第52話 52、龍の国のミーナ 

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 ミーナは短い戦いを終えてから一年をかけて20隻の戦艦を新たに建造した。

元々あった20隻の戦艦と20隻の輸送船に加え、千姉さんが作ってくれた移民輸送のための輸送船20隻を加えると40隻の戦艦と40隻の輸送船からなる艦隊になる。

戦艦には十機の熱気球と20門の大砲がある。

移民の輸送に使われた輸送船には歩兵を乗せることができる。

一隻当り千名乗せることができるから4万人の軍勢ができる。

各兵士には百発の銃弾を持たせるから4発で一人を殺すことが出来れば100万人の敵を討つことができる。

 4万人の歩兵には四千人のエメラルド目兵がいる。

弓矢の届かない上空に浮かんで銃撃すれば安全に敵を倒すことができる。

小銃は軽いのでエメラルド目兵は長時間空中に浮かんでいることができる。

無敵だ。

 4万人の歩兵には四千人の緑目兵がいる。

爆弾は大石よりも軽いので遠くから敵の上空に爆弾を運んで落とすことができる。

蚩尤軍が黄王軍に負けたのは優れた鎧と優れた盾と爆弾が無かったためだ。

蚩尤軍の三つ目指揮官はいずれも十字弓の斉射で射られている。

弓矢を通さないミーナの軍の服鎧と前が見える大型の盾を持っていたら、そして地面に当れば爆発する火薬玉を持っていたら戦いの帰趨は違っていたのかもしれなかった。

 ミーナは輸送船には食料よりも多量の爆弾と焼夷弾を積載させていた。

戦争は詰まる所どれだけ多くの人間を殺すかだ。

兵士であろうと一般人であろうと同じだ。

攻撃する時は兵士がそれを行うというだけだ。

 ミーナの艦隊は大河の河口まで高速で進み、大河に入ると大河の中央をゆっくりと進んだ。

途中で水軍の軍事基地を見つけるとミーナは二千名のエメラルド目兵を上空に展開させ、小銃による個別射撃で岸辺から敵兵を駆逐させた。

その後、エメラルド目兵の援護の下に5小隊を敵の戦艦に遷移させ戦艦の火薬庫の火薬を爆発させて船を一隻ずつ沈めて行った。

今度の戦は人民の海との戦いなのだ。

なるべく味方の軍事物資は使わない方がいい。

爆弾を使わず相手を駆逐し、敵の火薬で船を沈めた方がいい。

 その日の早朝、ミーナの艦隊は目的地に到着した。

大河が大きな湖に繋がっている場所にこの王国の都があった。

大きさは変っていないように見える。

もともと肉眼では分らない大きさなのだ。

都を取り巻く城壁は地平線の彼方まで続いている。

直径が20㎞以上もあるのだ。

城壁の内部は家々がびっしりと建ち並び、縦横に石畳の道路が通っている。

畑や水田は城壁の外側にびっしりと出来上がっており。それは湖の岸まで続いていた。

 ミーナは湖に艦隊を進め湖の中央近くで投錨した。

戦いの作戦としてはもちろん良く無い作戦だ。

敵は湖の出口を閉じてミーナの艦隊を湖に閉じ込めることができる。

だが、ミーナはそれでいいと思っていた。

帰る時はこの都の近くには誰も居なくなっているはずだった。

入口を閉じられてもステッキの分子分解銃で障害は排除できる。

 その日は無風だった。

ミーナは熱気球の全機に爆弾と焼夷弾を満載させて出撃させた。

熱気球は50m間隔に紐で結ばれており、全長で20㎞の長さになっていた。

その長さでも眼下の都を囲むことは出来なかった。

都の周囲長は60㎞以上ある。

熱気球が配置に着くとミーナはヘッドギアの出力を上げて静かに宣言した。

 「眼下の都の者達、私の声が聞こえるか。私は龍の国のミーナ。一年前にこの国の兵士100万人が我が国に攻めて来た。龍の国は攻撃に対しては反撃し報復する。私はこの国に反撃するためにここに来た。今からこの都を攻撃する。攻撃に抵抗するのは当然の権利だ。自由に反撃しても良い。これは宣戦布告だ。私は礼を尽くした。我が国に攻め込んだ軍は宣戦布告をしなかった。突然攻撃して来た。山賊や無頼の賊と同じだった。これから無頼の賊の本拠地を攻撃する。この町の住民は下品な賊の味方だったことを後悔するがいい。龍の攻撃だ。攻撃開始。」

 熱気球は城壁の内側の家々に向かって環状に24個の爆弾と焼夷弾を投下してから熱気球を結んでいた紐を外して城壁の外側の高空に逃れた。

紐の長さの50mに12発の爆弾と焼夷弾を家々の屋根に落とした。

城壁の内側の20㎞が炎を吹き出した。

熱気球は高空で再び紐で結ばれロボット小隊長に引かれて次の攻撃点である反対側の城壁に向い、高度を下げてから残りの12発の爆弾と焼夷弾を城壁に沿って投下した。

 爆弾を落とし終えた熱気球は高空で一つになり、艦隊に戻って爆弾槽を付け替え再び高空に戻った。

戦艦の甲板には爆弾の詰った爆弾層が20個並べられていた。

三回の出撃を予定していたのだ。

熱気球は浮かんだまま空の爆弾槽をゴンドラの底から離し、新しい爆弾槽に付け替える。

必要な時間は100秒もかからない。

 次の攻撃は高空から行われた。

高空からの攻撃では精度は落ちるが、眼下の大火には近づけない。

結局2回の出撃によって城壁の内側は炎の壁になった。

黄金の国の首都を攻撃したときと同じ方法だったが規模が違った。

この都の方が桁違いに大きかった。

都の家々は大部分が木造であった。

焼夷弾でたやすく炎を上げる。

 都の中央はまだ何事もなかったが周囲は炎を吹き出していた。

誰も逃げ出せない。

炎の外側から空気が流れ込んで炎の旋風を巻き起こし、旋風を外れた炎の舌が家々を一なめすると家々は炎を吹き上げる。

城壁の外に出ることが出来たのは城壁を守っていた兵士だけだった。

ミーナの軍はその兵士達を討つことができなかった。

猛烈な火災風が城壁側から町の方に流れ込んでいるので熱気球では近づけなかったからだ。

 都の火災は4日間続いた。

鎮火した後の都は一面の白い灰で覆われていた。

人間の形を留めた焼死体はほとんどなかった。

奇麗な白い灰で覆われた平地となっていた。

どれだけの人間が死んだのかさえ分らなかった。

 都の中央の宮殿も焼け焦げた土塀と石垣を除いて全て焼け落ちていた。

宮殿に植わっていた多数の大木も根元を残して燃え落ちていた。

国王の生死は不明だが4日間燃え続けた場所に隠れていることはできないはずだ。

たとえ地下に逃れていても火災の中央では酸素が無くなる。

焼かれなくても窒息する。

 ミーナは艦隊に熱気球を格納し湖の対岸に向かった。

蚩尤の国の都がどうなっているのか知りたかったためだ。

山の中腹にある平原に蚩尤国の都があったはずだった。

その山の平原は大きな町になっていた。

そこも豊かな町だった

もともと大河があり、平地に多数の湖があれば、農産物は広範囲に亘って作られ、多くの人々が生活することできる。

黄王国はそんな国だ。

 ミーナは熱気球に爆弾を満載させ全機を出撃させた。

先頭の熱気球にはミーナ自身が搭乗した。

町の周辺の森も含め環状に爆弾と焼夷弾を落とし、町を消滅させた。

そこではミーナは攻撃の前の宣言を行わなかった。

正当な理由が無かったからだ。

この町が黄国王の軍勢に残酷に皆殺しされた時のことが思い出され、女の感情に駆られて町の殲滅を命じ、最初の爆弾をミーナ自身が落とした。

ミーナの軍勢の古参兵はミーナの攻撃命令を理解できたが新兵はいつもと違うとしか理解できなかった。

 ミーナは大河を下る途中で見つけた大小の町を悉く灰に変えて行った。

それらの町への攻撃は皆殺しを図るものではなかった。

この国の住民に龍の国の恐ろしさを植え付けるためだった。

「龍の国のミーナだ。復讐を始める。」

それが攻撃前の宣言だった。

結局40隻の巨大な輸送船に積まれていた爆弾を使い切ってミーナの艦隊は日輪本国に戻って行った。

 歴史は取捨選択で書かれる物語だ。

取捨選択をすることは間違いではない。

全てを書き残すことはできない。

黄王国の歴史書には蚩尤との戦いには龍の応援があったことが記述されたが、その後の龍による都や町の消滅は記載されなかった。

黄王国は龍の国ではなく龍に嫌われた国なのだ。

黄王国に続く王国では「東の龍の国には手出しをしてはならない」という遺言が代々の王に伝えられた。

その遺言が伝えられている間は日輪本国への攻撃は行われなかった。

 その後、日輪本国は発展した。

多くの町に多くの学校が出来上がり文字と学問を教えた。

多数の大型船が作られ水産物も町の家庭の食卓に上がるようになった。

軍隊の輸送船ほど高性能ではなかったが冷凍庫ができたからだった。

大型船の建造は日輪属国との交流も盛んになり、日輪属国にも共同体の言葉が導入された。

北の大陸にも共同体国の言葉の構造を持つ言葉が伝えられたのだ。

 子供の数も増えた。

今では三分の二の男の子供が額の目を持ち、残りは二目だ。

やはり不思議の目はあの共同体国のあった位置に依っていたのであろう。

日輪属国から連れてきた娘と結婚した三つ目にも子供ができるようになった。

それと同時に不思議の目の力も衰えて来ているようだった。

それを使うのが辛いようで、めったに使わなくなっていた。

 銀狼と大陸の娘の間に生まれた女の子は多感な時期に輸送船で育った。

みんなにかわいがられ、操船に関して多くの知識を教えてもらった。

長じて輸送船の船長になったが部下の三つ目の船員と結婚し男の子を生んだ。

子供の目には不思議の目はなかった。

 ミーナは40歳頃になると学校の自宅から出て町の中の一軒家に住むようになった。

千の若く美しい変らない姿は容姿の衰えたミーナには耐えられなかったからだった。

広い庭園を持ち、少数の召使いが家を維持していた。

年寄のようなゆったりとした服を着て、時間があれば文章を記述していた。

服鎧はとっくに着なくなっていた。

黄王国に遠征したときが服鎧を着た最後だった。

ミーナの軍における地位ははっきりしなかった。

総司令官であることは確かだが大将なのか元帥なのかその上なのかははっきりしていない。

どのみち、軍での地位はミーナが決めるのだ。自分の地位を決めて何になろう。

 ミーナは自叙伝を書いていた。

千姉さんと出会って金目の町に出かけて学校を作って共同体を作って黄金の国を併合し艦隊を連ねて冒険の旅に出かけて黄国王と出会って無人の島国を発見し共同体国からの移民を運んで大地震で故国の共同体国が海に沈んだことを見た。

記述を続けながら自分はなんと波瀾万丈な人生を過ごすことができたことだろうと思った。

 全ては河原で千姉さんに助けてもらったことから始まる。

長年つき合っているのだが千姉さんのことは何も分らない。

ミーナにとっては大切な長い人生なのだが何千万年も生きている千姉さんにとってはほんの瞬(まばた)きをするだけの時間でしかない。

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