第45話 45、黄国王 

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 ミーナの艦隊はその後は何の妨害行為にも会わず大河を遡(さかのぼ)った。

河畔のいくつかの軍事基地を通過したが兵士達は武器を持たずに柵の前に整列してミーナの艦隊を見守った。

軍事基地の消滅が都に知らされ、攻撃しないようにとの指示が下されたのだろう。

ミーナの艦隊はやがて大きな都がある場所に到達した。

 その都は海のような大湖の畔にありとてつもなく長い石塁で囲まれていた。

都の直径は20㎞もあり地平線まで人家が連なっていた。

都の周囲を囲む石塁は10mほどの高さを持ち石塁の上は通路となっていた。

城壁に近い。

石塁の上には1mおきに兵士が並び、槍と短弓で武装し木製の盾と簡易的な鎧を着けている。

臨戦態勢に近い警戒態勢をとっている。

どこかと戦争でもしているのであろう。

城壁の外側はずっと続く水田と畑で多くの農民が農作業をしていた。

 ミーナの艦隊は都を通り過ぎて湖に入って行って錨を下ろした。

ミーナは40機の熱気球を上げ、400mの紐となって都の上空を廻った。

示威行為であった。

だれも上空には上がって来なかった。

この国の人民は不思議の目を持っていないことが判っていた。

ミーナは200mの高度を保って都を観察した。

 本当に大きな町だった。

都の城壁の中は人で溢れている。

都の中央は小高い丘になっていて大きな城と言える建物が堂々と建っていた。

周囲を空堀で囲み、その内側は石垣が高く積まれ、その上が屋根付きの回廊になっている。

回廊にも武装した兵士が巡回していた。

 城の東西南北の位置に3層の櫓(やぐら)が建っており、城の中央には5層の白壁の天守閣が建っていた。

城内には他に多くの平屋建ての建物が所々にあった。

天守閣の前は石畳でできた広い庭があり、その庭の天守側には高い屋根を持つ大きな建物が建っていた。

朱色で塗られた回廊を廻らして色々な場所の豪華な建物が連絡している。

石畳に面する建物は特に巨大だった。

建物の周りを囲む廊下に朱色の欄干はあるのだが建物の石畳側には壁は無かった。

石畳のどこから見ても建物の内部が見えるようになっていた。

それは建物の内部から全ての兵士を見ることができることを意味する。

 石畳には兵士が整列するのであろう。

周囲の石の色とは違った色の石が囲碁板のように埋め込まれている。

石畳の周囲には頭を丸めた石柱が整然と埋められていた。

ざっと計算するとその庭に整列する人数は一万人程度になる。

100m四方だ。

 ミーナは町の全体を1時間かけて観察した。

その頃には都の人々はミーナ軍の熱気球を見つけており何かを叫んで上空を見ていた。

その声はミーナには「龍だ。龍が来たぞ」と聞こえた。

ミーナは龍もいいものだと思った。

少し細くて貧弱な龍だが空を飛ぶ蛇よりはずっと感じがいい。

 ミーナは細龍を城の上空でとぐろを巻かせて大出力で言った。

「私の名前はミーナ。遠い国から来た親善の使節です。私の声は聞こえると思います。みんなの耳にではなく頭の中に言葉を送っているからです。この国の国主と話をしたいと思います。この国は臨戦態勢にあるように見えます。私が信用できないのなら代理の者を派遣しても結構です。私の前に来て下さい。石畳の広場の上でお待ちします。護衛の兵士は何人連れて来てもかまいません。」

 15分ほど経って正面の建物の両横から二百名の兵士が短弓と槍を持って建物沿いに整列した。

正面の建物の奥から一人の男がゆっくりと歩いて出て来て建物の階段を降りて石畳に立ち、一人で石畳の中央に向かって歩いて来た。

立派な衣装を身に着け頭には額が隠れる冕冠(べんかん)を冠っていた。

それを見てミーナはゴンドラに乗っていた茶目兵に相手が嘘をついたら赤旗を上げよと命じ、さらに、黄目兵に冕冠の周囲を調べさせた。

「ミーナ様、相手は不思議の目を持っております。私と同じ黄目です。」

「そうか、ありがとう。冕冠をあまりに深く冠っているので不思議に思ったのだ。」

 「上の者、私は国王の黄だ。私が話を聞こう。」

石畳の中央でその男は上に向かって叫んだ。

「今、降りて行きます。小隊長、私を下に降ろして私の後ろに立っていて。」

「了解しました。ミーナ司令官をお守りします。」

ロボット司令官はミーナを後ろから抱えてゆっくりと国王の前に降りて行った。

 「早速応答してくれてありがとうございます。私が呼びかけた共同体国のミーナです。『ミーナさん』と呼んで下さい。貴方を黄国王さんと呼んでもいいですか。」

「それでいい。」

「最初に貴方の国の軍事基地を壊滅させてしまったことをお詫び致します。突然襲って来たのでやむなく基地を更地に変えました。」

「仕方があるまい。こちらが悪かった。報告は聞いた。それにしても連なる山を消して地平線にまで平地にしてしまうとは凄まじい火力だな。」

「加減を間違えました。背後の山は残すつもりでおりました。それで途中で止めて威力を弱めて山裾までに留めました。」

 「ミーナさんの国ではそんな武器が使われているのか。」

「今回は特別です。通常は戦艦55隻を撃沈させた大砲が使われます。共同体国の戦闘力はその程度です。この国の人民にはかないません。」

「我が国の武力は貴国より低いと思われるが、どうして我が国の方が強いのだ。」

「人口です。この国の人口は圧倒的です。私の艦隊の全ての弾薬を使い果たしてもこの国の人民は残っております。そんな危惧があったので今回は特別の武器を使用させていただきました。」

「喜ぶべきか悲しむべきか判らんな。」

 「そうですね。人口が多かろうと少なかろうと人の命は同じ価値でしょうから。私の国は小さい国です。ですから人口も貴国よりもずっと少ないと思います。でも軍事力に関しては少し秀でているようですね。でもこの国を概観させていただきましたが薬学と医学は優れていると感じました。多くの薬草が栽培されておりました。」

「薬草の知識は長い歴史の賜物だ。薬草で多くの人が死に、代りに薬草の知識を教えてくれた。」

「と言うことはこの国には文字があるのですね。」

「ある。地方ごとに少しずつ異なるがな。」

「この国の文字で『人』とはどう書くのですか。」

「こう書く。」

そう言って手に持った杖で『人』の文字を石畳に描いた。

「私の国の文字と似ていますね。水田の『田』はどう書きますか。」

黄国王は石畳に『田』と書いた。

「象形文字ですね私の国の文字と同じです。区画された水田ですね。」

「そうだ。」

 「ありがとうございます。一方的に質問ばかりしていますね。質問してもいいですよ。」

「すまん。空に浮かんでいる物はどうして空に浮かぶことができるのだ。」

「この国にもあると思いますが。袋に蝋燭立てを吊り下げて蝋燭に火を点ければ浮き上がると思います。それを大きくすれば人も乗ることができます。我が国では『熱気球』と呼んでおります。」

「なるほど。当たり前のことだが問題は袋だな。」

「その通りです。文明が発展しなければ軽く丈夫で空気を通さない布は作れないと思います。質問です。この国の医療はどのような方法を使っておりますか。」

 「主に針だ。体のツボに針を打って治す。」

「貴方がその方法をあみ出したのですか。」

「そうだ。」

「確かに人間の神経組織を見られたら針は便利ですね。」

「知っているのか。」

「知っております。私の艦隊にも百人ほど乗っております。」

「本当か。」

「本当です。」

 「お前達は蚩尤(しゆう)の仲間なのか。」

「私の声はこの都のほとんどの人が聞いております。その質問に答える前に出力を下げましょう。」

ミーナはヘッドギアの出力ダイヤルを最低にした。

「私の声が聞こえますか、黄国王さん。」

「聞こえる。音は小さくなったがはっきり聞こえる。」

「これで二人だけの話ができます。蚩尤(しゆう)とは何ですか。」

「悪の化身だ、額に目を持っている。」

 「そうですか。『仲間』の定義が重要ですね。『仲間』を同族という意味なら仲間です。私の国の男は全員が額に目を持っております。そういう意味なら貴方も蚩尤の仲間ですね。『仲間』を味方という意味なら味方でも敵でもありません。そう言う意味なら貴方は蚩尤の仲間ではありません。」

「分った。悪かった。質問が曖昧だった。だがどうしてワシが額に目を持っていることが分ったのだ。」

 「貴方が冕冠(べんかん)を異常に深く冠っていたので貴方と同じ黄目兵に調べさせました。」

「そうだったのか。これからは気をつけねばならんな。」

「貴方の目のことは国民は知らないのですか。」

「知らない。この国では二人くらいしか知らない。噂が広がったら二人は殺されるから喋らない。」

 「貴方は蚩尤と戦っているのですか。」

「そうだ。奴らは強い。一対一では必ず負ける。」

「どんな戦い方をするのですか。」

「色々だ。遠くから殺したり、動きを止めたり不意に後ろに現れる。」

「他に空に浮かんだり、石を空から降らせたり恐怖に陥(おとしい)れたりするのですね。」

「そうだ。知っているのか。」

「私の兵が全て持っている力です。蚩尤は何人いるのですか。」

「蚩尤は一人だけだと思う。仲間が100人ほどいるようだ。」

「蚩尤とはいつから戦っているのですか。」

「もう20年になる。」

 「そうですか。不思議ですね。・・・貴方に子供はいますか。」

「まだいない。残念だが。」

「貴方が国王になってから長いのですか。」

「15年ほどになる。」

「そうですか。それなら貴方の国はいずれ蚩尤に勝てますよ。」

「どうしてだ。」

「蚩尤も貴方もやがて死に、子供が持てないからです。」

「どうしてだ。」

 「色々な意味を持つ質問ですね。私の国では生まれた子供が男の子なら父親の目を持ちます。貴方に子供ができたら男の子なら黄目を持つはずです。でもこの国の女性とは貴方は子供が作れないのだと思います。蚩尤も同じなのでしょう。蚩尤が強い力を持っているのなら多くの女性を周囲に侍(はべ)らしていたはずです。今もそうしているでしょう。でも貴方と同じように子供が出来なかったのだと思います。そうでなければ今だに百人ほどの勢力であるはずはありません。20年も前から戦っているのならその間に不思議の力を持つ男の子が生まれたはずですから。」

「怒らないでほしいが、もし貴方を妻にすれば黄目を持つ子供が生まれるのか。」

「二十歳の娘が答えるのは恥ずかしい質問ですが、そうだと思います。」

 「そちはそんなに若いのか。」

「そうです。そう見えませんか。」

「いや、若く美しい娘に見える。だから蚩尤と同じ力を持つ兵士達の大艦隊を率いているので不思議に思っていたのだ。」

「多くの知識を学んでそうなりました。私は狩猟生活をしていた未開部族の子供でした。貴方はどこの生まれなのですか。」

「分らない。ワシは幼い時に医者の夫婦に海岸で拾われたらしい。その後、両親と共に都に来た。ずっと鉢巻をして目を隠していた。」

 「船が難破したのですね。おそらく蚩尤とその仲間も同じ船に乗っていたのでしょうね。船には貴方の両親が乗っていたのだと思います。医者だったのかもしれませんね。」

「そうかもしれない。今ようやく分った。ワシは今まで自分の出自が分らなかった。異常な子供として両親に捨てられたのだと思っていた。でもミーナさんの国のことを聞いて納得できた。ワシは異常な子ではなかったのだ。」

「良かったですね。貴方は私の国では正常な男性です。」

 「ミーナさんには感謝しきれない。」

「貴方は同族と戦うことが出来るのですか。」

「ワシはこの国の王だ。人民を守るのが役目だ。」

「そうですか。貴方と出会ったのも縁(えにし)かもしれません。蚩尤と戦う方法を教えてあげましょう。」

「幸運に感謝する。」

 「貴方は知らないでしょうが不思議の力は見える範囲か考えることができる範囲でしか起こすことができません。最初は赤目で見えた所に瞬時で自分を移動できます。見えない所でも良く知っている場所には移動できます。そして物の中には移動できません。ですから周囲を大きな盾で囲めば盾で囲まれた中には遷移できません。兵士を接触させて密集させれば兵士の間には遷移できません。攻撃は空中から矢を射てから、もと居た場所に戻ることになります。頭上にも盾を置いたら安全です。次は青目です。青目は心臓を止めることが出来ます。人の姿を見て心臓の位置を知り心臓を止めます。ですから姿を現さなければ心臓を止められることはありません。次は緑目です。緑目は物を動かすことができます。大石を空中に持ち上げたり人間の動きを止めることができます。でも力を使っている場合はそれを常に見ていることが必要です。ですから大石が空に浮かんだら周囲を調べることです。大石が見える所に潜んでいるはずですから。次に銀目です。人に恐怖を植え付けます。人は従わなければ殺されると思います。でも死ぬことはありません。遠くから弓矢を射ればいいでしょう。次はエメラルド目です。空に浮くことができます。これには対処できませんが重い物を持って空に浮いているのは大変です。頭上に盾を掲げれば攻撃を防ぐことができます。貴方のような黄目は攻撃できないから問題になりません。一番厄介なのは金目です。蚩尤がそうなのでしょう。遷移ができて心臓を止めます。ですから狭い場所や背後に壁を背負った場所で戦い、心臓の位置が分らないように戦えばいいと思います。姿が見えない戦車戦がいいですね。まだ色々ありますが戦いに関してはこれだけです。」

「ありがたい。敵の力が分れば対処できる。」

「良かったですね。」

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