第50話 50、島の軍事基地 

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 一ヶ月経つとミーナの艦隊の兵士や乗組員は全員戻って来た。

艦隊にいる間にはお金の必要はない。

食事も衣服も全て無料で支給される。

兵士の俸給は高い。

命令に絶対的に従わなければならないし、命をかけての戦いを命令されれば行わなければならないからだ。

 軍隊に居たいか居たく無いかは司令官による。

部隊が戦に負ければ死ぬのだ。

兵士達は長い航海を通して艦隊司令のミーナは信頼できる司令官であることを知った。

作戦の隅々にまで目を通して兵士に危険な任務を命令しない。

兵士の日々の生活にも気を配っている。

何よりもミーナは公平であった。

悪いことをすれば罰は厳しい。

基本的には同等報復律を採用している。

命令以外で人を殺せば殺した兵士は船縁から海に飛び込むように命令される。

その命令に従わなければ命令違反として殺され、遺体は船縁から海に投げ捨てられる。

 建設資材と建設道具と備蓄食料を満載してミーナの20隻の戦艦と20隻の輸送船からなる艦隊は東に向かって出航した。

輸送船には千の学校の卒業生男女百名が卒業後義務として輸送船に乗り込んでいた。

銀狼夫婦は共同体国に上陸するよりミーナの遠征にそのまま参加することを選んだ。

そして驚いたことに、夫婦の間に子供が生まれたのだった。

五体満足な可愛い女の子であった。

ミーナは千姉さんに連絡を取り、子供用の絵本を持って来てくれるように頼んだ。

千は直ちに絵本を積んでフライヤーで輸送船を訪れ、三つ目と二つ目の間に出来た奇跡の女の子の笑顔を微笑みながら眺めてから帰っていった。

 ミーナは何事もなく島の西端に到着した。

西側から北に向かって艦隊を進め再び東に向かって進めた。

軍事基地の位置としては大陸側の西側、丁度黄王国に最も近い場所が適していると考えた。外敵が攻めて来るとしたら大陸側から来る。

この前の航海で出会ったような嵐は海で生まれることは学んでいた。

嵐が大洋で生まれるのなら、大陸側は山で遮られて被害は少なくて済むはずだ。

ミーナは湾ができていて水深の深い地形を捜した。

そして程なく適地を見つけた。

山が海に斜めに突き出し大きな深い湾になっている場所だった。

湾の奥は広い平野が広がり、大きな川が湾に流れ込んでいる。

山からの栄養が湾に流れ込み豊富な水産資源も得られるはずだ。

何よりも気に入った事は外海からは湾の奥が見えないことだった。

町が整備されるまでは外から心配の種はもらいたくない。

 ミーナは岸の近くに艦隊を停泊させ多数の偵察兵と熱気球を上げて周辺の詳細な地図を作らせた。

少なくとも20㎞方形の地図が欲しかった。

一緒に乗って来た教師達が地図の製作に携(たずさ)わった。

兵士は最初に海岸に大きく長い桟橋を作った。

製作には兵士の不思議の目が多いに役立った。

ミーナは朝早くから暗くなるまで兵士を働かせた。

重複する3交代制で働かせた。

夜は全員が船で眠った。

野営は余計な仕事が増えるし、風呂に入ってゆっくり眠る方が疲れない。

 大岩のような大きな障害にはミーナはステッキの分子分解銃を使った。

親衛隊のロボット小隊長の指先に仕込まれている分子分解銃は使わせなかった。

ロボット小隊長は兵士の作業を指揮したが自らが作業に加わることはなかった。

ロボット小隊長の仕事は学校の建設であった。

千の学校と同じ学校を作ろうとしていた。

建材は全て輸送船に載っていた。

 小高い岡を山も含めて分子分解銃で平地に変えてから始めた。

もともと千の学校は十名のロボット兵が全てを作った。

材料があれば2名のロボット小隊長にも出来ないはずがない。

ミーナは黄目兵2名を学校建設に派遣した。

井戸に必要な水脈はロボット兵には分らない。

千の学校の井戸の位置は千が予め水脈を調べておいたから容易に出来たのだった。

学校の校舎と宿舎とミーナと千の自宅(別荘)もでき、井戸の横に櫓と風車が作られた。

学校に関しては共同体国の学校と同じになった。

そして学校がこの未開の島国の最初の本格的な建物になった。

 学校の宿舎には男女百名が住んだが最初に行う者の悲哀を感じた。

食物も衣服も不足はなかったが全てが最初からだった。

ここに来る前は学校の学生で教師になるための教育を受けた。

学校にはそれまでの学生が作り上げた様々な物が全てあって学生はそれを発展させれば良かった。

この学校では何もない。

鉱山もなければ製鉄施設も製油施設もなかった。

先ず、全員で山を歩き回って原料となる物の鉱脈を見つけなければならなかった。

ミーナは「最初の学生さんもそうだったのよ。文明を無から創り出すのは大変なの」と言って慰めた。

 三ヶ月経って駐屯地が出来上がった。

多くの建物が建ち、大砲が配置され、熱気球の格納庫も建てられた。

長い建物が建てられ、輸送船に載せてあった物資が整然と保存され、場所と個数が記帳された。

輸送船と同じようにソーラーパネルが屋根に張られた冷凍倉庫も作られた。

大量の米と冷凍野菜があれば数年は生きられる。

 ミーナは輸送船が空になると50小隊を基地に残し、艦隊を共同体国に戻した。

基地の兵士には海沿いに沿って同じ高さの道を作るように命じた。

指揮官には黒目の小隊長を指名し、危険を察知したら山に逃げ込めと指示した。

ミーナは共同体国に着くと直ちに大量の物資を輸送船に積み込み100小隊1100名の兵士を戦艦に乗せ、千名の若い女奴隷を輸送船に乗せて基地に向かった。

 ミーナは島への航海の間、女奴隷達に共同体国の言葉を教えた。

もともと奴隷達が奴隷である理由は共同体国の言葉が話せないからだ。

話せるようになれば奴隷から解放される。

言葉が最初から全く通じない状態で言葉を覚えるのは難しい。

奴隷の出身地はバラバラであり、そこでの言葉も違っている。

奴隷間の会話も難しい状態だった。

 ミーナのヘッドギアは共同体国の言葉を教えるのに最適だった。

単語から始まって単純な会話を覚えさせる。

そうすれば奴隷間の会話もできるようになる。

言葉だけでなく文字も教えた。

輸送船の色々な場所に平仮名で書かれた色々な説明文が貼付けられた。

その文字を発音すれば、それは共同体国の言葉になる。

船旅の間は何もすることがないので女奴隷達は必死に言葉と文字を覚え、島の基地に着く頃には言葉が流暢に話せるようになっていた。

女奴隷達はミーナに感謝した。

 ミーナは女奴隷達を形式的な言葉の試験を通して全員を奴隷から解放させ、全員を兵士に採用した。

兵士に採用すれば俸給が約束されるし衣食住は無料となる。

女兵士の軍事教練は親衛隊のロボット小隊長が行った。

ロボット小隊長には人の心根が見える。

誰が小隊長に適しているのかを心の色で見ることができる。

 武器の扱いを教え、小銃も大砲も正確に射つことができるようになり、熱気球の操縦も可能になった。

もともと致死的殺傷力をもつ武器を使った戦いでは兵士の男女間の差はほとんどない。

白兵戦になる可能性は少ないし、大砲を射つのに男女は関係ないし、射たれて死ぬのも男女は関係ない。

一通りの軍事訓練が終わるとミーナは千名の女兵士を90の小隊990名に分割した。

小隊長を定め、男の兵士と同等に扱った。

残りの十名の兵士は学校の炊事担当とした。

 今や新しい駐屯地は150小隊の男兵士と90小隊の女兵士の大部隊となった。

ミーナは男新兵50小隊を山に派遣し、教師達の鉱石探しを手伝わせた。

とにかく鉱石が見つからなければ金属は作れない。

残りの男新兵50小隊には水田の開発を命じた。

川から用水を導き水田を作っていく。

女小隊には道路の造成を命じた。

道路の造成には女兵士を訓練したロボット小隊長を着けた。。

道路の造成でどうしようもない時には分子分解銃の使用を許可した。

戦艦2隻には周辺の海を連なって哨戒するよう命じた。

 三年間が経った。

ミーナも20歳代の後半になろうとしていた。

ミーナの正確な年齢は分らないのだが、もう小娘では無くなっていた。

基地の周辺には広大な水田が出来上がり、工場も出来た。

付近の山々は共同体国の山々と同じように宝の山だった。

多種の鉱物が産出された。

町が基地を囲むようにできていた。

水田や工場が出来ればそこで働く人が必要であり、人が集まれば町が出来て行く。

町が出来ればそこには行政を行う機関が入り込んで来る。

ミーナの艦隊はこの地に来たい人々を運ぶ連絡船の役割をした。

 連絡船は今の所、まだ一方通行だった。

この島で作る米も金属製品も既に共同体国では有り余る物であった。

基地周辺の町は自給自足の町になっていた。

軍隊の仕事はひたすら道路を造る仕事だった。

大陸側の海岸に沿って高さが50mの水平な道を造って行った。

町がどこに出来ようと広く安全な道は町の間の交流を生み共同体国の言葉が話されることになる。

 小さな町の基盤は水田と山だった山から鉱石を採取したり、木を切り出して、それらを処理できる大きな町に運んで行く。

対価として得られた金の小粒で必要な物資を購入する。

ミーナは道をもう少し拡張して鉄道を通せたらいいと思っていた。

共同体国では既に蒸気機関車は出来ているのだ。

 ミーナは金の小粒を円盤状の金の貨幣に変えると共に銀貨と銅貨をも造った。

そしてその価値を決定させた。

貨幣には刻印がなされた。

この島国では金も銀も銅も豊富に採れた。

金貨も銀貨も銅貨ができたことで物の価値は正確に価格として表わされることになった。

金の小粒の使用は急速になくなった。

 ミーナは大型船は建造させなかった。

大型船があればこの島のどこにでも行くことができる。

そうすれば自分たちの町を作ることができる。

それでは制御が出来なくなる。

あくまで道路を交通の主体として広げて行くことが肝要だと思っていた。

もう少し民生が安定したら町ごとの税金を徴集できる。

それには道路が出来ていなくてはならない。

 町では子供も生まれていた。

大部分の男の赤ん坊には額に不思議の目を持っていたが不思議の目を持たない男の子も生まれる場合もあった。

やはり、あの共同体国の土地が問題だったのだ。

あの地の人間だけが不思議の目を持つようになるのだ。

ミーナは次々と運ぶ移民達には「数世代後には額の目は無くなるかもしれない」と伝えてから乗船を許可した。

 ミーナは移民の希望者の絶えないことが不思議だった。

共同体国は満たされている。

市民生活も豊かな生活を享受している。

辺りに敵はいないし、軍隊も圧倒的に強い。

そんな国を離れて移民を希望しているのだ。

市民の誰もが冒険に燃えているわけではないだろう。

 ある時、ミーナは船の中でミーナの黒目族の長老様に出会った。

長老様は部族の全員を引き連れてミーナの移民船に乗ったのだと言った。

「なぜ移民なさるのでしょうか、長老様。」

「ミーナ、もう立派な大人になったな。・・・ミーナ、ワシの目が危険を知らせているのじゃ。ワシの目は皆より大分先を見ることができるでな。近々、この国は無くなるようなのだ。理由は分らんが山の中に逃げても他国を目ざして逃げても同じで危険は消えないのじゃ。命の危険があるのだ。それで部落全体での東の国への移民を決めた。そしたら危険は消えたのじゃ。」

「そうだったのですか。私は移民が途切れないので不思議に思っていたのです。他の黒目もそれを見たのでしょうね。」

「そうかもしれん。黒目はいっぱい居るでな。」

「ありがとうございます、長老様。千姉さんに相談してみます。船旅は快適ですよ、長老様。」

「船の旅は初めてじゃ。楽しみにしている。」

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