第32話 32、青目族の平定 

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 青目族の村は土手沿いにしばらく行ってから左側の広々とした平地にあった。

大きな木が点在し、木陰に小屋が建っている。

そこを通り過ぎると家屋が密集している場所があった。

村は一望できないほど大きかった。

町に近い人口があるのだろう。

青目兵は町を通り過ぎて広場に出た。

広場の正面には大きくりっぱな建物が建っていた。

 村の人々はミーナ軍の後をぞろぞろとついて来た。

それはあたかも青目兵が捕虜を引き連れて村に戻って来たように見えた。

これから捕虜がどうされるのかは興味がある所だ。

それにしても、捕虜は槍や奇妙な弓を持っており、大きな盾も左右に掲げて堂々と行進している。

捕虜達の先頭には透明なステッキパラソルを肩にかけた若い娘が周囲を眺めながら微笑みながら歩いている。

その後ろには屈強そうな男が姿勢を正して歩いている。

その男の後ろの集団は盾で見えないが行進は正確に先頭を歩く男と合っていた。

 青目兵達は広場の中央で止まった。

「ここが村の中心です。どこで村長と話しますか。」

青目の隊長はミーナに近づきミーナの意思を問うた。

「そうですね。中央の大きな樹の下で合いたいと村長に伝えて下さい。貴方の兵はここから見て左側の大樹の蔭に集合させて下さい。私の軍は右側の木陰に集めましょう。もちろん村長は護衛の兵を何人連れて来てもかまいません。私は一人で話します。それが会談を求めた者の礼儀です。いいですか。」

「分りました。兵士を木陰での待機を命じてから村長を呼んできます。」

「お願いします。」

 青目の隊長は自分の兵士に木陰で待機の命令を出してから立派な建物の方に駈けて行った。

「小隊長、右の木陰に軍を進め戦闘態勢を取れ。盾を周囲に廻らせよ。エメラルド兵3名に赤旗と白旗を持たせて上空に上げ、周囲の状況を見張らせよ。異常があったら赤旗を振らせよ。攻撃する者があったら消せ。」

「了解しました、司令官。」

「黒目兵。目を開けよ。逃げる必要があるか。」

「ありません。司令官様。」

「よし。時々目を開けて。必要があれば知らせよ。」

「了解しました、司令官様。」

「よし。」

 暫くすると立派な建物から中年の男が護衛の兵士十名を引き連れて出て来た。

その前を青目の隊長は青の鉢巻をして案内していた。

ミーナは大樹にもたれて近づくのを待った。

村長はミーナの5m手前で止まってから言った。

「隊長から話を聞いた。ワシと話をしたいそうだな。」

「私はミーナ。貴方の名前は何ですか。」

「ブルーだ。」

「ブルーさん。私は川下の海辺の町から来ました。川下の金目族が支配している町を知っていますか。」

「知っている。」

「私はそこで学校を開きました。学校とは文字を教え知識を教える場所です。文字とは言葉を記号で書き表すことで、言葉を永遠に残すことができます。言いたいことや伝えたいことを文字に書いて残すのです。文字を知っていますか。」

「知らない。」

「学校の学生は文字を覚え、書くことができるようになりました。おかげで知識が書かれた本から知識を学び色々なことができるようになりました。金坑脈や銀鉱脈を見つけて金や銀を取り出すことができるようになり、空が飛べる機械を作れるようになり、夜を昼間のように明るくする電気も起こせるようになりました。学校のことは知っていますか。」

「知らない。」

「最近、学校は山の向こうの黄金の国の兵士二千名の襲撃を受けました。我々は千名を殺しましたが千名は逃げられました。逃げた全員が遷移で逃げたのです。黄金の国は金を作り出して周辺に広げている裕福な国です。知っていますね。」

「知っている。」

「捕らえた捕虜の話によれば黄金の国は一万名の軍を擁しているそうです。惨めに負けたのですから必ずもう一度攻めて来るはずです。今度は敵を侮らないで慎重に攻めて来るはずです。最初に考えられるのは町の周辺の村や部落を殲滅して町を孤立させることです。誠に申し訳ないのですがこの村は我々の争いの巻き添えを食って一万名の軍隊で殲滅されるかもしれません。

 なぜそうなるのでしょうか。人数が少ないからであり、話す言葉がバラバラであり、互いに争いをしているからです。それでは人口の多い、共通の言葉を話す国にかなうはずがありません。今日ここに来たのはこの村に共通の言葉と文字を教える学校を建てたいとお願いするためです。共通の言葉があれば部族間での争いは少なくなると思います。共通の言葉を記録する文字があれば町の進んだ知識を知ることができます。そうなれば今より良い暮らしをすることができます。この町に学校を建て教師を派遣してもいいですか。」

 「その学校を建てるのにこの村はどれだけの負担をしなければならないのか。」

「そうですね。私の学校はお金持ちですからこちらで建てることができます。場所は近くの林を半日で更地にできますから問題にならないと思います。井戸はある様子ですから水は井戸を掘れば確保できます。教材もいくらでも無料で供給できます。問題となるのは食料と便所です。教師と学生の食料を負担して下さい。それから教師や学生の糞尿の処理をお願いしなければなりません。できそうですか。」

「それくらいはできる。」

「学校に派遣される者は二名です。一人が教師で一人が青目の通訳です。川下の町ではたくさんの青目人が住んでいて町の言葉を話します。町では町の言葉が話せないと奴隷にされてしまうのです。学校の件はよろしいですか。」

「来るのが二人だけなら問題はないだろう。許可する。」

 「ありがとうございます。ここに来た目的の半分が達成されました。これから我々は上流の村に行って学校を作るお願いをする予定です。もう一つの目的があります。それはこの村の存亡にかかる件ですから慎重にお考えください。」

「何のことだ。」

「この村は最初ですから我々と言うのは変ですが、我々は共同体を作ろうと考えております。安全保障を約束する共同体です。この村に我々の共同体に入ってほしいのです。共同体に入れば共同体内の争いは禁止されます。規則を破って共同体内で争えば他の部族が合同で双方を滅ぼします。片方が攻撃したら攻撃した部族を滅ぼします。外国から共同体の一つが攻撃を受けたら共同体全体で防御し反撃します。この前の黄金の国からの攻撃みたいものですね。共同体に入ることができそうですか。」

「共同体に入ると部族の主権はどうなるのだ。」

「主権は99%が保持されます。この村には共同体から連絡員が常駐し、この国からも共同体本部に連絡員を派遣します。この部族の政治は今まで通りこの部族で行って下さい。」

「だが、他の部族が攻撃されたら助けに行かねばならないのだな。」

「その通りです。それ故の共同体ですから。」

「共同体に入らなくてもいいのか。」

「入らなくても結構です。でも共同体内に共同体に入らない部族があるのは好ましくありません。その部族は殲滅させられます。」

「そなたにその力があるのか。我々は強いから金目族の近くに住めるのだ。」

「この世界は不公平な世界です。女には全く力がありません。女が産む子供は男の子であれば男の目を持ちます。男にしても戦いに強い方が良い生活をしております。そんな不公平なことはありません。私の学校では全員が鉢巻をして不思議の目を隠して生活しております。共同体に入れば少なくとも男は平時では鉢巻をすることになります。ご質問ですが私には力があります。先ほど学校を作るのに林を半日で更地にすると言いました。不思議に思いませんでしたか。そんなことは普通にはできないはずです。今その力をお見せします。正面の建物の両脇は何もありません。森が迫って来ております。森を消します。」

 そう言ってミーナはパラソルを閉じてステッキに変え、ステッキを頬骨に当ててステッキの先端を森に向けて小さなボタンを押した。

小さな音がして森が数百mに渡って消えた。

広場の地面も途中から皿状に抉られて無くなっていた。

先端が動いたらしい。

「このステッキは共同体の知識が生んだ武器です。これと同じものを私の軍隊の3名の小隊長が持っております。今は一秒間の拡散照射でしたが一分間続けたらこの村は誰も住まない更地になります。共同体に入らなくても結構ですが、御深慮下さい。」

 「分った。共同体に入る。それにしても恐ろしい武器だな。」

「力の無い女は知識を学ぶことで学ばない男よりも強い力を持つことができます。この村の女性達も共通の言葉を学び、その文字を学び、進んだ知識を吸収することをお薦めします。私はこの川の上流の黒目族の小娘です。黒目族は文字も無くいまだに狩猟生活です。知識を学べば私と同じようになれます。」

最後の言葉は女性達への呼びかけであった。

ミーナは会談の前にヘッドギアの出力を増し、村の住民全員と兵士全員にミーナの言葉が聞こえるようにしていた。

 「ブルーさん、この辺りを平定するこの遠征が終わって町に帰ったら連絡員をこの村に送ります。その時はご配慮下さい。それではこれで失礼致します。」

そう言ってからミーナは後ろに控えていた青鉢巻の隊長の所に行った。

「隊長、貴方の隊の捕虜状態を解きます。自由になさって結構です。でも私が言った言葉は続いていると思って下さい。その青い鉢巻をしていれば敵とは見なしません。」

「分りました。ありがとうございます。ミーナ様。」

ミーナは木陰の軍隊に戻り、小隊長に言った。

「戦闘態勢を解け。警戒態勢にする。来た時と同じように二列縦隊。盾で両側を防御。並足で行進させよ。偵察兵はそのまま偵察を続行。村から十分に離れたら小隊に戻せ。」

「了解しました、司令官。」

 青目族の村から大分離れた川沿いの土手に来てミーナは行軍を止めた。

土手の川側は石の河原で反対側は林になっていた。

林の樹は土手を越して河原まで延びていた。

「ここで野営する。兵士に燃える木を集めさせよ。」

「了解、司令官。」

 ミーナは河原の大石の上に腰掛け胸から横笛を取り出し静かな曲を奏でた。

ゆっくりとした曲で水面に音が漂って小波に反射し複雑な響きを辺りに広げた。

近くの兵士も遠くの兵士も心地よい音に胸がつまった。

五曲ほど奏でた後だろうか、ミーナの座っている石の周りに動物達が集まり始めた。

狸や狐やウサギが集まって来た。

ミーナのヘッドギアはまだ出力を高めたままだったからミーナの曲に対する思念が動物達の脳に届いたのかもしれなかった。

河原の小石の上に座って笛の方をじっと見つめている。

その光景を見て兵士は改めてミーナを見直した。

 兵士は殺し合いを前提とする。

相手を殺さなければ自分が殺される。

殺されるのは嫌だから必死に戦う。

弱い軍に入った兵士は惨めだ。

戦いで殺される確率が高い。

反対に、強い軍に入っている兵士は余裕が持てる。

 この日、ミーナ軍の兵士達はミーナが強い力を持ち、味方に一人の負傷者を出さずに目的を遂げた事を知った。

兵士にとって、信頼できない指揮官ほど恐ろしい者はないし、信頼できる指揮者は安全を保障してくれる神様のようなものだ。

女だから女神様かもしれない。

ミーナは森を消す力を持っており、小隊長もそんな力を持っているとも聞いた。

ミーナが兵士を守ろうとしていることはその言動から良く分かった。

軍の先頭を歩いて敵地に入って行く度胸も持っている。

兵士達はミーナに従っていれば生き残れると確信した。

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