第34話 34、緑目族と茶目族 

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 桟橋に着くとミーナの部隊は対岸に移った。

川沿いにある道は対岸なのだ。

大分歩くと広い河原になっている場所に出た。

道はせり出した山の崖で無くなって河原を迂回しなければならないことになっていた。

そこは緑目族と出会った場所だった。

念動力者にとってふんだんに石がある河原は戦いやすい場所だ。

ミーナはエメラルド目兵士を上空に上げ隊列を小隊ごとの二列縦隊にした。

左右の兵士が互いに盾を斜めに肩に背負い頭上に屋根型の覆いを作った。

例え石が落ちて来ても踏ん張れば横におちるかもしれない。

もちろん、運が良ければ。

小隊長は小隊の頭上に向かう大岩を消すため小隊の後ろを歩いた。

 エメラルド目の偵察兵は対岸の森の中に緑目族の村がある事を報告した。

ミーナは部隊を対岸に移動させ、森を緑目の村に向けて一直線に少しずつ消して、巾が数mの道を作っていった。

村が見えるようになると残りの数本を消し、村から河原が見えるようにした。

洪水を恐れたのであろう、村は河原よりも大分高い所にあった。

ミーナは村の平地の外で部隊を止め、村に向かって大声で語った。

村に無断で入れば侵略だが、玄関前で訪問を告げるのは当たり前のことだと思ったのだった。

 「私はミーナ。黒目族出身の娘です。この村の村長と話をしたくてここに来ました。危害は加えません。侵略もしません。どうぞ私を村に招き入れて私の話を聞いて下さい。確約します。攻撃しなければ危害は加えません。侵略もしません。」

ミーナの声に答えるように周囲の森から男達が短弓と槍を持って現れ、ミーナの20m前に一列に並んで槍を構え、弓には矢をつがえた。

ミーナはいつものように透明なステッキパラソルを肩にかけて相手が言葉を出すのを待った。

 「お前はだれだ。何しにきた。」

中央の男が怒鳴った。

「私の名前と出身地と目的は既に告げましたが聞こえなかったようですね。声を大きくします。これでこの村の全員が私の言葉を聞くことができるはずです。私の名はミーナ。黒目族出身の二十歳前の娘です。この村の村長と話をしたくてここに来ました。今度は聞こえましたか。」

「何しにこの村に来た。」

そう言って男はばつの悪い顔をした。

その答えは既に相手からはっきりと伝えられていたからだ。

「長老は忙しいのだ。お前達と会っている暇はない。」

「貴方はそんなことを言って責任が取れますか。この村の将来がかかる問題なのですよ。貴方の次の一言でこの村が滅びるかもしれません。村長でもない貴方にその責任が取れますか。」

「むむ。村長に聞いてくる。ここで待っておれ。」

「それがいいですね。ここで待ちましょう。」

 暫くすると男が小走りで戻って来た。

「長老様は村の広場で会われるそうだ。着いて来い。お前一人だ。」

「やはり、貴方の判断は間違っていましたね。・・・小隊長、戦闘態勢を取らせよ。私が攻撃されたら森と同じようにこの村を村民を含めて全て消し、更地にせよ。」

「了解しました、司令官。ご無事で。」

「そうだな。命は大切だからな。・・・行きますか。前を歩いて案内して。」

 ミーナが案内されたのは広場の端の東屋(あずまや)だった。

村の広場にはたいてい東屋がある。

村長は老人で木の腰掛けに座っていた。

ミーナが老人の前に立った時、老人が言った。

「話があるそうだな。」

 「はい。私は川下の金目族の町から参りました。引き連れているのは金目、銀目、赤目、青目、緑目、黄目、茶目、白目、紫目、エメラルド目と黒目の30名の混成部隊です。この村への道が分らなかったので川から村の前まで森を消して道を作ってしまいました。お許し下さい。私の軍はこの辺りの部族に文字と知識を広め共同体に入ってもらうために編成されました。既に青目族と赤目族からは賛同を得られ共同体に入って頂きました。」

 「言っていることがよくわからない。共同体に入るとどうなるのだ。」

「この村に学校が建ち、そこで共通の言葉と文字と知識を教える教師と通訳の二人が派遣されます。共同体の共通の言葉を教えるためです。共同体とは安全保障の体制です。部族の自治権は補償されますが相互の争いは禁止されます。他部族を攻撃すれば共同体の他の部族が協力して攻撃した部族を滅ぼします。黄金の国のような国から部族が攻撃されたら共同体は協力してそれを退けます。もちろんそのための共同体全体のための軍も必要です。私の軍は最初の一つです。」

 「何となく分った。だが、金目族が他族を襲った場合はどうなるのだ。金目族は強い。」

「金目族が他族を襲った場合にも共同体は協力して金目族を滅ぼします。私の軍もそれに参加します。」

「だが、金目族は人数も多いし強い。」

「私の軍は金目族の軍よりもずっと強いと思います。それは金目族の軍も知っていると思います。おそらく全部族が攻撃して来たとしても結果は同じになると思います。」

 「そんなに強いのになぜ他族を支配しないのだ。」

「そう言えばそうですね。なぜなのでしょう。長老に聞いてもいいですか。」

「なんじゃ。」

「人間を支配できる力があるのに神様はなぜ人間を支配しないのでしょうか。」

「むむ。神様だからだ。」

「神様だと、どうして人間を支配しないのですか。」

「神だからだ。」

「それが質問の答えになると思います。この共同体構想を作ったのは千姉さんです。恐ろしい力を持っております。この星を100秒間で半切出来ると言っていました。千姉さんはまさに神様です。この星の人間に逆らう術(すべ)はありません。川からの道を十分間ほどで作れたのも千姉さんの知識が生んだ武器です。神様は強いのに支配はしません。これで質問の答えになりましたか。」

 「分った。神様が考えたことなら従おう。共通の言葉はいいことだ。それでその言葉を話す文字とは何だ。」

「文字は記号です。文字を発音すれば言葉になり、言葉は文字にできます。長老が子孫に伝えたい言葉があれば木片にでも文字を書いておけば子孫は長老の言葉を聞くことができます。」

「それはいい方法だ。共通の言葉とは金目族の言葉か。」

 「そうです。一番人数が多いですから合理的です。金目族は多数の奴隷を使っております。奴隷は金目族の言葉を話せるようになるまで奴隷のままです。毎年四月に言葉の試験があります。言葉が話せるようになっていれば奴隷は解放されて市民になれます。ですから共通の言葉を覚えれば金目族の町に入っても捕まって奴隷にされることはありません。」

「自由に金目族の町に入れるのだな。」

「そうです。基本的には赤目の部落にも青目の部落にも行けるはずです。」

「逆に金目族が入って来る場合もあるのだな。」

「そうです。でも部族の自治権は認められています。その辺りは共同体が出来上がってから調整したらいいと思います。」

 「よく分った。で、具体的にはどうすればいいのだ。」

「これから他の部族をまわって共同体を作ります。共同体が出来たら連絡係をこの村にも送ります。それから学校建設の段取りをしようと思います。」

「分った。連絡員を待てばいいのだな。」

「そうです。その時にはよろしくお願いします。それではこれで失礼します。」

ミーナは頭を下げてから部隊の待つ所に戻った。

 ミーナの軍は対岸の道に戻り、次の茶目族の部落に向かった。

川の巾は次第に狭くなり、多くの支流が山あいの谷から流れ込んでいた。

茶目族は読心の力を持つ部族だ。

空から襲われることはないはずだ。

ミーナは川沿いの平坦な場所で部隊を止め、天幕を張った。

水音が高く山鳥の声も聞こえる。

山の懐かしい匂いが漂ってくる。

 ミーナは兵士に交代で水浴をさせた。

一小隊が水浴している間、他の小隊が見張っていた。

ミーナも少し上流に小隊長を連れて行き、小隊長に辺りを見張らせながら水浴した。

明日には黒目族の部落に入る。

汗臭い体で部落に戻りたくはなかった。

沐浴再会だ。

 翌朝は早くから茶目の部落を捜した。

エメラルド目の偵察兵もなかなか見つけることができなかった。

基本的には弱い茶目族や黒目族は隠れて生活している。

道は作らないし、煙も高くには上げない。

ミーナには目星が着いていた。

先ず、断崖に張り出している洞窟の岩棚を見つけて、真下の河原の断崖側を捜せばいい。昔、茶目族のワルが腕の治療後に対岸の草むらに入って行った事を覚えている。

 「小隊長、誠にすまんが私を背中に載せて運んでくれないだろうか。」

「了解、司令官。光栄です。」

「すまん。最初は川沿いに断崖がある場所を捜してくれ。断崖には岩棚が張り出している所があるからその真下の河原に連れて行ってほしい。

「了解。」

件(くだん)の断崖は捜索地域より少し上流であった。

断崖には懐かしい洞窟の岩棚があった。

千姉さんに最初に出会った場所だ。

川面をゆっくり対岸に進むと果たして草が踏まれた跡があった。

その跡を辿って林を進むとずっと向こうに部落があった。

川からは500mも離れていた。

林の樹は大きいので上からは分らないだろう。

「OK、小隊長。ありがとう。部隊に戻ってくれ。」

「了解。」

 部隊に戻るとミーナは部隊の陣容を整え、茶目族の部落を目ざして進軍させた。

今回は林を消して道を作ることはしなかった。

村が川から丸見えになるのは茶目族にとっては耐えられないだろう。

二列縦隊で村の前に来ると長老らしい老人が数人の若者と共に立っていた。

ミーナは行進を止め、黙って立っていた。

「何用でしょうか」

老人が言った。

 「私はミーナ。隣の黒目族の娘だが川下の金目族の町から来た。話をしたい。」

「分りました。貴方の他に数人の方の心は読めませんでしたが襲撃を企ててはいないことは分ります。どうぞ村の中にお入り下さい。そう、兵士の方が思っているように村ではなく部落に近いですね。」

「ありがとうございます。兵士はここで結構です。・・・小隊長、臨戦態勢で五列縦隊。盾は前方に掲げさせよ。」

「了解。司令官。」

 ミーナは小隊長一人を伴って部落に入った。

部落には広場はあったが建物はなかった。

長老は革紐が編まれた椅子に腰掛け。ミーナにも椅子をすすめた。

「さて、どのようなお話でしょうか。」

「数日前に金目族の町を出発し、青目族、赤目族、緑目族と話をし、同意していただきました。この辺りの部族を統合した共同体を作ろうと考えております。部族の自治権を認めつつ、共通の言葉と文字を広めようと考えております。共通の言葉とは金目族の言葉であり、文字とは言葉を記録する記号です。記号を発音すれば言葉になります。部族間で言葉が通じれば誤解による争いは少なくなると思います。共同体に入れば侵略は禁止されます。どこかの部族が他部族を侵略すれば共同体の部族は協力して侵略した部族を滅ぼします。その時は協力しなければなりません。どこかの国が部族を攻めたら共同体は協力して対抗します。その時にも協力しなければなりません。ここまでは理解できましたか。」

 「理解できたつもりだ。弱い部族にとってはありがたい組織だ。連れてきた軍は金目族の軍か。」

「違います。共同体の軍です。」

「そうか。それは良かった。あんたの軍は非常に強い。強すぎるほど強いようだ。」

「ご明察かもしれません。」

「共同体に入りたいと思う。何をすればいい。」

「当面することはありません。全ての部族が共同体に入ったら連絡員を送ります。その後、学校を建て、教師と通訳を派遣します。学校に関しての茶目族の負担は二名の生活の面倒を見ることです。」

 「分った。簡単だ。もっとも、金目族の町の生活と比べられたら困るがな。」

「共同体に入って交流が盛んになればすぐに金目族の生活と同じようになりますよ。」

「そうなりたいものだな。」

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