第3話 王太子殿下 (ウォール)
「そんなものありませんわ! たとえあなたが、見た目が平凡で、剣術も学業も目立ったところがなく、面白い話の一つもできない、今更必要もない魔術しか取り柄のない、つまらない男だったとしても。それで婚約を破棄する気はありませんわ!」
一瞬、ダグラスとの関係を疑ってみたが、アカシアは全くダグラスの様子を気にも留めていないようだ。
俺の思い過ごしか――。
それより、いつものことながら、アカシアの俺へのディスりが酷いのだが……。
「アカシア、君の言っていることは全て正しいよ。だが、正しいからこそ、僕の心に突き刺さるのだが……」
「全く、メンタルはいつまで経っても弱いままですのね。そんなことでは、辺境伯などとても継げませんわよ!」
「ぐっ!!」
自分でも気にしている事を突かれて、ぐうの音も出ない。全く、彼女は容赦がない。
それを見かねて助け船を出す者が現れた。
「アカシア嬢、ウォールを虐めるのはそれ位にしてくれ、側近が使い物にならなくなったら私が困る」
「これは王太子殿下、お声がけいただき畏れいります」
アカシアは金髪の煌めく青年に膝を折って礼を返す。
金髪の青年は、この国の王太子である。名前は、ローレル・ハード・メイプル。
金髪に甘いマスク、引き締まったその容姿は、女の子だけでなく、同性の者も目を奪われるほどだ。
ちなみに、ローレル殿下は、カリスマがランク5である。
まさに、理想の王子像を現実にしたような方だ。
僕はこれでも、その側近の一人で、ローレル殿下とは同じ学年で幼馴染というやつである。
「それと、わかっているだろうが、二人の婚約は王命だ。勝手に破棄すれば王命に反くことになるからな。その事を弁えて、今後は発言に十分に注意するように」
「それは……、申し訳ございませんでした」
アカシアは再び頭を下げた。
流石にアカシアでも、ローレル殿下に直接言われれば、素直にいう事を聞くようだ。
これからは、毎回ローレル殿下に言ってもらおう。
「ウォール、いつまでいじけている。後腐れのないようにアカシア嬢とよく話し合っておけ」
「殿下、僕のライフはもうゼロです。これ以上アカシアと話したら完全に心が折れてしまいます」
「それだけ減らず口が利けるのなら大丈夫だろう。浮気はしないと誓約書でも書いておけばアカシア嬢も納得するだろう」
「完全に尻に敷かれる感じなのですが」
「それは、仕方ないだろう。では、後は二人でうまくやれよ。ウォール、次は私を当てにするなよ」
俺の考えを見透かしていたのだろうか、ローレル殿下は呆れた様子でそう言い捨てると、その場を離れていった。
周りで事の成り行きを見守っていた学生達も、これで終わりかと、それぞれの話に戻っていく。
そして、ローレル殿下から釘を刺されたアカシアは、婚約破棄を諦めたかというと、そんなことはなかった。
既に、どうすれば問題にならずに、婚約破棄できるか考え始めていたようだ。
「ねえ、ウォール、どうすれば、円満に婚約破棄できると思う?」
「そんなこと僕に聞かないでくれるかな……」
俺はアカシアと婚約破棄する気はないのだから。
「まあ、ウォールは私に冷たいのね!」
「おいおい」
「ふふふ。今のは冗談よ」
アカシアは楽しそうに俺に笑顔を向けた。
「どうせ冗談にするなら、婚約破棄を冗談にしてくれ!」
まだ続きそうな彼女の奇行に、俺は苦笑いをするのだった。
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