第10話 クマぬいのデルタ。

 デルタと名乗ったそのクマの魔王。ううん、クマのぬい。


 黒クマのヌイグルミにしか見えないその子を抱いて書庫から出たあたし。なるべく他の人に見られないようにと気をつけてこっそり自室に戻ろうと……。


「ねえ? なんでそんなにコソコソしてるの?」


 あ、バカ。しゃべらないの!


「君ね、家人に見られたらなんて説明すれば良いかわかんないからちょっと黙っててくれない?」


 あたしはデルタをぎゅっと抱きしめたままそう小声で話す。


「あーんぎゅっとし過ぎ。潰れちゃうよ」


 そう可愛い声を漏らすデルタに、「ごめんねあとちょっとだから」とそう言いながら小走りに廊下を急ぐ。


 自室のドアをバタンと開けて滑り込む。ふう。なんとかセーフかな。


 ベッドの上にごろんと転がって。


 両手で顔の上にそのクマぬいを掲げた。


「ねえクマさん。君が魔王だっていうのは他の人には内緒ね?」


 そう諭すように話す。


「え? なんで? ボクが魔王なのはほんとだしそれにボクの事はデルタって呼んでね?」


 そう手足をバタバタ動かしながら可愛い声で話すデルタ。もうそういうところもかわいいんだから!


「じゃぁデルタって呼ばせてもらうね? まずね、君が魔王だってバレちゃいけない理由はね」


 あたしはちょっと真面目な顔をして。


「普通の人は魔王って存在を悪いものだと思ってるの。だから君が魔王だなんて名乗ったら、君、退治されちゃうよ?」


「はうう! でも、ボク、強いもん。そうそう退治なんてされないもん」


「君がどれだけ強いのかは知らないけど、それでもこの世界にはもっと強い人が居るかもしれないんだよ?」


「はう、だって」


「信じられない? じゃぁさ、僕の力を探ってみると良いよ? 君とどっちが強いのか」


 あたしは自分の中で魔力を熾す。魔力特性値無限大は伊達じゃない。ああもちろんこの部屋には結界を張って外にはこの魔力が漏れないようにはしたけれど、ね?


 実はデルタの魔力が自分で魔王っていうに相応しいだけの大きさなのは感じてる。でもそれでもあたしの方が上だ。


「はわわ。イリスすごい。どんどん魔力が上がってく。あうあう、ボクより大きくなった。はわわわ、まだまだ大きくなってくよ……」


 がくがくがくがく、ってデルタが震え始めたところで止めた。


「どう? これで信じた?」


「あうあう……、ごめんなさいごめんなさい。ボク、イリスの言うこと信じる。他の人には魔王だって言わないようにする……」


「ふふ。怖がらせちゃったね、ごめんねデルタ」


 まだぷるぷる震えてるデルタの頭を優しく撫でながら、あたしはそう言って彼を宥めてあげた。


 もきゅうって可愛い声が漏れたのが聞こえて。あたしはまたぎゅっとそのクマぬいを抱きしめた。

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