第14話 14、黄目族の透視力 

<< 14、黄目族の透視力 >> 

 川関所の後は障害はなかった。

金目族はもちろん青目族の川関所を知っているのだろう。

川関所は金目族にとっても便利な物だった。

敵の軍隊が川から攻め込むことを阻止している。

そんな理由からか、川岸の様子は平和そのものだった。

川岸には家が見えるようになり、多くの場所で川から水を引き込むための取水堰が作られていた。

 「さて、どこで上陸したらいいのかしら。ミーナはどこがいいと思う。」

「私たちは野蛮人の住む部落から来た新参者です。そんな者はたくさんこの町に来ているはずです。船で売り物を運んで来た者もおりました。そんな人達は船をどこかに預けて上陸し商品を売るはずです。専用の船泊まりがあるのではないでしょうか。」

「そう言えばそうね。もう少し岸沿いに進んでみましょう。」

ミーナの予想通り、海に近い場所に陸部に大きく入り来んだ湾のような場所があり、いろいろな種類の船が長い桟橋に舳先を桟橋に向けて並んで泊まっている場所があった。

 「あそこみたいね。空いている場所もあるし、あそこに止めましょう。」

その場所は浅かったので竹竿で丸木舟を操ることができた。

船の三角帆を畳み、補助浮きも舷側に戻して慎重に舳先を桟橋に向けて乗付けた。

千は素早く桟橋に跳び移り、桟橋にきっちりと並んで出ている杭に船を細い紐で舫(もや)った。

ミーナはよじ登って桟橋の上に立って両手を頭の上に掲げて背伸びをした。

 その時、一人の男が竹の棒を持って桟橋をミーナ達の方に近づいて来た。

「おい、お前達。お前達はだれだ。ここがどこか知っているのか。」

男は近づきながら怒鳴った。

ミーナは深々とお辞儀をしてから聞こえないくらいの小さい声で言った。

「旦那様、私たちは川上の部落から丸木舟で来た者です。今回は初めてのことです。船を止める場所を捜していたらたくさんの船が泊まっていたのでとりあえず止めさせていただきました。外から来た者が船を止める場所をご存知でしたら教えていただけませんでしょうか。」

 「お前達は女が頭の中で話す種族か。珍しいな。船も珍しいな。工夫している。ここに初めて来たのか。運んで来た物は何だ。」

「白磁の皿でございます、旦那様。」

「そうか。何と交換しようと思っているのだ。」

「特に欲しい物はありません。初めてのことなのでどうしていいのかわかりません。事情を知るのが第一の目的でございます。物と物を交換するのでしょうか。価値が違う時にはどうすればいいのでしょうか。共通の貨幣のような価値を持つ物と交換するのでしょうか。」

 「何も知らないやつらだなあ。まあ初めての田舎者ならしかたがないか。お前達が皿と交換するのは金の小粒と交換するのだ。金の小粒は他の物と交換することができる。金は重いから偽者か本物かがすぐ分る。」

「ありがとうございます、旦那様。私たちの船を止めていい場所はどこでしょうか。教えていただけませんか。」

「ここは交易用の船溜まりだ。ここに止めるのには金の小粒一個が必要だ。小粒一つでいつまでも止めておくことができる。だがお前達は初めてなのだから金の小粒を持っていないだろう。そうだな。交換用の皿を見せてみろ。それで手を打ってやろう。」

「ありがとうございます、親切な旦那様。少々お待ち下さい。皿を取り出してまいります。」

 ミーナは桟橋を降りて船首の物入れから陶器の皿の入った箱を2個取り出して桟橋の上に置き、再び桟橋によじ登った。

「交換しようと思っているのはこの皿です。金の小粒と交換する価値があるでしょうか。」

ミーナは箱の蓋を開けて一枚の皿を取り出して男に差し出した。

その皿は30㎝ほどの白磁の皿であった。

男は竹棒を脚元に置き、両手で皿を受け取った。

 「なかなかきれいな皿だな。これなら金の小粒二つと交換できるかもしれない。」

「そうですか。どうでしょう。この皿を二枚さし上げますからここに係留させていただけないでしょうか。」

「二枚もか。悪いな。」

「とんでもございません。何も知らない私たちに交易の仕組みを親切に教えていただきました。感謝しきれません。」

「分った。ここにいつまでも係留していい。商品は大切だろう。一応船は見張っているのだが夜は船で見張りをしてもいい。」

「ありがとうございます、旦那様。交易者用の宿もあるのでしょうか。」

「あるよ。この近くだ。金の小粒一つで夕食付きで一泊だ。少し高いがな。お前達は二人だから3粒で二泊となるかもしれんな。」

「宿に商品を持って行ってもいいのでしょうか。」

「当たり前だ。商品は常に自分の手元に置いておくべきだ。」

「ほんとに何から何までご親切に教えていただきありがとうございました。」

「どうってことはない。俺の役目だ。この皿はもらって行くぞ。」

そう言って男は桟橋の木箱を拾い、手に持っていた皿を空いた木箱の中に入れて岸の方に戻って行った。

 「ミーナ、見事な対応よ。私ならあんなにはできなかったわ。私、どこか高くから見ているから。」

「千姉さんは実際のところ高いところにいるのだから仕方ありません。」

「最初にするのは荷物を運ぶ小さい荷車を見つけることね。船を安全にしてから町に行きましょう。」

そう言って千は丸木舟に飛び降り船首と船尾の覆いを閉じてカンヌキをかけた。」

千は再び桟橋に跳び移って言った。

「これでいいわ。あのカンヌキは外からは開けにくいから。開けられたら相手の知恵が高かったと諦めましょう。」

千は自信満々で言った。

ミーナはずっと使っていたのにそんな装置が付いていることさえ知らなかった。

 船着き場から続く一本道を歩いて行くと明らかに宿屋だとわかる二階建ての建物があり、建物の周りにはたくさんの二輪の荷車が並んでいた。

「あれがこの町で普通に使われている荷車ね。でも若い娘が引くには少し大きいかな。宿が分ったから町に行きましょう。」

「千姉さん、町に行ったら荷車が見つかるのでしょうか。私たちは金の小粒は持っておりません。」

 「何とかなるわ。金の小粒はないけど金の大粒がある。ミーナも十数個の金の大粒を持っている。金を貨幣として使うのなら必ず町のどこかに両替屋があるはずだわ。そこで大粒を小粒にしてもらえると思う。小粒がどんなものか分ればいくらでも同じものを供給できるわ。簡単よ。」

「それは偽物、偽金(にせがね)じゃあないですか。」

「いいえ、本物の金を使うのだから本物でしょ。」

 町は道路が整備され、道沿いに商品を並べた商店さえ並んでいる。

食材も豊富に売られている。

魚さえ売っていた。

電気は無いようだから魚は海でとれたばかりなのだろう。

肉は薫製や干し肉が売られていた。

そしてとうとう穀物屋を見つけた。

大きな箱の中に白い米が入れられており、箱の上には升が置かれていた。

量り売りをしているのだ。

その店には白い粉も売られていた。

小麦粉だ。

 服を売っている店が並んでいる辺りにひときわ立派な店があった。

その店は壁を切り出した石で作ってあり、石を敷いた土台の上に建っており、床も高い位置に作られていた。

店の前の入口には天秤の絵が描かれていた。

両替屋だとすぐ判ったが文字らしいものはどこにも無かった。

そういえば通り過ぎて来た商店にも文字らしい物はどこにもなかった。

向いの服屋を注意して見て見ると、吊るしてある服の下には数個の黒い点が描かれた木の札が立て掛けられている。

金の小粒の数を示しているらしい。

いろいろな言語を持つ人が入り込む町ではそれが最良の方法かもしれない。

 千とミーナは両替屋の中に入って行った。

入口からかなり奥まった所に大きな木の机があり、大きく立派な天秤が置いてあり、その後ろには3人の男が椅子に座っていた。

壁の高い部分には人間が通り抜け出来ないほどの小さな光取り窓が多数あるので室内は十分に明るかった。

壁の前には槍を持った警備兵が十人ほど微動だにしないで整列していた。

相当たくさんの警備兵を雇っているようだ。

交代がなければあんな姿勢をいつまでも続けることはできない。

 確かにこの家の作りは不思議の力を持つ者達の世界での泥棒対策には適しているのかもしれない。

テレキネシスでは丈夫そうな石の壁は動かせないだろうし、テレポートして侵入できても床に降りるしかない。

夜は重要な物は地下にでも保管しておくのであろう。

それにおそらく夜も警備兵はあそこに立っているのかもしれない。

 千とミーナは真直ぐ奥の机に向かって歩いて行った。

「いらっしゃいませ、お嬢様方。どのような御用でしょうか。」

机の向こうの中央に座っていた男が礼儀正しく問いかけた。

ミーナは少しうつむいて小声で答えた。

「あのう、私たち今日初めてこの町に来ました。船溜まりの男の方からこの町で使うことができる金の小粒をここに来ればもらえると聞いて来ました。どのようにすればよろしいのでしょうか。」

 「左様でしたか。この店は金の大粒を金の小粒に替えて少しの手数料をいただくことにしております。金の小粒に変えることが出来るのは金の大粒、砂金、そして宝石の類いです。どれも小さい物ですね。そのような物をお持ちですか。」

「はい、この町に出発する時、長老様から金の粒をいくつか頂きました。それでよろしいのでしょうか。」

「実物を拝見したいと思います。今お持ちですか。」

「はい、これなのですが。」

 ミーナは腰に下げた革袋を引き出して中から金の大粒を一個取り出して男に手渡した。

「確かに純粋の金の大粒ですね。」

男は大粒を手にしただけでそう言ってのけた。

「すぐに金だとわかるのですか。」

「はい、長年の経験と私の特技でわかります。」

「特技と言うのはあなた様の不思議の力ということでしょうか。」

「左様でございます。物の中を見ることができるのが私の不思議の力です。ろくでもない力ですがこの店ではその力を役立てることができます。」

 「素晴らしい力だと思います。あのう、立ち入ったことをお聞きしてよろしいでしょうか。あなた様の額の目の色は何色なのでしょうか。」

「黄色ですよ、お嬢さん。でもお嬢さん方は女性ですがずっと素晴らしい力をお持ちのようです。私の透視が効きません。もしよろしければあなた方の部族の額の目の色は何色かお聞きできますか。」

「私たちの部族の不思議の力の目の色は黒です。危機から逃げるだけの力です。私たちは突然変異かもしれません。女なのに男のようです。」

 「そんなことはありません。お二方ともたいへん美しく見えます。不思議なのは頭の中で言葉が聞こえる事です。貴方の口から出ている言葉は私には全く理解できませんが頭の中では言葉が分ります。とてつもない能力だと推察します。この世界をまとめることが出来る能力です。ま、おしゃべりが過ぎました。あまりにお美しいので話したかったのでしょう。金の大粒を小粒に交換しましょう。」

そう言って男は天秤の片方に金の大粒を載せ、もう片方に机の引き出しから取り出した箱の中の金の小粒を載せてバランスをとった。

「見た通り、同量の金の小粒に交換しました。どうぞお収め下さい。その中から金の小粒一つを手数料としていただきます。」

男は皿を持ち上げて布の袋に金の小粒を流し込みミーナに手渡した。

 ミーナは袋から金の小粒を一つ取り出して机の上に置いた。

男はその小粒を別の箱の中に入れて蓋を閉じてから言った。

「ありがとうございます。これで取引は無事に終わりました。お気をつけてお帰り下さい。不思議な事にあなた様の腰の革袋の中身が見えませんが、もし多量の金の大粒を持っておられるなら、大金ですので十分にお気をつけ下さい。」

「ご親切にありがとうございます。おかげでこの町で買い物をすることができます。」

そう言ってミーナと千は両替店を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る