第30話 30、ミーナの軍隊
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捕虜はロボット兵に連れられて学校の敷地の外に連れて行かれた。
いずれ農場で奴隷として働くことになる。
宣戦布告で始まった戦争の捕虜ではなく犯罪者だからだ。
農場では不思議の力が出せないように帽子を被せられるか、テレキネシスを使った重労働が待っている。
「予想通りの展開でしたね。やはり金を供給している国が危機感を持ったようです。」
千はコーヒーを飲みながら金鬼とギンとミーナに語った。
「どうなさるおつもりですか。」
金鬼老人はやや興奮して千に聞いた。
血沸き肉踊る戦いが始まるかもしれないのだ。
「当面、どうもしません。今回のことは二千名の組織立った犯罪者集団が金目になりそうな学校を制圧しようとして襲って来たものです。形式上ですがね。軍隊の十分の一が殺されたのですが敵国は何も言えないはずです。」
「確かにそうですな。黄金の国は学校の工場を破壊したかったのだと思う。脅かして新しい産業を思いとどまらせるつもりだったにちがいない。」
「でも金鬼君、仕返しは必ずしますよ。しばらく後にね。戦いには必ず勝ちますが、問題は勝った後にどのようにその国を支配するかです。それが一番難しいのです。そのためには十分に検討してから攻撃しなければなりません。20万人を皆殺しにしてこの町の人間を植民させるのか、20万人を生かしてこの町の人間にするかですね。その時にはこの国の言葉を覚えてもらわなければなりません。
「千先生は壮大な構想をお持ちなのですな。」
「私に分らないのは先に黄金の国をこの町が制圧してから周辺の部落や村を制圧するのか、先に周辺を制圧して国を作ってから黄金の国を制圧した方がいいのかがわからないのです。金鬼君はどう思う。」
「分りません。これまで考えたことがないので軽々に今思いついた意見を述べるわけにはいきません。」
「ギン君はどう思う。」
「私にも分りません。黄金の国が制圧できればこの町は強いと信じられるので周辺の村は容易に従うと思います。でも先に周辺を制圧して一つの国として黄金の国を制圧した方が外見は良いと思います。」
「ミーナはどう思う。」
「先に周辺の村を制圧した方がいいと思います。この町の周囲の村の生活はあまりに差があります。私の黒目族は今でも狩猟生活です。制圧されるのは一時の屈辱です。でも一旦制圧され、その後の生活が以前より良くなれば人々は納得すると思います。それに辺り一帯が全て制圧されるのなら部落は他部族からの襲撃を受けなくなります。国と言う共同体が出来ると言うことは安全保障という意味になります。各部族に教師を派遣して小さな学校を作ったら言葉の問題も解決できると思います。」
「いいわね。ミーナ、貴方がそうしなさい。周辺を平定して一つの国にしなさい。キン市長に言って30名の兵士を貸してもらうわ。ロボット兵も数体連れて行きなさい。兵糧と装備は私がいくらでも供給してあげる。」
「私にそんなことができるでしょうか。」
「できるわよ。」
「兵士の選定は私がしてあげる。兵士の宿舎もこの学校の敷地に建てます。兵士の訓練はここでやればいいわ。」
「分りました、千姉さん。やってみます。」
「OK。」
キン市長は千の命令を受けて30名の兵士を供出することにした。
もちろん金鬼大将の同意もあった。
学校が攻撃された事は町の将来にも安寧が補償されていないことを示していた。
千の学校が何をしようとしていることは何となく想像できた。
文明を興そうとしているようだ。
文字を教え、新しい産業を根づかせようとしている。
周辺を平定し、安定した国ができれば人心も安定する。
学校の休日に千とミーナは町の軍の駐屯地に連れ立って行った。
金鬼大将は歩くことはせず、遷移してあらかじめ駐屯地に行っていた。
駐屯地は金目族の住宅街の先で海に近い場所だった。
千は兵士を一列に整列させて円形に行進させた。
兵士が二周廻る間に30名の兵士を選別した。
千は兵士について何の情報も持っていなかったが選ばれた兵士は読心の茶目、念動の緑目、遷移の赤目、思念の白目、心停止の青目、透視の黄目、意思強制の銀目、空中浮遊のエメラルド目、そして心停止と遷移の金目が三名ずつとアンチプシの紫目が二人、予知の黒目が一人の構成になっていた。
「千先生は何を基準として選ばれたのでしょうか。」
金鬼は千の選択に驚いていたのだ。
色々な能力を持つ兵士をきっちり三名ずつ選んでいた。
金鬼は知っていたが千には兵士がどんな目を持っているのか分らなかったはずだった。
「何となくね。まあ言ってみれば、女の感ね。」
「女の感とは恐ろしいものですな。女房にも気をつけなければならん。先生は色々な能力を持つ兵士を三名ずつ均等に選び出したんですよ。」
「それは良かったわね。みんなこの町の周辺から集められた兵士でしょうから。」
ミーナは兵士を連れて街中を通って学校に行った。
千はその後からゆっくりついて行った。
千の姿はいつもの白いブラウスとタイトスカートという姿だったので少なからず注目を集めた。
学校に着くと早速ミーナは朝礼台ならぬ指令台の前に兵士を整列させて司令台に登った。
ミーナは千から周辺平定を頼まれた後、一生懸命に軍隊の教練を勉強していた。
しかしながら、ミーナは軍事教練がミーナの感性とは合わないように思えたので独自の訓練をすることにした。
最初は言葉だった。
「私はミーナ。今日から皆さんの司令官になりました。私はいまだに狩猟生活をしている黒目族の娘です。一生懸命勉強して今はこの学校の教師になっております。最近、この学校は山の向こうの黄金の国の兵士二千名の襲撃を受けました。頭の上数十mに千個の大石を浮かべて落とそうとしたのです。幸いにも実際に落ちたのは12個でしたし、襲った兵の千名は殺しました、残りの千名は逃げました。この学校の被害は屋根が凹んだだけでした。この町の軍隊よりも多数の兵士による突如の攻撃を考慮すると、この町はこれから戦争に巻き込まれると考えられます。敵に殺されるのはいやですし、奴隷にされることもいやなことです。我々は自分たちの手で自分たちを守らなければなりません。
皆さんは色々な色の目を持っております。目の色は部族ごとに違っております。部族ごとに話す言葉が違います。そのためか部族間の交流は無く互いに襲撃し合ったり、私の部族のように逃げ回っていたりします。そんな状況では安心して暮すことはできません。でも皆さん方はこの町の言葉を覚えて話すことができます。みなさんの部族のみんながこの町の言葉を話すことができるようになれば交流が生まれます。でもそれだけではだめです。他族から襲われないという補償がなければ安心した生活はできません。司令官としての私の役目は各部族に安全保障を与えて安心した生活をすることができる共同体を作ることです。共同体とは国のことです。この辺りの部族を合わせて一つの国とするのです。国ができればその中での殺し合いの争いはなくなります。この町は小さな国のようなものです。喧嘩はあるでしょうが大きな殺し合いはありません。なぜでしょうか。それは同じ言葉を話し、金目族が支配している警察がいるからです。我々は共同体の公平な警察になるのです。圧倒的な力を持った警察です。どの部族にも属せず、どの部族よりも強い力を持った集団になるのです。皆さんはそのために選ばれました。
皆さんはこれから暫くはここで生活し軍事訓練を受けます。訓練が終わったらこの辺りの部族を全て平定して各部族に言葉と文字を教えるための小学校を作ります。この町からの役人も派遣されるでしょう。国は人です。人なくして国は成立しません。各部族の平定にはなるべく人を殺さないようにします。人を殺さないで部落を恭順できる方法があったら遠慮なく案を出して下さい。
皆さんは三つの小隊に分けられます。小隊長はロボット兵です。ロボット兵は人間以上の優れた力を持っております。そのうち皆さんはそれを実感するでしょう。各小隊は五人ずつの分隊に分けます。分隊長はいずれ分隊の中から選びます。質問を許します。質問がある者は挙手をして名前を名告ってから質問せよ。」
一人の兵士が手を挙げた。
「クエと言います。ロボット兵とはどんなものでしょうか。話せるのでしょうか。」
「ロボット兵とはこの司令台の横に立っている者だ。背の高さはそなたより少し低いが強いし賢い。先頃の襲撃ではロボット兵十人で千人の敵を30秒ほどで全て殺した。一人の捕虜を残してな。」
司令台の横に不動の姿勢を取っていたロボット兵は精悍な顔をして頭を角刈りにしており、ミーナと同じような服鎧を着ていた。
何よりもロボット兵は常に地面から数㎝浮き上がっていたのだった。
「他にあるか。・・・なければ訓練を始める。命令に従え。右手を上げよ。」
兵士達は右手を挙げた。
真直ぐ挙げた者もいたし、肘を横に出して挙げた者や腕を体に着けて手首だけ上げた者もいた。
「下ろせ。手は肘を伸ばして耳に着くように上げよ。右手を上げよ。」
「下ろせ。右手を上げよ。下ろせ。指は閉じろ。右手をあげよ。下ろせ。もっと早く上げよ。右手を上げよ。下ろせ。右手を上げよ。下ろせ。もっと早く上げよ。右手を上げろ。そのまま保て。小隊長、兵士の姿勢を正させよ。」
「了解しました。司令官。」
三人のロボット小隊長は兵士の間を浮遊して曲がった顔や体を真直ぐにさせた。
兵士達はロボット小隊長が恐ろしい腕力を持っている事を実感した。
「よし、次は左手をあげろ。下ろせ。左手を上げよ。下ろせ。遅い。もっと早くあげろ。分ったか。」
兵士達は何も答えなかった。
「『分りました、司令官様』と言え。言え。」
「分りました、司令官様。」
「声が小さい。もっと大きな声で言え。言え。」
「分りました、司令官様。」
「声が小さい。もっと大きな声で言え。言え。」
「分りました、司令官様。」
「もう一度。」
「分りました、司令官様。」
「少しだけ聞こえるようになったかな。」
「左手を上げろ。」
「左手を上げることができるようになったか。」
兵士達は何も答えなかった。
「『できるようになりました、司令官様』と言え。言え。」
「できるようになりました、司令官様。」
「声が小さい。もっと大きな声で言え。言え。」
「できるようになりました、司令官様。」
「声がまだ小さい。もっと大きな声で言え。言え。」
「できるようになりました、司令官様。」
「下ろせ。踵を着けて爪先を直角に開け、尻に力を入れろ、腹を引っ込めろ、顎を引け。両手の中指はズボンの縫い目の位置だ。その姿勢が『気をつけ』だ。小隊長、姿勢を正せ。」
「了解しました。司令官。」
ロボット小隊長は中指の僅かな位置まで修正した。
「両手を後ろに回し、左指で右指をはさめ。そのまま左足を横に体の巾まで広げよ。その姿勢が『休め』だ。小隊長、チェックせよ。」
「了解しました。司令官。」
「よし、気をつけ。休め。気をつけ。休め。気をつけ。休め。できるようになったか。」
「できるようになりました、司令官様。」
「声が小さい。もっと大きな声で言え。」
「できるようになりました、司令官様。」
「声がまだ小さい。もっと大きな声で言え。」
「できるようになりました、司令官様。」
「よし、小隊長、三列縦隊を作り、学校の校庭を十周行進させよ。列が乱れないようにさせよ。足を合わせろ。かけ声を出させよ。1、2、1、2、1、2、3、4だ。」
「了解しました。司令官。」
ミーナは司令台の上から兵の行進を眺めていた。
ミーナはロボット小隊長の存在を心強く感じた。
二十歳も越えない小娘が30人もの兵士を訓練して命令するなんて小隊長がいなくてはとても出来なかったろう。
その日の訓練は早めに終わって30名の兵士は新しく作られた兵舎に連れて行かれた。
兵舎は宿舎と似ていたが個室ではなかった。
小隊ごとに一つの大部屋になっていた。
小隊は読心の茶目、念動の緑目、遷移の赤目、思念の白目、心停止の青目、透視の黄目、意思強制の銀目、空中浮遊のエメラルド目、心停止と遷移の金目が一人ずつ含まれ、二名アンチプシの紫目と予知の黒目が一人ずつ含まれていた。
分隊長はまだ決まっていなかった。
夕食はカレーライスだった。
食事はいくらでもお代りが出来たが残すことは許されなかった。
飲み物はコーヒーの他にオレンジジュースが自由に飲めた。
何よりも違っていたのは眠らない三名の小隊長が食堂に常に立っていたことだった。
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