第15話 15、賭博場の銀目族
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「賢い男だったわね。透視の黄目族か。」
店を出ると千はすぐに言った。
「はい、何か私たちの正体を見破っているような口調でした。」
「奴隷ではないようだけど金目族に連れて来られたのね。透視が出来ても戦いには勝てないから。」
「この町にはたくさんの部族の者がいるのですね。言葉はどうしているのでしょうか。」
「想像だけど、言葉を覚えなかった者は奴隷になり、言葉を覚えた者は市民になれるのかもしれないわね。金目族だけでは大きな町を円滑に運営することができないでしょうから。」
「そうですね。兵士も市民なのでしょうか。」
「分らないわ。少しは話せるのでしょうね。互いに話すことも必要だし、命令を聞くことも必要だから。」
「でもそうなら簡単な命令しか出せません。司令官は兵士全員に命令を伝える必要があるのではないでしょうか。」
「ミーナはそれが出来る司令官が居るはずだと言いたいのね。川関所にいた白目族ではどうだろう。確か自分の考えを相手に伝えると言っていたわ。」
「でも関所の役人は『相手を強制できるわけではないな』って言っていました。と言うことは相手を強制できる部族がどこかに居ると言うことを関所の役人は知っているということを意味しています。」
「そういえばそう言っていたわね。川関所の役人は恐れていたみたいだった。白目ではなく銀目かもしれないわね。でもそれは無いかもしれない。」
「どうしてですか、千姉さん。」
「この世界の不思議の力の多くは7次元を使える能力なの。中身を見たり、移動したり、物を動かしたり、未来を予知するのはみんな7次元経由よ。意思で物を動かす機械は実際に作った事もあったわ。他の能力も作ることができるはずね。でも相手を強制させる能力は7次元を考えても出て来ないの。」
「へへっ、千姉さん。そんな能力は確実にあります。千姉さん自身が持っています。私は千姉さんが赤目族に『あがれ』と言った言葉を聞いた時は体中に震えが走り、恐れおののきました。兵士達も同じだったと思います。あれは人を強制できる力です。」
「そうだった。そういえば私も持っていたわね。あれはね、別に不思議の力ではないの。いつも命令をしていると自然と身についてしまうの。そうか。そんな能力を持つ種族が居てもいいわね。帽子のヘッドギアの発信出力を強くすれば同じことができるはず。脳波を強くすれば意思を強制できるかもしれないわ。震えと恐怖が来るのは自分の意思が外から強制されるためだと思う。生理的に不安定になるのね。」
「そうできたら知識の勝利ですね。」
「そうなるかな。」
千とミーナはそんなことを話しながら周りを見ながら通りを歩いていた。
「お姉さん方、遊んで行かないかい。運が良ければ小粒がもらえるよ。」
後ろから声がかかり、振り向くと小男が手を合わせながら愛想を見せていた。
小男と言っても身長は180㎝くらいで娘達よりは高かった。
「私たちは忙しいの。どのみち博打(ばくち)でしょ。不思議の力を誰もが持っているこの世の中では博打は成立しません。不正がいくらでもできるはずです。」
千がきつい顔をして答えた。
「確かに博打には違いないんだが不正ができない博打でね。」
「どんな博打なの。」
「いや、ここではちょっとね。」
「それなら止めるわ。私たち忙しいの。」
「分った。教える。こっちは金の小粒を手で握って板の上に山にするんだ。手で握ることもあれば入れ物に入れる場合もあるがな。その金の山を見てからお前達は金の小粒を好きなだけ板の別の所に置くんだ。一つでもいいし二つでもいいし、もっと多くてもいい。2つの山から2個ずつ取って行って残らなければお前達の勝ちだ。つまり、二つの金の小粒の合計が偶数になったらお前達はお前達の出した金の小粒と同じ数を相手の山から取ることができる。奇数ならこちらがお前達の山をもらう。どうだ。不思議の力を出すこともできない明瞭な賭けだ。」
「なるほど。確かに不思議の力を出しにくいわね。でもそのやり方ではこちらが必ず儲けることができるはず。最初は1個で次は2個で次は4個で次は8個としていけばいつかは勝つから1回でも勝てば1個得することになる。勝ったらまた最初の1個から同じように掛けて行けばいいはずよ。」
「だがそこまで資金が持つかが問題だ。こっちもバカではないからそんなやり方は知っている。うちの打ち手は優秀で小粒を握っただけで、重さで数が判るのさ。」
「まあ、それくらいはできるでしょうね。それで生活しているのだから。要はこちらが出すのが偶数か奇数かを予め知らなければ勝てないわけだ。こちらが出す数を強制できない限りはね。」
「どうだい。勝つも負けるもそちらの判断次第。」
「ミーナ、おもしろそうだから行ってみようか。」
「千姉さん、大丈夫ですか。」
「まあ負けても小粒数個だから。運を試してみましょう。場所はどこ。」
「案内します。」
そう言って男は道路沿いの家に千達を案内した。
何のへんてつもない家だったが家の中に入ると中央に大きな木の机があり、机の両側には一人用の椅子と長椅子が一つずつ置かれており、片方の壁側には椅子が並べられており、もう片方の壁はカウンターがあって飲み物らしい容器が置いてあった。
日中なのに二人の客らしい男が座っており、机の入口側の椅子には一人が座っていた。
机の奥側の木の長椅子には身なりの整(ととの)った男が座っており、男の右隣には金の小粒が9割ほど詰っている箱が置いてあった。
資金は十分あると見せつけている。
金の小粒の上には四角い10㎝ほどの升が置かれていた。
「お姉さん方、どうぞ壁の椅子に座ってお待ち下さい。一人一回で勝負をします。勝負が終わったら壁の椅子に戻ってもいいし、帰ってもいいです。」
案内の男はそう言って家の外に出て行った。
次の客を捜しに行ったのであろう。
中央の机では勝負が始まる所だった。
店側の男は升で金の小粒をすくいあげ、ちょっと振ってからその升を静かに机の上に裏返しに置いて升を円形に滑らせてから静かに持ち上げた。
うまいもので山はきれいに重なって崩れ落ちている小粒はなかった。
「さて、私の金の山はこれです。どうぞ好きなだけ金の小粒をお賭け下さい。二つの山の合計が偶数になったらあなた様の勝ちです。私の山の中からお賭けになった金の小粒の数だけお取り下さい。合計が奇数だったら私の勝ちであなた様の賭けた金の小粒をいただきます。数を数えるのはお客様ご自身が行ってください。私が行うと疑念を生じるかもしれませんから。よろしいでしょうか。」
「承知した。」
客の男は2個の金の小粒を並べて机の上に置いた。
「それでよろしいですか。それでは私の山の小粒の数を数えて下さい。」
客の男は手を伸ばして相手の山を崩し、2個ずつを机の上に並べていった。
最後に1個の金の小粒が残った。
「合計は奇数で私の勝ちです。貴方の小粒をいただきます。次の勝負にがんばって下さい。」
そう言って打ち手は客の小粒をよせ、自分の小粒と合わせて隣の木箱に金の小粒を入れた。
客は悔しそうな顔をしてミーナ達の椅子の横に戻った。
次の客は金の小粒を一つ置いた。
勝負は客の勝ちで金の小粒一個を儲けた。
ミーナの番が廻って来た。
ミーナが椅子に座ると向いの男は微笑んで言った。
「若いお嬢さんですね。ほんとうに博打をしてよろしいのですか。」
「人生経験ですから。」
ミーナはそう言って相手の顔を見た。
「不思議な話し方をするようですが、それでは勝負を行います。」
男は箱から少し多めの金の小粒を掬(すく)い、机の上に金の山を作った。
もちろんミーナには山を作っている金の小粒の数を知ることはできなかった。
両替屋の男みたいに物を透視して見ることができれば時間をかければわかるかもしれなかった。
でも打ち手はそんな者がいることは百も承知だろう。
ミーナは金の小粒を1個だけ賭けた。
ミーナが相手の山の数を数えるとそれば偶数だった。
「お嬢さん、苦い人生経験でしたね。まあ勉強代だと思って下さい。これでお帰りになられた方がよろしいと思います。」
ミーナは悔しそうに壁の椅子に戻った。
次は千の順番であった。
千はミーナから金の小粒の入った袋を受け取ってから大机の前の椅子に座った。
「いらっしゃい。今日は不思議な人が来ますね。美しい娘さんですが恐(こわ)そうな方ですね。お手柔らかに。」
「妹の敵討ちです。」
「あなた様も不思議な話し方をなされるのですね。勝負をしてもよろしいですか。」
「どうぞ。」
打ち手の男はミーナの時より多くの金の小粒を掬い上げ大きめの山を作って言った。
「どうぞお賭け下さい。」
千は金の小粒が入った袋を取り上げ、口を開いて一つを残して全ての小粒を机の上に広げた。
「私の掛け金はこれだけです。数はわかりません。」
打ち手の男は動揺したようだったが、発した言葉は落ち着いていた。
「そんなにたくさんを賭けてもよろしいのですか。負ければ大損ですよ。」
「勝てば大勝ちです。それでは勝負。」
そう言って千は相手の山を崩して2個ずつ並べた。
相手の山は偶数であった。
次に千は自分の山を崩して同じように2個ずつ並べた。
それは偶数であった。
「偶数ですね。私の勝ちです。でも私の数の方が貴方の数より多くなっております。こんな場合にはその分を追加していただけるのでしょうか。」
「まいりました。私の負けです。まさかこんなに多くの小粒を賭けられ、その数も知らないとは。本当に参りました。貴方は勝負師です。金の小粒は追加します。今日は大損をしたようですね。」
そう言って打ち手の男は升を箱の中に入れ無造作に掬ってから升の中身を大机の別の場所に広げた。
その数はちょうど不足していた数と同じだった。
「今日は運があったようです。」
そう言って千は机の上の金の小粒を集め袋に入れた。
袋は満杯になってそれ以上は入らなくなった。
机の上にはまだ十個ほどの金の小粒が残っていた。
「机の上の小粒はこの袋に入りたくないようです。貴方にさし上げましょう。そのかわり、貴方の額の目の色を教えてくれませんか。」
「私の目の色に興味があるようですね。めったに人には見せないのですが、小粒も頂きましたし、お見せしましょう。驚かないで下さい。」
そう言って打ち手の男は額の不思議の目を開いた。
それは銀目だった。
壁の椅子に掛けていた二人の男達は驚いた様子で両脇を閉じて肩を上げた。
ミーナに変化はなかった。
「やはり銀目族は居たのですね。不思議の力も相当強いようですね。」
「貴方は何ともないのですか。私が目を開いているのに。お連れの方も動揺していないようです。」
男は非常に驚いた様子だった。
普通、銀目の男が目を開けば周りの者達は震え上がるのだった。
「私たちには貴方の力が効かないようですね。理由は分りますが。」
「私の力の理屈が分るのですか。」
「分っているつもりです。」
「私は自分では自分の力の理屈が理解できていません。教えていただけませんでしょうか。」
「あなたの目は他の人達のような7次元経由の不思議の力ではなくあなたの意思を強める増幅器の役割をしていると思います。私も同じ力を持っているようですよ。」
「本当ですか。目がないのに。」
「額に目があるなんて娘には似合いません。」
「そうですね。美しい貴方には似合いません。またお目にかかりたいですね。」
「縁があったらね。」
そう言って千とミーナは扉を開けて日が傾いた通りに出て行った。
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