横恋慕し、公爵令嬢に虐められたと嘘をつき、公爵令嬢を悪役令嬢に仕立て上げるのです。

 公爵令嬢の婚約者は、その話を鵜呑みにし、公爵令嬢とは政略結婚であったため、本当の愛に目覚めたと言って男爵の娘に浮気します。

 そして、学院の卒業パーティーで婚約破棄を宣言し、男爵の娘を虐めたと、公爵令嬢を断罪するのです。


 ですが、それは聖女候補の男爵の娘が、公爵令嬢を陥れるための嘘で、手の込んだ罠であることが発覚し、男爵の娘と元婚約者は投獄されることになってしまいます。

 一方、公爵令嬢は、遠国より留学していた王子に見初められ、王子の故郷に嫁入りすることになるのです。


 私には、これは、私とウォール、それに、カリンさんの未来が書かれたものだと、直感でわかりました。


 一応、公爵令嬢は、遠国の王子と結婚して、ハッピーエンドなのでしょうが、私としては納得がいきません。


 なぜ、私がウォールに浮気をされて、婚約破棄を宣言されなければならないのでしょう。そんなこと、私のブライドが許せません。

 それに、私はお婆様の意志を継ぐため、遠国に行くわけにはいかないのです。


 それなら一層のこと、浮気される前に、ウォールにこちらから婚約破棄を宣言してしまえばいいのです。

 そうすれば、私のブライドも傷つけられることもなく、すぐに婚約を破棄することにより、新しい婚約者を吟味する余裕もできるでしょう。


 それに、そうすれば、ウォールが投獄されることはないでしょう……。


 良い考えだと思って、新入生歓迎パーティーで婚約破棄を宣言したのですが、結果から言えば失敗でした。

 ウォールには拒否されてしまいましたし、王太子からは注意を受けてしまいました。


 何か、こちらの非にならないような形で、婚約破棄をする方法を考えなければいけません。


 私が考え事をしているうちに、サンタマリアは私のドレスを全て脱がすと、ドレスに、復旧<リカバリー>の魔法を掛けてからクローゼットにしまいます。そのうえで、私の全身に、洗浄<ウォッシュ>の魔法を掛けます。

 いつものことながら、手慣れたものです。


「お嬢様、お食事はどうされます?」

「パーティーで食べてきたから、今日はいいわ」


 私は、さっぱりしたところで、パジャマに着替えさせてもらいベッドに入ります。


「お嬢様、考え事はそれぐらいになさって、今日はもう、おやすみくださいまし」

「そうね。今日はいろいろと疲れたわ。早めに休むことにするわ」


 サンタマリアは、照明の魔道具の明かりを消して、部屋を出て行きました。

 明日からでも婚約破棄に向けて動かなくてはいけません。

 私は目を閉じ、明日に備えて、そのまま眠りについたのでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る