第47話 47、蚩尤国壊滅 

<< 47、蚩尤国壊滅 >> 

 大軍が好む戦いは平原での戦いだ。

力と力の戦いでは数に勝る方が勝つ。

数に劣る軍は相手軍を分散させ個別撃破を図る。

蚩尤国の軍勢は1万だった。

黄国王軍は準備して攻めて来た。

蚩尤軍は分っていただろうが準備が万全とは言い難い。

不思議の力は恐ろしいが百人では20万人には勝てない。

ましてや黄国軍は不思議の力の限界を知っている。

 黄国軍は平原で密集隊形を取り、盾を頭上に掲げた。

周辺に多数の偵察小隊を派遣して敵の攻撃を防いだ。

不思議の力を持つ者は指揮官となって小隊や中隊を率いている。

敵を不思議の力で動揺させ、自分の隊で打ち破るのだ。

不思議の力を持つ者の力だけでは大軍を打ち破れない。

黄国軍は軍隊蟻のように蚩尤国の都を目ざしてゆっくりと進んだ。

 黄国王はどこにいるのか分らなかった。

軍勢の中央辺りに盾を密集させている部分がそうかもしれなかったが確証はなかった。

軍旗はどこにも上げられず、だれが指揮官なのかも分らなかった。

兵士も指揮官も同じような鎧を纏っていた。

蚩尤軍と戦いでは指揮官は最初に狙われる。

指揮官を殺せばその隊は乱れるのだ。

黄国王が姿を現せばその場所は上空のエメラルド目によって特定されてしまう。

 不思議の力を持つ蚩尤軍の指揮官は力を有効に発揮することができなかった。

敵兵に近づくことができなかったからだ。

大石を敵軍主力に落とそうとしても軍主力の周囲は偵察小隊で埋められていた。

上空から弓矢を射っても隙間無く並べられた盾で防がれる。

導火線に火のついた火薬玉を兵の集団の中に置きたいが兵が密集していて遷移できない。

遷移できなければ自分が火薬玉で死んでしまう。

結局、最も効果的な攻撃は火薬玉を上空から落とすことだった。

 蚩尤国では落ちてから爆発する爆弾はまだ出来ていなかった。

偵察小隊の外側から何回かの遷移で軍隊の上に出て火薬玉を落としても有効に兵士の上に落ちるのは少なかった。

途中で爆発してしまったり、兵士の中に落ちても爆発までに時間がかかるものもあった。

時間があれば兵士は散って盾で防ぐことができた。

 青目指揮官も敵兵全員の心臓を止めることが出来るわけではない。

一人を殺している間に十字弓の斉射を受けることになる。

厄介な者はやはり金目であった。

兵士の背後や近くに現れて心臓を止めたり短槍で殺して行く。

小隊は背中を合わせて密集し、盾を頭上に掲げ、十字弓を周囲に向けて金目の出現を待った。

不思議の力は個人的には確かに恐ろしいがその限界が分れば何ともない。

兵士数名が殺されている間に殺せばいいのだ。

白兵戦と同じだ。

軍の兵士と言うのはそういうものだ。

 蚩尤軍は次第に追いつめられていった。

今回の敵軍は不思議の力を恐れないのだ。

空から槍や火薬玉を降らそうと、動揺しないで、それが当然だと対応している。

数十人殺されても当然だと思っている。

それでは蚩尤軍を攻め込ませても大軍に打ち返されてしまう。

敵が動揺して初めてそこに蚩尤軍の勝機が生ずるのだ。

 蚩尤軍は湖の平原から引いて蚩尤国の都に通じる森の中に布陣した。

森の中では大軍は機動的に動けない。

所々で攻撃をかけてから森奥に逃げ込み罠に誘う。

少人数の軍には適した場所だ。

森に逃げ込んだら負けることはない。

それにこの森はもうすぐ霧に包まれる。

湖からの暖かい風が森を駆け上って濃霧が発生する。

それが反撃の機会になる。

 黄国軍は霧が出ることは承知していた。

ミーナが黄国王に贈った方位磁針が役立ったのかもしれなかった。

森には輜重の荷車は入れない。

黄国王は輜重隊を湖の畔に留め、4半分の兵士を輜重隊の警備に残した。

湖側からは敵の攻撃はないから片側からの攻撃に対処すればいい。

4半分の兵士でも敵の倍以上の兵力だ。

兵士は数日分の兵糧と水を持って森に入って行った。

 黄国軍は深林に入っても個別の密集隊形を崩さず数小隊が互いに組んで一小隊が攻撃されたら他の小隊は直ぐさま反撃した。

とにかく20万名もの兵士が森の中に密集して少しずつ蚩尤国の都に向かって前進していった。

蚩尤国の都に入って住民を皆殺しにすれば戦いに勝つ。

自国に人は溢れている。

住民を皆殺しにして自国民をそこに移民させれば蚩尤国は自国になる。

 じりじりと進んで来る黄国軍に対し蚩尤国軍は有効な攻撃手段を持っていなかった。

大軍は敗走しなければ強い。

敵が恐怖に駆られて敗走するときが小勢力軍の攻撃する時なのだ。

火計も使えなかった。

大軍を負かすのには火計や水計がいいのだが、森は霧で湿って山火事を起こせない。

黄国軍が都に近づくと蚩尤は全軍に突撃を命じた。

もうそれ以外の方法がなかったのだ。

 蚩尤国軍は勇敢に戦って自軍の兵士の数よりも多い敵兵を殺してから全滅した。

蚩尤とその同族は捕らえられ、殺された。

金目も赤目も十字弓の斉射を受けて逃げられなかったのだ。

黄国軍は蚩尤国の都に入り全住民を殺した。

全住民を森に引き立て数万本もの木々に家族毎にまとめて縛って放置したのだ。

その日の夕方、縛られた若い娘達は縄を解かれ、大木に縛られている身内の前で兵士達に犯されてから殺された。

家族を殺すと言えば娘は涙を浮かべて脚を開いて身をまかす。

兵士達は何人の娘を犯すことができるかを競っていたようだった。

 この戦いで生き残った蚩尤国の国民がいた。

黒目の数人の指揮官は不思議の目の予知能で命の危険が迫っていることを知った。

自分が指揮する兵士と共に都に戻り、自分たちの家族と兵士の家族と知人の家族を連れて山の向こうに逃げ出した。

いくつもの山を越えてから生活できる地を見つけそこに住み着いた。

 ミーナは熱気球のゴンドラから眼下の戦いを眺めた。

戦いの場が湖の近くであることが分ったので艦隊をその近くにまで移動しておき、戦場となるであろう場所を熱気球を上げて調べ上げた。

蚩尤国の都も見たし、その都の科学技術の高さにも感嘆した。

今回の戦いは不思議の力と高い科学技術に対する圧倒する人海の戦いとなる。

 後から思ったことだが、もう少し蚩尤国の科学技術が高かったなら共同体のように蚩尤国が勝利していただろうと思った。

熱気球をもっと前に蚩尤が見ていたら蚩尤国は気球を作っていたのかもしれなかった。

丈夫な布もありそうだし水素も取り出せるような科学技術のレベルだった。

たとえ気球ができなくても落ちて爆発する爆弾を多量に作っておきさえすれば大軍にも勝っただろう。

爆弾に使う起爆薬の雷酸水銀さえ作ることが出来ていれば勝てた。

もう少しだったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る