第33話 33、赤目族の平定
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篝火(かがりび)の横には小さな天幕が作られていた。
ミーナは天幕で食事をとった後、色々な目を持つ兵士を呼びその兵士の部族の場所を聞いてその位置を地図に記入していった。
地図はマンがこの辺りを飛んで上空写真と共に用意してくれていた。
それによればこの川の上流には赤目族と緑目族と茶目族と最も上流にはミーナがいた黒目族が住んでいるらしい。
他の目の部族は川から離れていた。
ミーナは先ず川沿いの部族を制圧、平定することにした。
翌朝は日が駐留地に差し込んだときに兵士達は朝食を取った。
その間にミーナは川辺に行って大岩の蔭で朝の排便をした。
男達の軍の若い娘は居心地が悪い。
ましてミーナは花も恥じらう二十歳前の乙女だ。
自分の年は分らないが二十歳になるにはもう数年かかるようだ。
土手を覆う木立を通り過ぎると、そこはもう赤目族の勢力圏だ。
遷移できる赤目族にとって広い土地を領地にすることは簡単だ。
遷移して境界を見張ることができる。
ミーナはエメラルド目の偵察兵を一人ずつ順番に上空高くに上げた。
エメラルド目は空中浮遊ができる。
自分を念動力で空中に保つことができる。
赤目は空中に遷移できるがすぐに落下してしまう。
落下しながら矢を射たり、槍を落としたりするのだ
低空のエメラルド目は赤目の餌食だが高空なら安全だ。
その高さまで赤目は一回では到達しない。
目標の位置も曖昧になる。
林の切れ目でミーナは兵に密集隊形を取らせた。
隊列の中に遷移されたら味方は対処できない。
入って来た者にとっては周りは全て敵なのだから自由に刀を振り回すことが出来るが味方は仲間を傷つけてしまうから下手(へた)を打てない。
敵は数人傷つけてから遷移で消えてしまえば安全だ。
小隊を密集隊形にしておけば小隊の中には遷移できない。
遷移する空間もないし、たとえ遷移できたとしても周りの兵士で身動きできない。
小隊を合わせ、3列縦隊で両横と上部を盾で覆った。
隊列の前後は小隊長が守った。
ミーナは透明なステッキパラソルを肩にかけ隊列の先頭を歩いた。
その後ろ横を小隊長の一人がミーナを守っていた。
1時間ほど行進すると対岸に見覚えのある赤目族の桟橋が見えて来た。
赤目族の村は対岸にあることになる。
ミーナ軍は既に見つかっているはずだが赤目族の姿はまだ発見できなかった。
ミーナの軍隊は完全に軍隊に見える。
槍や弓らしき物を持ち大きな盾で周囲を囲んでいる。
全員同じ衣装をしている。
盾の下から見える足も同じ歩幅で同じ調子で歩いている。
少しの乱れも無い。
軍が桟橋の対岸に達し、ミーナは行進を停止させ対岸に向かって大声を出した。
「私はミーナ。赤目族の長老の知り合いだ。赤目族、姿を現せ。危害は加えない。そこに折れた腕を治したドアナはいるか。いるなら私の前に来い。」
ミーナはそれを二度繰返して暫く待った。
暫くすると槍を持った大男がミーナの5m前に突然現れた。
「おれはドアナだ。お前の声は頭の中で聞こえる。大分前のことなので覚えていないが前に出会った二人連れの女の一人か。」
「そうだ。お前が千姉さんに腕を折られた時に一緒にいた。」
「思い出した。女神様はお元気か。」
「千姉さんは海辺の町で学校を開いて文字と知識を教えている。」
「学校とは何だ。文字とは何だ。」
「学校とは文字と知識を教える所だ。文字とは言葉を記号にして残すものだ。」
「おれを呼んだ理由は何だ。」
「長老と話をしたい。案内をしてほしい。」
「後ろの連中は兵士か。」
「私の軍隊だ。33人いる。」
「俺より強いのか。」
「強い者もいれば弱い者もいる。金目、銀目、赤目、青目、緑目、黄目、茶目、白目、紫目、エメラルド目と黒目の混成部隊だ。小隊長はドアナよりも強い。」
「みんなを村に連れて行くのか。」
「そうだ。長老に混成部隊を見てほしい。目の色が違っても同じ言葉を話すようになれば仲良くなれることを見せたい。」
「村を襲いに来たのではないのだな。」
「そうだ。襲うつもりならこんなに開けっぴろげで現れない。」
「分った。暫くここで待ってくれ。長老に報告する。」
突然ドアナの後ろに老人が現れた。
「ドアナ、村に案内しなさい。ワシは村で待っている。」
「あっ、長老。よろしいのですか。」
「相手を見て分らんか、ドアナ。とても敵う相手ではない。」
「ゴン長老、ありがとうございます。」
「あんたの声は大きすぎる。村でも全部聞こえた。」
「そうでした。忘れておりました。」
そう言ってミーナはヘッドギアの一部を触った。
長老はすぐに消えた。
対岸に渡るのに、金目と銀目、赤目と青目は組みになって対岸に渡った。
一人を抱いて遷移したのだ。
エメラルド目は一人で浮遊して渡った。
ミーナを含む残りは小隊長が二回に分けて遷移して対岸に渡った。
桟橋から村への道ではミーナ軍は両側に盾を立て二列縦隊で進んだ。
村の木陰前の東屋の前に来ると横隊になり、盾は手前に立てた。
それは防御の体勢ではない。
兵士には日が当っているから暑いかもしれなかったがミーナは我慢させた。
東屋の奥の長椅子には既にゴン長老が座っていた。
後ろに一人の護衛が立っていた。
ミーナはそれを見て小隊長の一人を連れて近づき長老の前に立ってから言った。
「お久しぶりでございます、長老様。」
「貴方も千様と同じような方なのでしょうか。」
「いいえ、千姉さんは1億年以上生きておられますが私はまだ十数年しか生きていない黒目族の娘です。私に敬語を使う必要はありません。ミーナと呼んで下さい。」
「そうですか。ミーナさん。今日は何の話でしょうか。」
「はい、千姉さんは川下の金目族の町で学校を開いております。教師を作る学校です。そこでは文字を教え、色々な知識を教えております。まだ半年ほどですがそこの学生は金や銀や銅や水銀を鉱脈から生み出し、いくつかの機械を造り出しております。文字とは言葉を後世に残すことができる記号です。木片や紙に文字を書いておけば、それに従って音を出せば言葉になって聞こえるのです。長老が子孫に自分の言葉を伝えたければ文字で書いておけばいいのです。子孫はそれを呼んで長老の言葉を聞くことができます。
小さな町が金の小粒の産生を始めたので、この辺りに金を供給している山の向こうの黄金の国は危機感を持ったのでしょう。最近、二千名の兵士が学校を襲いました。千名の赤目と千名の緑目の部隊でした。千個の大石が学校の上空に現れて落ちて来ました。全部の大石を消すのはできませんでした。12個が敷地内に落ちてしまいました。その後、十数分で千名の緑目を殺しましたが残りの千名の赤目は遷移して逃げてしまいました。惨めに負けた黄金の国は再度攻めて来るはずです。千姉さんは心配しました。この周辺は一つの国ではなく部族間で互いに争っております。黄金の国の軍隊は一万名の兵士で構成されております。そんな軍勢に対抗できる力はこの辺りにはありません。なぜでしょう。どう思いますか。」
「互いに争って人数が少ないからだと思う。」
「千姉さんは共通の言葉がないからそうなるのだと考えました。部族間で言葉が通じれば争いは少なくなり一つの国を作ることが出来ると考えました。黄金の国みたいな国です。それで長老にはこの村に文字を教える学校を建てることを許可していただきたいのです。当面は教師が一人と赤目族の言葉が話せる通訳一人がこの村に滞在する許可をしていただきたいのです。学校の建物は我々が建てます。学校が必要な100m四方の土地を村の外れにいただきたいと思います。どうでしょうか。」
「学校に関しては何の問題もない。教師には食事の面倒もしてやろう。だが言葉の統一だけでは争いは無くならない。」
「その通りです、長老様。千姉さんは共同体による安全保障体制を作ろうと考えました。部族の自治権を認め、共同体内での争いを認めない体制です。共同体内の一つが他の部族を襲ったら共同体全体がまとまって襲った部族を攻めるという体制です。共同体内の部族の一つが他国から攻撃されたら共同体全体がまとまって対抗するという体制です。もちろん共同体全体の軍も必要だと思います。私の軍隊がその最初の軍隊になると思います。」
「しかもミーナ殿の軍の力は全部の部族を合わせたものより強いということかな。」
「恐れ入ります。まだ30人の少人数です。」
「わかった。この村に学校を作ってほしい。文字を学びたいし、知らない知識を学びたい。村の生活もずっと良くなると思う。共同体には入れてほしい。こちらからお願いしたい。千様の考えなら何の問題も無いし、周りの部族からの襲撃が無いのなら安心して穀物を作ることができる。ところでこれまで共同体に入った部族はあったのかな。それとも入らなくて滅ぼしたのか。」
「ご賛同ありがとうございます。昨日、町を出発し最初に川関所がある青目族に参りました。学校の設立と共同体への参加は同意していただきました。この村は二つ目です。これから川を遡(さかのぼ)って緑目族と茶目族と黒目族の村に行く予定です。そこが終われば山に入って白目族、黄目族、銀目族、紫目族、エメラルド目族の部族に行こうと思っております。」
「そうか。銀目族には気を付けることだ。奴らは強い。目を開けられたら遷移も出来なくなる。」
「銀目族は意思を強制できる能力を持っております。ありがとうございます。十分に注意することに致します。銀目族の力は私には届きませんし、小隊長にも届きません。紫目族にも届きません。」
「それだけ知っているのなら大丈夫だろう。」
「遠征が終わりましたら報告を兼ねて連絡員を派遣します。その後に学校を建設しようと思います。その時はよろしくお願い申し上げます。」
「分った。千様に宜しく伝えてくれ。」
「了解しました。』
ミーナは部隊を二列縦隊にしてから赤目族の村を去った。
盾は相変わらず行進の両側に掲げられていた。
赤目族を信用していない訳ではないが軍とは常に相手を信用しないものだ。
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