第51話 51、大地震と日輪本国 

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 千姉さんは知っていた。

「そうらしいの。私には予知はできないのだけど多くの黒目学生が危険が迫っていると言い出したの。それで国中が浮き足立っているの。とりあえず20隻の移民用の輸送船を作ったのだけど操船出来る兵がいないの。ミーナの艦隊から人を割ける。」

「大丈夫です。20隻くらいなら今の倍ですから戦艦の方からも兵士を割くことができます。」

「資材と食料も積まなければならないから一隻当り千人ね。合計40隻だから4万人か。2往復すれば本国の人は運ぶことができるわね。」

 「今回は移民の方には苦労をかけると思います。いつもなら家が出来るまでは船で待っていてもらっているのですが、今回は下船をしてもらうことにします。基地と学校を主な収容先にしようと思います。」

「仕方がないわね。」

「併合した黄金の国の人々も当然知っているわけですね。」

「知っていると思うわ。でもどうにもできないの。」

「出来る限り何度も往復することにします。」

「ミーナ。運が悪ければ地震に出会うわよ。おそらくこの地が震源地だから。海が持ち上げられるか大穴が開くわ。輸送船では耐えきれないと思う。よほど不安定な地殻だったのね。だから三つ目が生まれたのかもしれないけど。」

 「黒目兵に危険を見張らせます。空荷なら危険が迫れば熱気球で空に逃げます。移民が乗っていたら外洋に逃げるしかありませんがあとは運まかせですね。千姉さんは大丈夫ですか。」

「そうね。もう少し経ったらフライヤーで暮すわ。」

「島の学校には千姉さんの自宅があります。調度はまだ整っていませんがこことそっくりです。」

「ありがとう。ここが沈んだらそちらに移るわ。」

 2往復を終えて三回目の輸送のために共同体国に向かっている最中に大地震は起った。

共同体国は一気に地中に落ち込み、黄金の国からずっと先の山まで地中に落ち込んだ。

まるで大きな空洞に落ち込むようだった。

大陸の北、共同体国の地下から始まり大陸の中央を南北に走る大きな地溝ができた。

海の水は地溝に沿って流れ込んだが大陸の中央部に達するのに一日以上がかかった。

その間にも地震は続き、大陸の分断の切れ目は南に進み、とうとう二つの大洋は大陸の真ん中を通る深い海で繋がるようになった。

 北側の大陸と繋いでいた陸橋の大地は共同体国の方に向かって沈み込むように流れ落ち、海となった。

二つの大陸は離れることになった。

大気は静電気を生じ多数の落雷が大地に落ちた。

一日経つと海の動きは収まり土色に濁った色の海になっていた。

共同体国も黄金の国もその存在を示す物は何も無くなっていた。

広い範囲で陥没したのだ。

海水がもの凄い勢いで流れ込んだので共同体国の位置には浮遊物も無かった。

 ミーナは神に感謝した。

ミーナの艦隊は無事だった。

ミーナの艦隊が大陸の陸橋付近に行っても辺りに陸地はなかった。

南に進路を取ると共同体国があるはずの場所は大海原になっていた。

ミーナは多数の熱気球を高空に飛ばせて状況を観察した。

大地は共同体の位置を中心に円形の海ができており、その南側はずっと真直ぐに南北に伸びる巾が50㎞もある海になっていた。

ミーナは大急ぎでその地を去った。

次の陥没がいつまた起らないとも限らないからだ。

反動で隆起も起るかもしれない。

津波が生ずる。

いずれにせよこの場所から逃げ出すことが肝要であった。

 併合した黄金の国の一部の住民はこの地震から逃れることが出来た。

地震が近づくと全ての黒目は危険を察知して家族や知り合いを引き連れて四方に逃げ出した。

方向は東と南と西であった。

南に向かった人々はどこまで行っても危険の予知は消えなかった。

西に逃げた人々も絶望を感じながら大陸を縦断する地震に死んでいった。

東に向かって早期に逃げ出した人々だけが生き残ることができた。

出発を遅らせた人々はたとえ東に逃げたとしても地震に巻き込まれた。

ほんの少数の人々が共同体国の言葉と優れた科学技術を携(たずさ)えて生き残ることができた。

 ミーナは空の船団を引き連れて基地に戻って共同体国と黄金の国の周辺は全て海になっていたと報告した。

移民した皆は故郷の消失を悲しんだが、事実を納得していた。

移民を選択したことが正しかったと幸運を感謝した。

千姉さんは学校の自宅に既に居たし、銀鬼もマイも学校に住んでいた。

地震が起ると千は銀鬼とマイを探し出し、フライヤーに載せてここに連れて来たのだった。

銀鬼とマイは自宅の庭で兵士による集団移転計画を話している最中だった。

キン市長と金鬼老人は最初の地震で家の下敷きとなって死んだ。

 大量の移民が一度に来たので混乱は生じたが落ち着く所に落ち着いた。

もう故国はないのだからこの島を故国にしなければならない。

国には名前が必要だ。

いつまでも「島の植民地」とか「共同体国東植民地」では格好がつかない。

 千は『日の出の国』にしたらと提案したが『出』の字が国を出たような気がするという厳しい意見があって『日輪国』に訂正した。

準備のいいことで、周りに植民地ができたらそこを『日輪属国』この島を『日輪本国』と呼んだらいいと決まった。

この島は『日輪国』、正確には『日輪本国』となった。

誰も反対はなかった。

かっこういい名前なのだ。

 ミーナが40歳に近づいた頃、黄王国からの多数の軍船が日輪本国の北西の海上に現れた。

この頃、日輪本国は対岸の多くの町を侵略し、それらをまとめて広大な日輪属国を作っていた。

対岸の大陸の海岸線に沿って属国を作ることは日輪本国の安全保障でもあるのだ。

日輪本国を攻めるためには日輪属国を最初に攻めなければならない。

そんな動きを黄王国は危機感を持ったのであろう。

黄王国は1000隻もの大型軍船に100万人の兵を乗せて日輪本国に押し寄せて来たのだ。

 この時、既に黄国王は死んで後を継いだ養子が国を統治していた。

大型戦艦は黄国王の時代からずっと作り続けられていたのだった。

それはもちろんミーナの国と争うためではなくミーナの国と国交を樹立するためだった。

龍の国のミーナと争ってもとても勝てるわけはない。

国交を樹立し、大量の貢ぎ物を送れば誰だって喜ぶはずだ。

龍の国は戦争を仕掛けて黄王国を滅ぼすよりずっと楽だと考えるはずだ。

うまくすれば人民の海に龍を溺れさせることもできるかもしれない。

 そんな構想を後を継いだ国王は知らなかった。

蚩尤との争いでは龍が味方をしてくれたという伝聞しか聞いていなかったからだ。

黄国王の死は突然だった。

優れた薬学の国だから毒でも盛られたのかもしれない。

黄王には嫡子はおらず、幾人かの養子を跡継ぎ候補としていた。

突然死んでもらった方が都合の良い輩(やから)もいたのかもしれない。

 多数の人民と多数の軍勢と多量の物資と多数の軍艦を持っている黄王国を支配することになった新国王は王国の統治が届いていない町々とは言え、自分の大陸にある町を次々と併合し大きな属国を作っている国に怒りを持っていた。

そんな国はこれまで聞いたこともなかった。

1000隻の軍艦に100万人の軍勢を載せて攻め込めばどんな軍勢でも打ち破れるはずだった。

 新国王は国民に勇気を示さなければならなかったが、軍勢と共に出発したらせっかく勝ち取った国王の座を奪われるかもしれなかった。

数名の候補者はまだ生きているのだ。

そんな理由で新国王は対立候補であった養子に組みしていた将軍に対岸の国を滅ぼすように命令した。

軍がいなくなれば自分の身は親衛隊が守ってくれる。

仮に戦に勝ったらその地を守るように命令してもいい。

兵士はいくらでも作ることができる。

 この頃の日輪本国は島を一周する道路が完成し、所々に町や市が出来ていた。

島を横断する道もいくつかで作られていた。

ミーナは道路が完成すると大型船の建造を許可した。

大型船は多量の物資を運ぶことができる。

ミーナの鉄道の構想は大陸のある半分だけ完成していた。

山をぬって反対側に伸ばすことができていなかった。

 ミーナは1000隻の軍艦が日輪本国の北西に来たという報告を受け、直ちに列車砲隊20部隊を日輪本国の西に向かわせた。

列車砲隊とは蒸気機関車と一門の列車砲と熱気球と歩兵を載せた列車で構成されている。

列車砲は戦艦の大砲よりも大きく重く射程が4000mと長い。

砲は列車に固定された円形の台座に乗っており直角まで旋回できた。

 ミーナが海岸線から50mの高さに道路を作り鉄道を通したのには列車砲の構想があったからだ。

この国の海岸線は長いし、敵はどこからでも上陸できて攻撃することができる。

防御施設がない海岸に大軍に一旦上陸されたら厄介極まりない。

そこには自国民が住んでいるのだ。

日輪本国は守ることが難しい国なのだ。

列車砲なら敵の上陸地点に素早く移動させることができるし、歩兵兵士も砲弾も容易に移動できる。

もちろん逃げるときも素早い。

 列車砲の弱点は上空からの攻撃だが列車砲の車列には熱気球も搭載してある。

要するに大砲と熱気球で武装した軍隊を敵の上陸地点に歩兵と共に素早く送り込むことができるのだ。

たとえ敵船が移動したとしても機関車の速度は船よりも早い。

たとえ敵船が小舟を連ねて上陸を試みても海岸線から鉄道までの距離は長い。

榴弾砲で駆逐できる。

そんな列車砲隊をミーナは20台の機関車に引かせて西に向かわせた。

列車砲隊は半日で現場に到着した。

 ミーナは自身20隻の戦艦を引き連れて現場に向かった。

遠征ではないので輸送船は連れて行かなかった。

戦艦は15年前の軍艦だが十分に使用できた。

ミーナにとって軍艦での指揮は移民の輸送の時以来であった。

遠征の時には戦艦には5小隊55名の兵士が乗船していたが、今回は10小隊110名を乗せた。

 ミーナはエメラルド目の偵察兵を上空に浮かべ敵艦隊を捜していた。

熱気球を打ち上げるには時間がかかる。

一機を打ち上げるのは準備されているから容易だが、十機全機を爆弾槽を吊り下げて飛ばすには時間がかかる。

ミーナは敵艦が水平線上に見える前から次々と熱気球を打ち上げて敵艦が見えた時には爆弾と焼夷弾を満載した二百機の熱気球は青空に一列の点となっていた。

 熱気球には金目兵と緑目兵が乗った。

緑目は熱気球を操船し、気球同士を繋ぐ細紐を繋げたり離したりした。

緑目のテレキネシス能力が役に立つ。

金目は爆弾を落としたり周辺を警戒したりした。

 熱気球の最大積載量は420㎏だ。

ゴンドラの下に取付けられた爆弾槽には10㎏の爆弾と10㎏の焼夷弾が12個ずつ、240㎏が4列6列の升に並べられている。

各升には紐が付いており、紐をゴンドラから引けば爆弾を落ちる仕組みになっている。

簡易の照準器もゴンドラの底に付いている。

敵の軍船が一個の爆弾と一個の焼夷弾で火災を起こして戦闘不能になったとしたら一機の熱気球は最大でも12隻を攻撃できる。

二百機の熱気球では2400隻になる計算だった。

 敵の艦隊に近づくと既に戦闘が始まっていた。

1000隻の戦艦は陸地に沿って一列に並び、小舟を降ろして兵士を満載して陸地に向かおうとしていた。

戦艦の列と岸の間には数隻の戦艦が破壊されて浮かんでいた。

もっと岸に近い位置で小舟を降ろそうとして列車砲の餌食になったのであろう。

おそらく慌てて今の位置まで後退したのだろう。

ギリギリで間に合ったようだった。

敵兵が上陸していたら厄介なことになっていた。

 ミーナはヘッドギアの出力を上げて言った。

「私はミーナ。列車砲の部隊は岸辺に向けて榴弾の発射準備をせよ。戦艦は狙うな。繰返す。洋上の船は狙うな。熱気球が攻撃する。列車砲隊の歩兵は敵兵が近づいたら発砲せよ。」

そう命令してから熱気球は洋上の浮かぶ戦艦の端から順に爆弾と焼夷弾を2発ずつ落として行った。

1時間ほどで洋上の敵艦は全て火災を起こしていた。

 爆弾を落とし終えた熱気球は戦列を離れ、戦艦で爆弾槽をはなしてから4名の小隊兵士を乗せて戦場に戻って来た。

上空から小銃で小舟や海岸にいる兵士一人一人を狙い撃ちにしていった。

相手の弓兵の矢は届いても威力は無くなっていた。

重い鎧を脱いで小舟から海に逃げた者もいたが、ミーナは海に浮いている者も殺すように命令した。

一人として黄王国に戻してはならないと考えたからだ。

ミーナは3時間ほどじっと敵戦艦が燃えて沈む様子を眺めていた。

海に飛び込んで逃れようとする兵士には上空から銃弾を浴びせ海に沈めた。

海に浮いた兵士は空を仰ぎ、殺されるのを待つだけだった。

 海が浮遊物だけになると、ミーナは列車砲隊の歩兵に海岸に散乱する敵兵の遺体の確認を行わせた。

少しでも息がある者には確実に銃弾を打ち込んでいった。

ミーナ軍の完勝であった。

たとえ運良く戦場を離れることが出来た敵兵がいたとしても、この国で人に紛れて生き残ることは難しい。

言葉が通じないし、額に目が無い男は目立ちやすい。

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