第41話 41、女奴隷の救出 

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 最初に駐屯地の外側に戦車3台が戦車兵と共に夜のうちに降ろされた。

フライヤーで運んで来たのだった。

報告を受けた銀鬼は戦車を駐屯地に入れ、戦車兵に朝食をとらせた。

朝十時になると駐屯地から長い行列が出て来た。

先頭が6人のロボット鼓笛隊、その後に1台の戦車が続き、その後に500小隊、5500人の兵士が続き、少し間を開けて戦車が続き、その後ろには500小隊、5500人が続き最後に戦車が間を開けて続いていた。

 上空にはいつのまにか熱気球100機、5000mが1列になって現れた。

熱気球は地上の行進を通り越して前方の町の上空に行き、町の周囲を高度500mで取り囲んだ。

「私は共同体のミーナ。我が国から強奪誘拐された女性五千人を取り返しにきた。誘拐犯の味方をして邪魔をするな。邪魔をすれば首都と同じようにこの町を焼き尽くす。繰返す。私は共同体のミーナ。我が国から強奪誘拐された女性五千人を取り返しにきた。誘拐犯の味方をして邪魔をするな。邪魔をすれば首都と同じように焼き尽くす。」

ミーナは後は何も言わなかった。

 行進の鼓笛隊が遠くに見えるようになると再び大音声で言った。

「私は共同体のミーナ。私の軍隊が近づいている。町の真ん中の通りを通過する。町には何の危害も加えない。通りに面する家は家先に降伏の白旗を掲げよ。繰返す。通りに面する家々は降伏の白旗を家先に掲げよ。白旗を掲げない家は攻撃される。白旗を出せば攻撃されない。」

通りに面した家の住民は在り合せの白布を棒の先にくくりつけ入口に立て掛けた。

通りに面していない家も次々に白旗を掲げた。

白旗を掲げるだけで家も命も助かるならそんなにいいことはない。

 何の音調の乱れも無く鼓笛隊は町の通りに入って来た。

これまで見たことも無い大きな鉄製の戦車がそれに続いて入って来ると家の中に潜んで窓から見ていた住民は驚きの声を上げた。

それに続く五千名の兵士の一糸も乱れない行進を見ると残っていた反抗の心は萎えた。

3台目の戦車の後には町の子供達が後を着いて来た。

軍艦も戦車も戦闘機も、どれもいつ見ても形がいい。

 行進が町の中央を過ぎると鼓笛隊は演奏を止め、代りに中央の戦車から行進曲が響くように出て来た。

千の学校でも使っている曲だ。

町の住民はその音色に驚いたが一番驚いたのは行進していた兵士達だったろう。

メロディーがある音楽を聴くのは初めてだった。

行進曲に合わせて行進するのは気持ちが良かった。

心にふつふつと勇気が沸き起こって来る。

 銀鬼の軍隊は何度かの休憩を挟んで次の町に入った。

その町も通りの家々は白旗を掲げた。

町町が集まれば強力な力も出せようが、個々の町では軍隊に反抗するのは難しい。

相手は人を殺しても罪には問われない組織だ。

殺せば殺すほど賞賛される。

しかも、自分たちの税金で養って来た組織だ。

三つの町を通り抜けて1日目は終わった。

道端の広い場所で部隊は野営することになった。

ミーナの熱気球隊もゴンドラを地上に降ろした。

 2日目もいくつかの町を通り抜けて3日目の朝、銀鬼の軍隊は穀倉地帯に到着した。

見渡す限り水田が広がっている。

確かにこの広さでは人手が欲しいだろう。

道路の両側には集積場が地平線まで点在し、地平線まで続いている。

集積場単位で奴隷を管理し、米を作っているようだ。

集積場は200m毎に作られており、広い敷地の中に多くの建物が建っている。

窓に格子が嵌まっている水田に面した細長い建物が奴隷のいる建物で、道に面したこぎれいな建物が役人の家なのであろう。

その他の建物は農機具を保管してある倉庫や、籾を保管してある倉庫なのであろう。

そんな集積場が5㎞以上に渡って続いている。

 ミーナの気球隊は中央の道に沿って上空300mの高度で浮遊し、ゴンドラから銃を構えた。

時刻は9時くらいだったので多くの女奴隷は広場に整列させられていた。

朝の点呼でも受けてから農作業にかり出されるのかもしれなかった。

女奴隷達は袖が肘の上までの短い白い服を着ており腰の上を紐で結んでいた。

服と言うより一枚の布だった。

一枚の布を体の前で合わせ、腕が通る位置に切り込みを入れてあるだけだ。

脱げば4角の風呂敷になる。

薄手の白い服は腰の下まであったが着ているものはそれだけだった。

靴は無く素足だった。

水田での作業には靴も長袖も長い腰巻きも邪魔なだけだ。

それに雨の日も作業があるので裸に近い姿の方が便利だった。

ほとんどの女奴隷は若い娘で、白い服の前の襟を開いて乳房を服の外に出していた。

豊満な乳房を持つ娘も貧弱な乳房を持つ娘も一様に出している。

乳房を出しておかなければ長い農作業で乳首がこすれ、炎症を起こして夜が眠れない。

女奴隷は全員が丸坊主だった。

 ミーナは侵攻した軍隊では総司令官であったが唯一の女性でもあった。

哀れな女奴隷の姿を見て怒りの気持ちが湧いた。

誘拐された女のおよそ半分は一般の住民だった。

粗末な奴隷の衣装を着せられ、髪の毛を切られた時にはさぞ恥ずかしかったろうと想像した。

 「私は共同体のミーナ。私は女性だ。我が国から強奪誘拐された女性五千人を取り返しに来た。奴隷以外は額に鉢巻を巻いて道路に出て仰向けに横になれ。繰返す奴隷以外は額に鉢巻を巻いて道路に出て仰向けになれ。5分間の猶予を与える。出て来ない者は殺す。女の奴隷はその場で動くな。動けば敵と見られて兵士に殺される。奴隷はその場で動くな。」

多くの男達が在り合せの布の鉢巻を巻いて道に出て仰向けに転がった。

 「よし、5分間が過ぎた。銀鬼司令官、部隊を進め道に寝ている投降者は後ろ手に縛り、道端に寝かしておけ。農場の建物を一つ一つチェックして残っている男は殺せ。黄目兵を使って徹底的に調べよ。」

「了解、ミーナ総司令官。」

そう言って銀鬼は数㎞も続く道を進軍させ、集積場毎に10小隊110人を投入していった。

 穀倉帯は10㎞以上あり、50個以上の集積場があった。

ミーナ軍の100機最大500人の兵士では手に余る数である。

銀鬼軍は1万名が今回の作戦に参加していた。

各集積場に百人を振り分けたとしても5500人だ。

まだ半数余りの兵士が残る計算になる

 昼過ぎには全ての集積場の奴隷は解放された。

一つの集積場には200人の女奴隷がいた。

解放された女奴隷の総勢は1万人で、共同体から強奪誘拐された五千名の倍である。

ミーナは一つの集積場当り200名の奴隷は少し多いと思った。

この規模では百名程度で十分だ。

想像するのに、奴隷を交代制にして1日おきに働かせた方が効率が良いとでも国主に進言した者がいたのかもしれない。

そうでなければ200人は過剰だ。

休日には娘達は慰め者にされたのであろう。

選(よ)り取り見取(みどり)だ。

 範囲が10㎞もあるので締まりのない演説にはなったがミーナは大音量で演説した。

「私は共同体のミーナ。奴隷であった女達、良く聞け。この穀倉地帯の奴隷は全て解放された。私は我が国から誘拐強奪された女達、およそ五千人を取り戻すためにこの地に進撃して来た。共同体から連れて来られた女性は申し出よ。共同体に連れてゆく。この地に留まりたい者は申し出なくてもよい。共同体で奴隷であった者も数千人が連れ去られた。共同体の奴隷は共同体の言葉が話せるようになれば毎年4月に解放され、市民になれる。この国のやり方は知らないが、もしこの国の言葉が話せる奴隷が居れば共同体に来れば来年の4月に市民として解放される。この国の言葉は共同体の言葉と同じだ。

 ここからは共同体のミーナではなく私個人の感情から言う。集積場の前の道端には束縛されたお前達の元の監督者がいる。監督官にこれまで暴行を受けた奴隷もいるだろう。その中から恨みを晴らしたい監督官を十名まで選んでこれまでの恨みを晴らしても良い。苦しめてから殺してもいい。それらの者は私の手で最後は殺されるからだ。それらの男は女に取っては悪い男だからだ。今から30分間の猶予を与える。恨みを晴らしたい者を選び、広場の中央に連れて行き、これまでの恨みを晴らせ。やれ。」

 女達はぞろぞろと道に出て来て恨みを晴らしたい男を囲んで集積場の広場に連れて行った。

女の恨みは恐ろしい。

手加減しない。

気球のゴンドラから見ていた兵士は身が縮まる思いであった。

集積場に散っていた55名の兵士も無言で女達の暴行を見ていた。

縛り上げられた男を石で思いっ切り殴りつけている。

股間を石で叩き潰している女もいる。

ほとんど全ての集積場では十名の監督が選ばれ、集積場の広場の中心に半死で横たわった。

監督官ではない男も入っていたようだった。

よほど悪い男なのだ。

 「よし、止めよ。30分経った。女達は宿舎の前に整列せよ。今、私が広場の男を消しに行く。骨も残さず消してやる。」

ミーナはロボット小隊長の背中に跨がって農場の広場に飛んで行き、真上からステッキで広場に半球状の穴を開けて行った。

男達は瞬時に消えた。

十分もかからなかった。

 「女達よ。今、お前達が恨みを持っていた男はこの世から存在を消した。恨みが晴らせたろう。ここからは共同体のミーナとして言う。共同体から連れて来られた女で共同体に帰りたい者は道路に出よ。言葉を話せない奴隷は相変わらず奴隷になる。該当する者は道路に出ろ。急げ、十分間だ。」

多くの女が道路に出て来た。

「よし、今出て来た女達は道路の反対側に並べ。次はこの国の言葉を話せる者で共同体に来たい者は道路に出て来い。出て来たら集積場側に並べ。十分間だ。やれ。」

十人ほどの女達が出て来た。

「よし、残っている女達。お前達の中で共同体に来たい者は道路に出ろ。共同体に来ても言葉が話せるようにならなければ解放されない。5分間だ。やれ。」

ほとんど道路に出て来る女はいなかった。

 「よし、選別は終わった。残っている女は一旦は解放されたのだが、すぐに奴隷に戻るかもしれない。道路に横たわっている男達を解放するからだ。私の目的は奪われた女を取り戻すことだ。この国の体制を崩壊させることは望むことではない。以上だ。銀鬼司令官、全ての赤目兵千名に女達を駐屯地に運ばせよ。共同体の女からだ。その後、駐屯地から赤目兵6000人をここに呼び寄せよ。その赤目兵に残りの女達を駐屯地に運ばせよ。それから集積場側の道路にいる女達には白鉢巻を巻かせよ。区別するためだ。」

「了解しました、総司令官。」

 1時間ほどで道路に出て来た女達はいなくなった。

「よし、これから撤収する。鼓笛兵、最遠方に移動し、鼓笛演奏をしてここに戻れ。行け。最も遠くに居る小隊から鼓笛兵に続いてもと来た道を戻れ。隊列を整えよ。戻る前に拘束している男達を解放せよ。ここに集結してからもと来た道を戻る。以上だ。」

 3日間かけて遠征軍は駐屯地に戻った。

途中の町は軍隊が近づくと家の前に白旗を掲げて軍隊の偉容を眺めて見送った。

最初の町の様子を眺めたミーナは先に駐屯地に行って娘達を帰す仕事を始めた。

1機の熱気球は操縦者を除けば5名の娘を運ぶことができる。

一往復で5時間、500名。

一日で二往復はできる。

11日後に全ての娘達は共同体に行った。

その間、娘達は兵士達の歓待を受けた。

男物のズボンと上着を着ていた。

軍隊は常に若い娘に飢えている。

 ミーナはその間、駐屯地に滞在した。

今後の計画を練っていたのだ。

ミーナは20歳前くらいで十分に美人だったが、兵士の言端に上がることはほとんどなかった。

総司令官で、あの恐ろしい銀目の銀鬼司令官をあごで使っている。

五百人の瀕死の男達を十分ほどで地面ごと消していった。

それに女としての感情も持っている。

奴隷女に監督官を殴り殺させたのは男にはとても理解できないことだった。

 ミーナは娘達が全員帰った後で、駐屯地に残しておいた自分の軍勢と共に熱気球で共同体の学校に戻って行った。戦車は戦車兵と共に駐屯地に置いておいた。

戦車は鉄で出来ている。

戦車用の車庫は作られてはいたが鉄は油を引いておいても錆びる。

戦車を終日磨く仕事が兵士の仕事に加えられた。

兵士は命令されれば終日戦車を磨くことを続けなければならない。

命令を拒否したら死ぬからだ。

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