第29話 29、敵の襲撃
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貴重な鉱石は次々と見つかった。
その辺りを調べると鉱脈も見つかった。
鉄鉱脈も金坑脈も銀鉱脈も見つかった。
辰紗は山の洞窟の中で見つかった。
この辺りの山々は宝の山だった。
元々この大陸は地中からの隆起で出来上がった大陸だった。
地下で出来た宝が地表にまで押し出されていた。
小さな炉が次々と敷地の端に作られ、そこからガラスや鉄や銀や銅が取り出された。
もちろんそれらは精錬されていない状態ではあったが千が与えた本はそれらを精錬させるのに大きく貢献した。
一つの金属の精錬に成功すれば、精錬とはどのようにするかの経験が得られ、その経験は他の金属の精錬にも役立った。
千は必要な場合には手助けをした。
ガラスの丈夫なレトルトが必要な場合には学生にレトルトを作らせないでレトルトを与えた。
ガラス工作の技術が上達すればいずれ作れるからだ。
この学校はガラス職人を育成する所ではなく教師を育成する所だ。
いずれ出来るだろう物は供給するのが時間の節約だ。
炉で使う耐火煉瓦や炉で燃やす炭もふんだんに供給した。
炉を囲む大きな建物もたった一日で作ってあげた。
数ヶ月経つと学校の敷地の端は多数の工場が出来上がり、少量ではあるが製品が作られた。
第六班が鋳物技術を駆使して粗製の蒸気機関を作り出すと、その技術は少し洗練した蒸気タービンになり、それは蒸気発電機を造り出すようになった。もちろん第一班が造り出した銅線と磁石が重要な要素ではあったが何よりも学生がたまたま見つけた石炭鉱脈から得られた石炭が貴重なエネルギー供給を保証したのだった。
学生は自分たちが次々と造り出すことができた機械に信じられないようだった。
本に記載されていて自分では原理が分っていても通常はそんなものはできない。
必要な材料は手元にないし材料を得るにはお金が必要である。
材料自体を作る方が目的物を作るより難しい場合が多い。
この学校では材料は無料で供給され、助言も他斑の学生から得られる。
どうしても分らなければ千先生におずおずと質問すればいい。
学校は全寮制ではあったが、夜も明るく輝く学校の噂は広がるものだ。
最近はそこからはたくさんの煙が立ちのぼり、金も銀も作っているのだという噂が町中に広がって行った。
金の生産は町の経済に大きな影響を与える。
学校でどんなことが起っているのかは町の中枢は把握していた。
マイは7日毎に家族が迎えにきて家に帰っているからキン市長は学校のことをマイの感嘆を込めた言葉の端々から推測していただろうし、金鬼老人もおそらく軍隊に戻って大陸の地図や大砲や戦車や軍艦の構想を吹聴しているのだろう。
町の中枢は学校を好ましく思っていたが、遠くの国ではそうは思わなかった。
食料を供給している町が強くなることは好ましいことではない。
徐々に強くなるのはそれほどの脅威ではない。
いくらでも制御することができる。
しかし噂では産業も軍事力も信じられない早さで発展しているらしい。
早急にその芽を摘むか、併合してその技術を取り込んでしまわなければならなかった。
千は警備のロボット兵から最近は学校の上空に偵察兵が増えたと言う報告を受けた。
「そう、ありがとう。ここの噂が他国まで広がったようね。わかりました。この学校の上空には誰も来させないようにして下さい。見つけたら瞬時に消して下さい。他の危険な物が入って来ても同様です。」
「了解しました。」
翌日の朝食の時間に千は金鬼老人の前に座り話した。
「金鬼君、聞きたいことがあります。」
「何でしょうか。千先生。」
「金鬼君の軍隊での地位は何ですか。」
「一応、大将となっております。7日毎の大将ですが。」
「それなら偵察兵の動きを知っていますね。軍隊ではこの学校の上空に以前のように偵察兵を出していますか。」
「いいえ。私が学生になってからは出してはおりません。」
「最近、上空に偵察兵が出現していると報告を受けました。私は警備兵に見つけ次第消去と命令を出しました。地上から警備兵が射てば半秒で偵察兵は分らないうちに消えます。他国がそんな偵察兵を出しているということは他国がこの町に興味を持っているということを意味します。この町に脅威を感じたのでしょう。攻めて来るかもしれませんね。この町の軍隊は何名ですか。」
「二千人ですが実際に戦えるのは千名です。残りは事務と奴隷の管理をしております。」
「金鬼君は他国の軍隊のことを知っていますか。」
「ほとんど知りませんがこの町の十倍以上であることは確実です。」
「けっこうな軍勢ね。滅ぼしてもいいけどもったいないわね。」
「千先生は一万人の軍隊が恐くないのですか。」
「その程度ならロボット兵一人で対処できます。こちらから攻めるのは大義が無くなるから、やはり相手が攻めて来るのを待つしかないわね。相手の攻撃目標はこの学校だから町には被害はあまり出ないでしょう。」
千は校舎と宿舎と周囲の実験棟の屋根を薄い鋼板で補強したが風車と井戸の屋根は補強しなかった。
「千姉さん。どうして全部の屋根を補強しないのですか」というミーナの素朴な質問に、千は「それじゃあ被害が出なくなるでしょ」と答えた。
象徴的な風車が壊されることは反撃の正当な大義となる。
そんなものは半日で修復できる。
上空の偵察兵が十人ほど消された後のある日の昼、敵が襲って来た。
学校は昼食前の休み時間で校庭には十人ほどの学生が出ていた。
学校の敷地の周囲から直径が50㎝ほどの石が100mほどの上空高くにゆっくり昇り、敷地内に漂って来た。
警備のロボット兵は腕を挙げ石を数えるような仕草をした。
ロボット兵の指差す先の石は次々と消えて行ったのだが石の数は千個もあったのでいくつかの石は校庭内に入って来て落下した。
学生達は大慌てで建物に逃げ込んだ。
警備兵は応援を求めたのであろう。
9体のロボット兵が校庭に突然現れ、上空の大石を消し始めた。
一体のロボット兵は一秒で十個の石を消すことができた。
千個の石を消すには100秒かかる。
十名のロボット兵になると上空の全ての石は数秒で消滅した。
校庭に落下した石は12個であった。
上空の石を消したロボット兵達は学校の敷地の外の上空を高速で巡回し、敷地の外に潜んでいた兵士を次々に消していった。
およそ千名の兵士を消した時、敵の姿は全て消えた。
遷移して逃げたらしい。
ロボット兵の指揮官は取り残された兵の一名を捕虜として捕らえた。
マンが気を利かせてロボット兵に捕虜を作るように命令したらしかった。
学生達は事の推移を全て眺め、改めてロボット兵の凄まじさを痛感した。
校庭の上空に浮かんでいた千個の大石を数秒で全て消し去り、高速で空を飛んであっという間に千名の敵を消してしまった。
賢い学生達であったので敵の攻撃の方法はすぐに推測できた。
明るい昼間に敵兵は遷移ができる兵とテレキネシスができる兵が組みとなってここまできた。
途中の河原で大石を拾ってこの辺りまで運んで来たのであろう。
だが、学生には疑問があった。
石を運べる遷移兵なら、校庭上空に遷移して石を落としてから逃れればいい。なぜ遷移できないテレキネシス兵士を伴ったのか。
「それはね。敵に奢りがあったの。大石1000個を浮遊させた方が迫力があるでしょ。大石がゆっくりと漂って建物の上に落ちて行くなんて恐怖よね。この町の兵士にもテレキネシス兵は居るのかもしれないけど千名より少ない。テレキネシス対テレキネシスの戦いは数が物を言うの。相手を殺すだけなら上空に石を持って遷移して石を落とすわね。」
食堂で千は学生の疑問に答える形で説明した。
「どこから来たのでしょうか、千先生。」
金鬼が千に聞いた。
「マンが気を利かせて敵の一人を捕虜にするよう隊長に伝えたらしいわ。全員を消さないで一人だけ残したの。テレキネシス兵ね。今は私の家の前のポーチにいるらしいわね。これから尋問するの。金鬼君は聞きたいでしょ。一緒に来て。それからギン君にも来てもらった方がいいわね。」
「千先生、私も聞いていいでしょうか。」
マイがお願いをした。
「だめよ、マイさん。貴方はここに残ってゆっくり昼食をとりなさい。もの凄く残酷なことをするんだから。眠れなくなるわ。・・・うそよ。とにかくだめ。それから皆さん、今日の午後の授業は中止です。各自は自習して下さい。」
捕虜の兵士は鉢巻をしてポーチの床に座っていた。
千は兵士の前の椅子に腰掛け両横にキンとギンが立っていた。
ミーナは捕虜の横側から見ていた。
もちろんミーナはヘッドキャップをしていたし千はヘッドフォンを着けていた。
「さて、捕虜さん。貴方は幸運にも捕虜になることができました。他の仲間は千人ほどが死にました。残りの兵は遷移して消えてしまいました。薄情ですね。自分だけが逃げました。私の名前は千。あなたの名前はなんですか。」
「ホリョだ。」
千はこの町の言葉を使ったが捕虜は知らない言葉で答えた。
ミーナは捕虜が言った言葉を小さな声で繰返したので、金鬼とギンは捕虜の答えを知ることができた。
「ホリョさんね。これからホリョさんに捕虜としての尋問をします。この世界では色々な不思議の力があることを知っていますね。」
「知っている。」
「貴方はテレキネシスを使うことが出来て大石を動かすことができます。貴方を連れてきたお仲間は遷移が出来るテレポーターですか。」
「そうだ。」
「貴方の目の色は緑ですか。」
「そうだ。」
「茶目種族の不思議の力は知っていますか。」
「知らない。」
「分りました。貴方は悪い人ですね。敵対的です。貴方から必要な情報を得てから死んでもらうことにします。『聞くことに答えろ』。」
千がそう言うと捕虜は硬直し、それまで周囲を時々見回していた首も固まった。
金鬼老人は体を硬くして脂汗を流した。
ギンも体全体で震えていた。
ミーナも体全体に悪寒が走った。
「ごめんなさい。少し脅かし過ぎたわね。」
その声はいつもの優しさを持った美しい声音だった。
その声に金鬼老人もギンもミーナもようやく千の言葉の呪縛から解放されて大きく息を吸い始めた。
捕虜は固まったままだった。
「お前の名前は。」
「フウンです。」
「どこから来た。」
「山の向こうです。」
「ここから歩いてどれほどかかる。」
「三日です。」
「そこからここまでどれだけかかった。」
「半日です。」
「ここに来た兵士の数は何人だ。」
「1011人です。」
「11人は指揮官か。」
「そうです。」
「指揮官は金目族か。」
「そうです。」
「攻撃の目的は何だ。」
「知りません。」
「お前への命令は何だ。」
「石を上空に持ち上げて移動させることです。」
「軍隊の兵士は何人か。」
「1万人です。」
「国の人口はおよそどれくらいだ。」
「20万人です。」
「金を造り出す国か。」
「そうです。」
「金坑は町の近くにあるのか。」
「ありません。」
「山の中か。」
「そうです。」
「国の名前は何だ。」
「黄金の国です。」
「お前は死にたいか。」
「死にたくはありません。」
「楽にしなさい。」
最後の言葉は優しい言葉だった。
捕虜は千の言葉の呪縛から解けたようだった。
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