第38話 38、黄金の国の襲撃 

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 黄金の国は五千名の兵士を共同体にさし向けた。

以前の兵力は一万名だったからこの3年間は兵力を増加させていたのかもしれなかった。

五千名の兵士は全て遷移できる赤目か金目だったらしい。

何の前触れもなく、突然海辺の町に現れた。

兵士は鎧を着ているわけではなく、普通の身なりをしており、短剣と短い棍棒を黒いマントで隠していた。

 最初に襲撃されたのは町外れの水田であった。

水田で働いている女奴隷の背後に突然現れて、女の頭を棍棒で殴り、倒れる体を抱いて消えた。

周囲が事態を知る前に三千名もの女奴隷は強奪されてしまった。

町でも街路にいた女の背後に突然現れて頭を殴り、体を抱えて消えてしまった。

周囲には男もいたのだが突然のことで何もできなかった。

 学校にも少数の兵士が現れたのだが学校は広く、敷地外から中を見るのは難しかった。そのため兵士は一旦敷地内に入って隠れて誘拐する女を捜さなければならなかった。

敷地内に遷移した兵士百人ほどはロボット警備兵の餌食となって消えた。

 兵士による集団誘拐は住宅街でも行われた。

女が家に居ると判れば家の中に遷移してから女を攫(さら)った。

金目族の住宅街では誘拐は起らなかった。

家が大きいし金目がいるかもしれなかったからかもしれない。

ほんの小一時間の間に、町の女達四千五百名が兵士に強奪された。

黄金の国は後に強奪国家や誘拐国家と呼ばれることになる。

決して拉致などという生易しいものではない。

 無力の女が五千人も強奪されたことは共同体を結束させるのに十分な理由だった。

直ちに黄金の国に侵攻するための軍が編成された。

千の学校にも協力のお願いが軍からあり、千はそれを進んで受けた。

一つの国家が兵士を使って女を強奪するとは許し難い暴挙であった。

それは滅ぼされても文句は言わないと言う意思表明でもあると解釈された。

 共同体の軍の指揮官は金鬼老人がなり、ミーナの軍勢はその指揮下に入った。

ミーナはこの事件は共同体の結束を強くする丁度いい機会だと述べ、他部族から兵士を募るべきだと主張した。

金鬼大将はその主張に同意し、ミーナを別動隊の司令官とし、部族を統合して黄金の国を攻撃するよう命令した。

ミーナは直ちに十部族に連絡し、各部族から五名の兵士を派遣するように要請した。

ミーナの名前は各部族に信頼と共に知られていたので全部族は直ぐさま五名の兵士を供出した。

部族の連絡員は遷移でそれらの兵士を学校の兵舎に運んだ。

ミーナは町からも20名の兵士を新たに募った。

家族や知人を強奪された男達は進んで兵士となった。

ミーナの軍は百人の軍となった。

 ミーナは4日間で軍事教練を終え、直ちに熱気球の操縦を兵士に教えた。

30名の元からいた兵士は熱気球の扱いに習熟していたので熱気球の操縦を教えるのは容易だった。

ミーナ軍の百名は3日間で気球を操縦できるようになった。

ミーナは100機の熱気球を使うことにした。

一つの気球には操縦者が一人と爆弾を落とす兵士一人が多数の爆弾と共に搭乗する。

黄金の国の首都に爆弾を落とすつもりだった。

高い空から爆弾を落とせば地上の修羅場は見なくてもいい。

 熱気球は学校の班員全員5人が乗れるように6人が乗ることができるようになっていた。

70㎏が6人だ。

爆弾は280㎏まで積むことができる。

爆弾の重さは10㎏だから一つの気球で28個になる。

100機の気球は2800個の爆弾を落とすことができるはずだ。

 ミーナは簡単な照準器を作った。

錘りと望遠鏡の組み合せで、十字線が見える望遠鏡の対物レンズ側を錘りで真下に向けるようになっている。

コリオリの力も風も全て目分量で計算する。

目標が望遠鏡の視界に入ったら爆弾を落とせばそこら辺に当る。

 ミーナは簡単な爆弾倉も作った。

4列6列の枠で爆弾を24個収めることができた。

気球のゴンドラの底に簡単に固定できるようにした。

枠から伸びている紐を引けば爆弾は落ちる。

爆弾が入った爆弾槽を基地に何個も用意しておけば事故を起こさないで爆弾を積むことができる。

 ミーナは千姉さんに頼んで黄金の国の首都の正確な地図を作ってもらった。

金鬼大将に都市を壊滅させるのか国主を殺すのかを問うと金鬼大将は分らないと言った。

誘拐された女達を取り返せるならどんな手段も合法化されるはずだとも言った。

そして、その方法が分らないとも言った。

ミーナは一生懸命考えた。

 襲撃を受けてから十日後、ミーナは黄金の国に攻め込んだ。

拉致より誘拐よりも悪質な強奪犯の国だ。

遠慮はいらない。

初日は人が起きている昼間に攻撃した。

熱気球は爆弾を抱えて次々と上空に昇って行った。

各熱気球は50mの長さの細く軽い紐で繋がれ、先頭はロボット小隊長がゆっくり引いていた。

100機の熱気球は5㎞の長さを持つ一列の大空に浮かぶ紐になって地上から見ても実に壮観な眺めだった。

 熱気球は次第に高度を上げて3000mの高度に達してから水平飛行に入った。

赤目も金目もこの高度までには遷移できない。

それは確かめてある。

エメラルド目も昇れない。

銀目の思念も青目のテレキネシスもここまでは届かない。

 速度は遅かったがミーナの軍隊は何の抵抗にも会わないで黄金の国の上空に到着した。

ミーナはヘッドギアの出力を最大にして攻撃を宣言した。

「私は共同体のミーナ。今から攻撃を行う。この国は強奪犯の国だ。強奪犯は罰を受けなければならない。十日前、この国は我が国の女、五千人を強奪した。突然背後に現れて棍棒で殴って気絶させ、強奪した。この強奪犯の国は罰を受けなければならない。今から2400個の爆弾と焼夷弾を投下する。関わりのない市民は身を防ぎ消火に務めよ。この攻撃はこれから毎日続く。攻撃は強奪された女達が我が国に全員が戻った時に止む。強奪誘拐した兵士は女を戻したら生かして我が国の奴隷にしてやる。殺さない。我が国の言葉を覚えれば我が国の国民になれる。以上だ。」

この言葉をミーナは3回繰り返した。

そして攻撃に入った。

 大空の黒い紐はゆっくりと曲がり、王宮の上を通るコースを取った。

王宮の屋根は突然爆発し、その後、紅蓮の炎に包まれた。

爆弾は火薬と鉄球が入っていたし焼夷弾はガソリンと油脂と火薬が入っていた。

爆発は24回連続して起ってから小休止し、その後再び24回の爆発が起った。

それは長い攻撃だった。

一つの熱気球が24個の爆弾を落とすのには1分間が必要だから100機の熱気球の攻撃は二時間がかかった。

熱気球の帯は爆弾を落とし終えるとゆっくりともと来た方向に戻って行った。

後は廃墟になった王宮と一列に火炎を上げている町が残った。

 その日の真夜中、強奪犯の国の住民は再びミーナの声を聞くことになった。

眠っていた者も頭の中で大声で語るミーナの声で目が覚め、大急ぎで衣服を整えて襲撃に備えた。

もっともその手段は貴重品を持って郊外に逃げる以外はほとんどなかった。

真夜中の二時間の連続攻撃で、王宮を中心とした円形の街並が灰燼になった。

翌日は昼間の攻撃はなかった。

だがその夜には再び空襲攻撃が行われた。

ミーナの声は市民の頭蓋の中で響き渡った。

今度は王宮の周囲の街並が攻撃され、夜が開けると王宮の周囲は広々とした燃えかすの広場になっていた。

ミーナの夜間攻撃はここで止まった。

爆弾の供給が追い着かなかったのだ。

 強奪犯の国の状況は良く分からなかった。

首都の町は円環状の半分ほどになっていた。

まだ残っている家々の屋根には大きな白旗が立てられていた。

降伏の意思表示だ。

だが、王宮の焼け跡にはまだ白旗が立っていない。

 最初の空襲から一週間後、ミーナの気球隊は強奪国家の首都の空に入って来た。

「私は共同体のミーナ。いまだに一人の女も戻されていない。女を攫(さら)っておいて白旗を挙げるのは矛盾する。白旗は役に立たない。共同体は誘拐された五千人の女を取り戻すまで攻撃を止めない。それとも2万人の娘を差し出すか。全員奴隷にして働かせてやる。交渉したければ代表を共同体に派遣せよ。いまから30分後に攻撃を開始する。」

 ミーナは町の周囲から爆撃を始め、町の外周が火炎に包まれると爆撃を止めて様子を見た。

町を包む円筒形の炎は周囲から空気を吸い込み延焼を内側に進めて行った。

円筒の内側は凄まじい放射熱のため延焼するわけではなく自然発火して行った。

家々の燃焼が終わったのは数時間後だった。

これまでの火災と違って黒こげの焼け跡ではなく白い灰の焼け跡だった。

円筒の内側では誰も生き残ることはできなかったようだった。

火炎が無くなっても外に出て来る者はだれもいなかった。

中心付近では煙も出なかった。

ミーナは数十万人を焼き殺したのかもしれなかった。

 半分ほどの爆弾を抱えたままミーナの熱気球隊は共同体に戻り、ミーナは金鬼大将に結果を報告した。

金鬼大将はあの優しいミーナが容赦もなく町の大部分の市民を焼き殺したことに驚いた。

誘拐を命じた者は国主であり実行したのは兵士である。

市民はそんなことがあったとは知らない。

「戦争とはそういうものですから」とミーナは小さい声で言った。

 黄金の国の美しかった首都が数回の攻撃で灰燼となり皆殺しされたという噂は黄金の国の他の市町村に瞬く間に広まった。

相手は金目族の男達がとても昇ることができない高所から爆弾と油をまき散らす。

相手は無傷でこちらは皆殺しになる。

とても『戦い』などと言えるものではない。

虐殺でしかない。

 ミーナの声は市の外に逃げ出した人々から国中の市町村に伝えられた。

『共同体のミーナ』は恐怖の名前として知られるようになった。

黄金の国の国主は最初の攻撃の時に逃げ出していた。

金目族は逃げるのは容易だ。

遷移して、よく分っている場所に移ればいい。

国主は首都からかなり離れた別荘で首都が灰燼になって行くのを山の端に薄ぼんやりと見える赤くなった夜空から推し測ることができた。

ミーナの言葉も全て聞こえた。

 黄金の国の軍隊はまだ健在だった。

軍は市の外に駐屯しており、首都を守っていたのは軍ではなく警察だった。

件(くだん)の女達は全て遠くの農場に奴隷として送ってあった。

首都を無くしたのは大きな損害ではあったが軍さえ健全ならいくらでも再建できる。

あり余る金をばらまけば新しい王宮と町を再建するのは容易だ。

 ミーナは金鬼大将を熱気球に乗せて朝から強奪の国に偵察に出かけた。

2小隊が十機の熱気球に分乗し、小隊長が紐で結ばれた熱気球を引っ張った。

もう一人の小隊長は熱気球の辺りを浮遊していた。

敵国に入るとミーナは高度を1000mまで降下させた。

がんばれば金目は気球を襲うことができる高度だ。

攻撃があれば付近に敵がいるということだ。

気球はアラミド繊維でできているから弓でも槍でも穴は空かないが火矢は苦手だ。

ゴンドラの中の兵士は量産に入った連発銃をゴンドラの縁に載せて待機し、小隊長は気球の上を巡回していた。

ミーナの軍の兵士は槍も弓も持たなくなっていた。

 国境から首都に続く道沿いに進むと大きな駐屯地が見えて来た

気球が見つかったのであろう。

弓を持った兵がゴンドラの下辺りに現れては落下して行く。

いくらかの兵士はゴンドラの高度にまで上がることができて弓矢を射ってから落下していった。

ゴンドラの兵士はモグラ叩きのように突然現れる敵兵を銃で射ちまくった。

射たれた兵士は落下の途中で遷移して消えること無く地上に落下して行った。

諦めたのであろう。

暫くして攻撃は止んだ。

 熱気球は攻撃無しで通りさって行ったが、兵士は不安感を持った。

駐屯地の位置が敵に知られたのだ。

いつでも大空の黒い蛇が襲って来て爆弾の雨を降らすことができる。

5㎞の長さの黒い蛇に何重にもとぐろを巻かれたら逃げ場が無い。

それに対抗する手段は見つからない。

 ミーナの偵察軍は誘拐国の上を一日中、餌となって低高度を飛行した。

昼食と水はゴンドラに載せてあったが用便に対応する物はなかった。

金目と赤目の兵は仲間の用便のために地上に遷移で連れて行った。

ミーナは小隊長の背中に乗ってどこかに消えて行った。

気球は確かに安全で強いのだが、用便の用意が無いのが欠点だった。

夜ならまき散らすことができるかもしれないが。

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