第43話 43、冒険の大航海 

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 黄金の国の首都は整備が急速に進んだ。

区画整理され、下水道が通って、市町村の役所と住居が建てられていった。

住宅は役所の役人が住む家であった。

議会場も全市町村の負担で作られた。

人が増えれば商店ができる。

役所ができれば役所から仕事をもらう業者の事務所もできる。

金や仕事を税金で分配する場所の周りには人は集まるものだ。

 ミーナは首都の郊外の広大な敷地に学校を建てた。

小学校と中学校だった。

教師育成の学校でもあった。

高校とか大学で教えることができる教師は共同体内でもまだいなかった。

ミーナは役所では文字で書いた書類を作ることを命じた。

平仮名の命令書でも良かった。

ミーナの命令も文字を通して発令された。

役人は文字が読めることが求められた。

小学校では文字を教える特別教室が開かれ、連日満員の盛況を呈した。

誰でも言葉を文字で残したかった。

 役人の仕事は役人にまかせた方がいい。

多少の小石やゴミが入っていようと行政が機能して廻っていれば問題はない。

まだ役人達への報酬は所属する市町村から出ていた。

いずれ市町村からは税金を取って行政の一部として支払うことになるだろう。

ミーナはそんな仕事はしたくなかった。

ミーナは銀鬼の妻のマイに首都の行政の長になってもらった。

頭(かしら)さえしっかりしていればいい。

マイは期待以上に素晴らしい能力を発揮した。

池の中から大湖に出た輝く魚のように色々な所に入って行って行政を自在に操った。

 ミーナは行政の泥沼から抜け出し、共同体の学校に戻った。

早く冒険の旅に出かけたかったのだ。

ミーナは若い時期は長くはないことを知っていた。

千は微笑んでミーナの計画を手助けした。

多数の軍艦と多数の熱気球と多数の輸送船を作って次々に進水させた。

千が作った船には海水から真水を取り出せる装置が設置されていた。

千は若いミーナに日々のシャワーくらいは使わせてやりたかったのだ。

 ミーナは銀鬼の軍隊から冒険の旅に賛同する小隊、100小隊1100名を選び出し、軍艦の操艦と熱気球の操縦を学ばせた。

一般小隊は11の部族の兵士から構成されている。

小隊は何でもできることが必要だとミーナは思っていた。

小隊に予知できる黒目兵が含まれているのは心強い。

いつでも死に至る危険から逃げ出すことができる。

 ミーナの親衛隊3小隊30名とロボット小隊長はそのままであった。

3名の小隊長がいれば無敵だ。

いつでも千姉さんと連絡できる。

軍艦間の連絡は白目と茶目の組みが行う。

 晴れた日、ミーナの艦隊はひっそりと出発した。

多くの国民はミーナが遠征に出かけた事を知らなかった。

艦隊は20隻の大型戦艦と20隻の輸送船の陣容であった。

大型戦艦は広い甲板を持ち、巾が広く安定していた。

各戦艦には5小隊55名の兵士が乗り、十機の熱気球が格納されていた。

 艦隊は常に水平線に陸地が見える距離を保って北に進んだ。

学生が作った世界地図によれば、およそ500㎞ある。

その先は大陸に突き当たり、南東に向かった後に東に航路を取ることになる、

エメラルド目兵士は定期的に高空に昇り望遠鏡を使って陸地を観測した。

地橋は高山の連続だった。

山が海まで続いて高い断崖を作っている場所が何カ所もある。

東側を通っての南北の交流は難しいだろう。

 何の事件も起きなければ船の旅は暇だ。

ミーナは昼の食後に歌を教え、夕食後には本を朗読してやった。

どちらもヘッドギアの出力を上げれば全艦隊にミーナの声が聞こえる。

歌に関しては、ミーナは最初に階名で数回歌い、暗譜したら笛に堪能な兵士が各艦で笛で演奏する。

次に歌詞を付けて歌って歌詞を憶えさせた。

一日一曲だった。

笛を演奏した兵士はそれを紙に書き留めた。

朗読はもっと楽だった。

ミーナは物語が書かれた本を十分間だけ朗読した。

兵士は物語の続きを聞ける毎夕が楽しみになった。

 最初の大きな町は500㎞ほど北進した辺りで見つかった。

大陸の付け根辺りで、共同体国とは500㎞離れた対岸になる。

緯度が少し高いので少し涼しくなっていた。

町の規模はそれほど大きくはない。

北西から海に流れ込む大河の扇状地に水田が広がっている。

河口に続く海岸には多数の小舟が砂浜に並び、離れた場所では自然に出来た湾に港が作られ、多くの小舟が係留されていた。

 ミーナは20隻の軍艦から一機ずつ、総計20機の熱気球を飛ばせた。

熱気球には金目と赤目と緑目と紫目兵を乗せた。

金目と赤目兵は攻撃のための兵士で、緑目はゴンドラから垂れる50mの軽く強い細紐をテレキネシスでたぐり寄せてゴンドラ間を繋ぐためだった。

紫目はゴンドラの安全のために乗せた。

敵が何らかの強力な不思議の力を持っていたら紫目兵はそれをはね返してゴンドラを操船するのだ。

 20機の熱気球はロボット小隊長に引かれて1㎞の長い点群になって上昇を続け、3000mの高度で町の上空に入って行った。

町の上空を大きな円を描いて次第に高度を下げ、1000mで高度を保った。

この高さでは、赤目は何とかゴンドラの近くまで遷移できるはずであったが、だれも熱気球には近づいて来なかった。

 熱気球を500mの高度まで下げても熱気球に近づいて来る者はいなかった。

ミーナは自分の熱気球を切り離し、単独で高度を100mまで下げた。

この高さでは人間の形ははっきり分るし、双眼鏡で見れば容貌まで分る。

町の多くの人々は気球の存在を大分前から気付いていたようだった。

道路に人々が出て頭上の熱気球を眺めている。

ミーナは双眼鏡を覗いて思わず『あらー』と呟いてしまった。

ミーナは眼下の町の人々と会話するためにヘッドギアの出力を上げていた。

ミーナのつぶやきは上空の兵士にも、眼下の町の人々にも聞こえてしまった。

町の男には額の目がなかったのだ。

 ミーナは熱気球の高度を15mまで下げた。

家々の屋根のすぐ上、大樹の梢より低い。

「私はミーナ、親善の使節です。安心してください。私の言葉は分りますか。分ったら手を挙げてください。」

上を見上げていた人々は手を挙げた。

両手を挙げた者もいた。

子供もそれを見て手を挙げた。

 「ありがとう。言葉が通じるようですね。この町の代表の方は居られますか。話をしたいと思います。」

ミーナの言葉を聞いた地上の人々の顔が急に曇った。

挙げていた手も降ろした。

「この町の代表はここにはいない。」

一人の男がミーナの方を向いて叫んだ。

「居られないのですか。それは残念ですね。貴方が替わって私の相手をしていただけませんか。」

「話をしたければここに来い。」

男は成り行きでそうなってしまったことを後悔しているようだったが、虚勢を張って強い言葉を使った。

「そうしましょう。会話は対面でするものです。小隊長、私を地上に降ろして下さい。その後は私の周囲を警備して。他の熱気球は高度を50mに下げて周辺を警備せよ。攻撃があれば反撃してもよい。」

そう命令してミーナはロボット小隊長の背中に跨がって地上に降りた。

 その男は目の前に立った司令官が美しい娘である事に驚いた。

「こんにちは。私の名前はミーナ。貴方の名前は何ですか。」

「ラウだ。」

「私は共同体という国から来ました。この町の名前は何ですか。」

「ラウラだ。」

「ラウラのラウさんね。よろしく。この町の代表者はどうして此処にいないのですか。」

「この町の支配者は山の上に住んでいる。」

「それは悪かったわね。代表者と支配者とを区別するのは大変ですものね。それで支配者はどこの山に住んでいるのですか。」

「おれの後ろの山だ。」

「そう、私の声は大きいから支配者にも聞こえているかもしれませんね。」

 ミーナがそう言った時、群衆の誰かが叫んだ。

「目があるぞ。上を見ろ。額に目がある。」

女達は頭上の熱気球のゴンドラに乗る兵士を見て、悲鳴を上げて家の中に逃げ込んだ。

恐怖に駆られた逃げ方だった。

ミーナの前の男は勇敢にも留まっていたが全身を戦慄(わなな)かせていた。

「落ち着いて、ラウ。何もしない。危険はない。安心して。」

ようやくラウの震えはなくなった。

 「額の目がよほど恐いようね。私の国では男全員が額に持っているわ。女には目が無いけどね。それが普通なの。この町の支配者って額に目があるの。」

「額に銀色の目を持っている。」

「銀目族か。それは恐(おそろし)かったでしょうね。銀目族は人を強制できるから。」

「あんたは銀目が恐(こわ)くないのか。」

「別に怖(こわ)くはないわ。周りにはもっと凄い人がゴロゴロ居るから。銀目族だって遠くから心臓を止められたら死ぬでしょ。後ろに急に現れて背中を槍でさされたら死ぬでしょ。頭の上から大石を落とされても確実に死ぬわね。遠くから矢を射られれば死ぬかもしれない。」

「そうかもしれない、」

ラウの目に希望の光が灯った。

遠くから弓矢を射ればいいのだと考えたのであった。

 「この町の銀目族の支配者はあなた達に何をしたの。」

「支配者には貢ぎ物をしなければならない。食料や布や娘だ。」

「支配者はあなた達に何を与えたの。何をしてくれた。」

「何もくれない。何もしてくれない。要求するだけだ。」

「それは不公平ね。」

「逆らえば殺される。」

「まあ、銀目族ならそう思わせることはできるわね。私は20万人以上の人を実際に殺しているけど銀目族が実際に人を殺すのは難しいわ。それにしても娘は良くないわね。娘から生まれた男の子が銀目を持つ可能性がある。」

「そうなのか。」

 「私の国ではそうなの。でもこの国ではそうかどうかは分らない。額の目が男のY染色体に乗っているのは確実なんだけど私の国の女のXXがそれにどう関与しているのか分らないの。」

「何を言っているのか分らない。」

「ごめんなさい。そうだったわね。とにかく娘を貢ぎ物として要求するのは女として許せないわ。去勢してやろうかしら。」

「協力する。」

 「まあ、急がないで。私は中立。親善の使節なんだからこの町の政治には関与しない。玉を潰されるかもしれない相手の意見も聞かないとね。・・・聞こえたか、銀目族の支配者。お前の話を聞きたい。話す気があれば焚き火をして煙を上げよ。迎えの者を送る。来なければ目の前の男の話が通ることになる。30分待つ。話す気があれば煙を上げよ。繰返す。話す気があれば煙を上げて知らせよ。・・・小隊長、私をゴンドラに戻して。」

「了解、司令官。」

ミーナはゴンドラに戻って下を眺めながらコーヒーを飲んだ後でラウの前に戻った。

 20分ほど経つと山の頂上付近から一筋の煙が昇った。

煙はどんどん太くなっていた。

「煙は見えた。今そこに兵をやる。一緒にここに来てもらう。焚き火は兵士が消す。・・・上空の小隊長、山の焚き火の付近の銀目の支配者をここに連れて来い。焚き火は消せ。」

「了解」と言って熱気球の上空を浮遊していたロボット小隊長は消え、十秒後にミーナの前に支配者と共に現れ、支配者を解放してから上空に昇って行った。

支配者は豪華な衣装を着て、ミーナの前に立った。

額の目は閉じていた。

 「私はミーナ。無理矢理連れて来て悪かったわね。名前は何と言いますか。」

「銀狼と申します。」

「銀狼さん、どうしてここに来ましたか。」

「小舟で河を下っていて眠ってしまい、目が覚めたときは海の真ん中でした。水はたくさん積んでいましたから数日は大丈夫でした。陸地が見えたので必死に櫂(かい)て陸に着きました。あとは水と木の実を補給しながら海岸沿いに進むとこの町に着きました。」

「貴方は川の上流の銀目族の者ですか。」

「はい、ミーナ様が銀目族の村に来られた時にお目にかかりました。シルバの隣におりました。」

「そうですか。遭難者が支配者になったのですね。」

「申し訳ありませんでした。」

 「知っていると思いますが銀目族は共同体に組み入れられました。共同体は今や黄金の国を併合させて大きな国になっております。私はそこの総司令官です。私は貴方に命令できる立場にあると思います。貴方には選択できる二つの道があります。一つは私の船団に乗ることです。船団が共同体国に帰れば解放してあげます。もう一つは額の目を鉢巻で巻いて閉じ、この町に漂流者として残ることです。支配者としてではありません。どちらにしますか。」

「ミーナ様の船団に乗せて下さい。私は村の学校で共同体の言葉と文字を教えて貰いましたがもっと色々学びたいと思って川を下りました。この町では新しい知識は得られないと思いました。」

 「そうですか。貢ぎ物の娘さんはどうしましたか。」

「今は妻になっております。妊娠しております。」

「そう。この町に残しておくことはできないわね。子供が銀目になったら大変。上空の小隊長、銀狼を連れて山の屋敷に運べ。そこで銀狼の妻を銀狼と共にここに連れて来い。」

「了解しました、司令官。」

そう言って上空の小隊長は消えて銀狼の後ろに現れ、銀狼を抱えて消えた。

 15分ほど経つと銀狼とその妻は小隊長に連れられてミーナの前に現れた。

女は銀狼に寄り添って銀狼の腕を抱えていた。

「娘さん、銀狼さんは私の船に乗り込みます。あなたはどうしたいですか。この町の言葉で話してもいいですよ。」

「ミーナ様の言葉は全て聞こえました。私は夫の銀狼と共にミーナ様の船に乗りたいと思います。妻ですから。」

「分りました。一緒に乗せましょう。でも食事作りや洗濯を銀狼さんと一緒に手伝ってもらいますよ。それでいいですか。」

「夫と一緒なら苦になりません。」

 「夫婦愛ですか。私も早くそうなりたいですね。・・・ラウさん、聞きましたね。支配者は私が連れて行きます。貢ぎ物にされた娘さんも連れて行きます。娘さんも夫と一緒に行きたいようですから。分りましたか。」

「分りました。事情も分りました。娘の家族も納得させます。もともと娘を差し出すような薄情な親ですから。」

「薄情な親だったとは限りません。いい娘さんを立派に育てた親御さんです。・・・小隊長、船に飛び私の部屋から金の小粒の袋を一つ持って来てくれ。・・・それから娘さんの親御さんがここにいるなら出て来て下さい。言うことがあります。」

 一つの家から男女が出て来てミーナの前に立った。

その時ロボット小隊長はミーナの前に金の小粒の入った袋を持って現れた。

「聞いたように、あなた方の娘さんは異国に行くことになりました。それが娘さんの望みです。これまで娘さんを育ててくれたことを感謝して金の小粒をさし上げます。どうぞ収めて下さい。この町の貨幣は知りませんが金の小粒は私の国では価値があるものです。色々な物と交換できます。それでよろしいですか。」

「ありがとうございます。娘をよろしくお願いします。」

夫婦は頭を下げてから娘の顔を見た。

娘は涙を流していた。

 「全軍、この町から撤収する。小隊長、袋をご夫婦にさし上げよ。その後、銀狼夫婦をゴンドラに乗せよ。」

「了解、司令官。」

「ラウさん、これでお別れです。おさわがせしました。」

「共同体国のミーナ様の名前は決して忘れません。」

「小隊長、私をゴンドラに連れて行け。撤収。」

 ミーナは熱気球の高度を上げさせ、水平線の船団に向けて一直線に帰って行った。

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