第40話 40、銀鬼の軍隊 

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 駐屯地を去る者と駐屯地に残る者が決まった。

外周に残った者は50人程だった。

「今から基本となる小隊を編成する。前列の各色の左端の者は一歩前に出よ。第1小隊はお前達だ。左端の者が仮の小隊長だ。小隊長はロボット兵から1の札を貰い左にあるポールの前に小隊長を前にして2列縦隊で整列せよ。左向け左。駆け足始め。」

第1小隊が番号を持ってずっと遠くのポールの前に整列するのを確かめてミーナは言った。

「次、前列左の兵士は一歩前に出よ。お前達は第2小隊だ。左端が仮の小隊長だ。札を受け取って第1小隊の後ろに小隊長を前にして二列縦隊で並べ。駆け足。行け。」

第2小隊は第1小隊の後ろに並んだ。

「親衛隊小隊長、小隊作りを同じように続けよ。」

「了解しました、司令官。」

 丁度1000小隊が出来上がると兵士がいなくなった旗が出て来た。

紫色だった。

「司令官、不足する部族がでました。どうしましょうか。」

「不足は最多数の赤目族で補え。丁度1001小隊からだから分りやすい。」

「了解しました。司令官。」

丁度2000小隊ができると兵士の編成は終わった。

番号が2000に近い小隊はほとんど赤目族だけで構成されていた。

 「これで小隊の編成は終わった。周りを見よ。それが自分の生死をかける仲間だ。第1小隊から第1000小隊までは11の種族の兵士で構成された。それが一般小隊だ。第1001小隊から第2000小隊までは赤目族と緑目族が複数入っている。それが特殊小隊だ。小隊は目的に合わせて使われることになる。中隊長と大隊長は後日定める。分ったか。」

「分りました、司令官様。」

兵士達の声は怒濤のように聞こえた。

 「第1小隊、小隊長。指揮台の前に来い。駆け足。」

「小隊長、この駐屯地の食料と水はまだ充分にあるか。」

「充分にあります、司令官様。」

「よし、寝る場所はあるか。」

「はい、充分にあります。司令官様。」

「よし、お前に命令する。寝る場所を小隊毎にまとめろ。できれば小隊の番号順がいい。できるか。」

「はい、できます。司令官様。」

「よし、お前にまかせる。小隊に戻れ。」

「了解、司令官様。」

 「外周に残っている兵士は立て。第2000小隊、一番右側だが、その第2000小隊の右側に5列縦隊で整列せよ。駆け足。走れ。」

外周の兵士が整列するとミーナは言った。

「お前達は兵站兵だ。当面は兵士の食事を作れ。額に巻いてある鉢巻には縦長の丸印を書いておけ。それは零という数字だ。いずれ兵士達にも数字と文字を教えて鉢巻に小隊の数字を書かせるつもりだ。私の軍の兵士は少なくとも数字は知らなくてはならない。第2000小隊と私が言っても2000という数が分らなければ命令することも出来ない。簡単だからすぐに覚えることができる。少なくとも目の前の兵士は2000までは数えることができたわけだ。今日はこれで解散する。明朝9時にこの隊形で集合せよ。・・・まて。目の前の第1000小隊の小隊長、この国の1日は何時間だ。その場で答えよ。」

 「分りません。時間は朝、昼、晩、夜であります。司令官様。」

「そうか。色々と知らなければならない事がありそうだな。分った。今日はこれで解散する。明日の朝に集合をかける。その時はこの隊形で集合せよ。分ったか。」

「分りました、司令官様。」

「よし。全小隊は解散する。第1000小隊の小隊長はここに残れ。聞きたいことがある。解散。」

 ミーナは第1000小隊の小隊長から色々なことを聞いた。

数の認識、国で使われている言葉、兵隊の使っている言葉、食料の調達、支払われる俸給など、様々だった。

千も金鬼大将も銀鬼も一緒に聞いた。

親衛隊は離れていたがミーナの発する言葉は聞こえたので様子は推察できた。

「千姉さん、少しめげますね。」

ミーナは自分に聞かせるように呟いた。

「忙しいのはミーナの宿命かもしれないわね。」

 「銀鬼さん、助けてくれない。この軍隊の司令官になってくれませんか。」

「ミーナ先生。私には軍隊を指揮した経験はありません。」

「私も最初は経験はありませんでした。」

銀鬼が躊躇していると千が言った。

「適任よ。銀鬼君、この軍の司令官になってあげなさい。兵士を教育するのに学校の卒業生を派遣するわ。」

「分りました。千先生がそうおっしゃるのなら私には軍を指揮する力があるのだと信じてみることにします。ミーナ先生、了解。引き受けます。」

 銀鬼は2万名の軍隊の司令官になって軍を整えた。

最初の仕事は兵士の俸給の確保だった。

兵士を首都の再建に駆り出した。

燃え残った木材をまとめて焼却し、住宅の跡地に残っている溶けた金の小粒を収集して更地を作って行った。

王宮の跡地では大量の金の塊が見つかった。

王宮の周囲の住宅からも多量の金が見つかった。

周囲は高級家臣の屋敷だったのかもしれない。

 金の塊を見つけるのには千名の黄目兵が活躍した。

焼け跡を走査して次々と金を見つけ出していった。

集められた金は軍の駐屯地に運ばれ、軍隊が1年間必要とする量に小分けされた。

多数の池が掘られ、池には1年分の金塊が入れられたいくつもの箱が置かれ、上から土を盛り上げてから水が張られた。

その作業は兵士達自身が行ったので全ての兵士は多量の金が池の底に置かれているのを知ることになった。

 大量の金であったが見張りは必要なかった。

念動力者も地中の金塊は持ち上げることは出来なかったし、盗むためには先ず池に張られた水を抜かなければならなかった。

金の存在は黄目兵であれば何時でも透視して確認できた。

池は俸給池とか金蔵池とか呼ばれ、番号が付けられていた。

その数は98まであった。

98年間の俸給が確保されたことになる。

 次は食料の確保であった。

2万名の兵士が1年間で食べる米は3万俵が必要だ。

兵士はよく食べる。

銀鬼は首都と駐屯地までに広がる水田を全て没収し、そこで働いていた農民を特別供給者として雇った。

軍で必要とする米以上に生産したなら余剰分は処分して良いことにした。

『軍が必要とする量』がどれくらいの量なのかは決まっていなかったし、農民への俸給は米を買うのに支払う金額と同じだった。

軍が損することはなかった。

今は農民にとって好条件ではあったが軍が大きくなれば儲けは少なくなる。

銀鬼は抜け目が無かった。

 国主にとって銀鬼の軍隊は裏切り者だったがそれを討つ軍隊は手元には少数の護衛隊しかなかった。

国主の懸念は銀鬼の軍隊が地上軍で住民を支配できる力を持っていることだった。

高空からどんな火力で攻撃されようとどこにでも遷移で逃れることができる。

だが地上軍に囲まれたら逃れるのは厄介だ。

どう対処するかの方法を決めあぐねていた矢先、別荘の上空に熱気球の黒い蛇が現れた。

別荘の周囲は銀鬼軍1万が囲んでいた。

 「私は共同体のミーナ。強奪国に所属している眼下の国主別荘の兵士に告ぐ。これから国主別荘を灰燼にする。別荘を守っている兵士は降伏せよ。繰返す。兵士は降伏せよ。降伏したい者は額に鉢巻を巻いて周囲の軍に投降せよ。不思議の目を閉じて周囲の軍に投降せよ。お前達が守ろうとしている国主はおそらく既に別の別荘に逃げ出している。守らなければならない国主は既にいない。十分後に攻撃する。」

 多くの護衛兵は鉢巻をして別荘の外に飛び出して来た。

ミーナの説明はもっともであり、囲んでいるのはこれまでの味方だった。

駐屯地がどんなになっているのかは追放された兵とか噂などから聞いていた。

うらやましい環境のように思っていた。

 10分後、ミーナは別荘を環状に爆撃し、白い灰に変えた。

別荘の中では遷移で逃げることができない多くの女が死んだことだろう。

別荘の焼け跡ではひと型を保った焼死体はほとんどなく、焼け残ったわずかな骨が所々にかたまって残っていた。

黒こげの死体と骨のかけらになった死体と思われる砕けた骨片では感じ方が違う。

銀鬼軍の兵士達は温度が下がると焼け跡を捜索して又も多量の溶けた金塊を発見し、駐屯地に戻って行った。

ミーナは何の声明も出さず共同体に戻って行った。

 この国の言葉は共同体の言葉と同じ、金目族の言葉だった。

元々、共同体の海辺の金目族の町はこの国から移り住んだ金目族が作った町なのかもしれなかった。

とにかく、共同体の言葉が使えるのは銀鬼司令官にはありがたかった。

千の学校から教師が派遣され、3日をかけて数字と平仮名が教えられた。

兵舎の色々な場所にはひらがなで書かれた注意書きが張られるようになった。

「べんじょ」とか「しょくどう」とか「たちしょうべんはきんし」などと、全て平仮名で書かれていたが意味は通じた。

 兵士が巻いた鉢巻には小隊の番号が大きく墨で書かれた。

鉢巻の番号はスパイを見つけ出すのに役立った。

兵士の鉢巻の色と鉢巻の数字で、その兵士の所属が誰にでも分るようになっている。

一般小隊の構成は鉢巻の色が違う11人で構成されている。

青色の鉢巻に123と書いてあったら123小隊の青目族だということになる。

軍の中にはその兵士を知っている者もいるだろう。

同じ123小隊の者なら必ず知っている。

全体集合をかけられたらスパイの居場所はない。

 鉢巻の番号は別の効果もあった。

悪さが出来ないのだ。

鉢巻を外したら重い罰が待っているか、敵兵として殺されることになる。

屋外で鉢巻を外したら後者が適用され、確実に死が待っている。

鉢巻は自分の命なのだ。

鉢巻の番号で所属が周囲の者に知られるので悪さができない。

もともと大部隊で悪さが起るのはその兵士の所属が簡単には分らないためだ。

銀鬼の軍の兵士は不特定多数の兵士に常に監視されているのだ。

 共同体から強奪された五千人の女達は駐屯地から遠く離れた農場に連れて行かれた。

女達を誘拐したのはもちろん銀鬼軍の赤目兵だった。

赤目兵が駐屯地に女を連れて戻ると女達は集められ、徒歩で遠くの農場に連れて行かれた。

川沿いの大水田帯だ。

農場へは駐屯地から徒歩で3日もかかる。

その途中には大小の都市が点在している。

軍隊で強行突破することもできたが、軍にも被害が出るだろうし、攻撃してくる者は自国の民だ。

 銀鬼はミーナに相談した。

「そうですね。銀鬼さん、兵士に制服を与えることができますか。」

「できません。近くに町はあるのですが、この軍は町にとっては裏切り者ですから。」

「千姉さんに頼んでみます。2万着なら共同体の工場で作ることが出来ると思います。」

「いくらでも金塊がありますから我が軍が購入することにします。共同体も特需に出会うでしょう。」

「了解。後は鼓笛隊と戦車ですね。」

「ミーナ先生が何を考えているのかわかりません。」

 「今必要なのは軍隊に対する都市住民の信頼だと思います。自分たちの国の軍隊が無くなって敵に寝返ったのです。反攻する術もありません。首都の住民20万人が焼き死んだことはみんなが知っています。それは攻撃した共同体が他国の財産には関心がないことを意味しております。財産に興味がある敵なら自分たちの町は破壊しないで占領するはずですから命は助かります。町全体を灰にすることができる敵は恐怖です。国主が降伏すれば町や自分たちは助かりますが国主の所在もわかりません。それで町が降伏できる環境をつくってあげればいいと思いました。」

「分りました。兵士には行進の練習をさせましょう。一糸乱れぬ行進がミーナ先生の考えを遂行するために必要だと思います。それと盾を持たせます。見栄えがしますから。」

「了解。派手に行きましょうか。」

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