第9話 混ざってる?

 うそ! かわいい!


 もふもふな黒いクマ。全長三十センチくらい? そんなに大きく無いけどほんと可愛い仔熊のぬいぐるみだ。


 こちらを見る目がくりくりっとしてまんまるで。はうもうキュートすぎる。


「もきゅ?」


 ちょっと! 首を傾げてもきゅって言った! はうああう。どうしよう、抱きしめてぎゅってしたい。


「あーん、かわいい!」


 がまんできずにそう口に出しちゃって。手を伸ばすあたし。


 パフって触り心地もすごくいいかも。


「あーん、もう、我慢できない!」


 もぎゅっとその子を抱きしめて頬を擦りすりすると、


「もうやめてよ。そんなにぎゅっとされると潰れちゃう」


 はうあうごめん。


「ごめんねくまさん。ついついかわいくて」


 我慢できなかったよ。


「もう。これでも魔王なんだからね? あんまりかわいいかわいい言わないで」


 っていうか魔王って。


「ほんとにくまさんは魔王なの?」


 えへん。そう咳払いしたクマさん。


「ボクは先代の魔王様の魔王石を引き継いだ正統な魔王なの! 偉いんだよ?」


 と、ちょっと胸を張ってそう言う。


 ふふ。でもほんとただのかわいいクマさんにしか見えないなぁ。


「そっか。じゃぁ改めまして。僕はイリス・カグヤ・アリアンロッド。あ、でもここのアレハンド家の養子だからイリス・アレハンドって名乗るべきかな? で、クマの魔王くん。君はなんで悪魔大典なんて名前の本に封じ込められてたの?」


「ふむ。それには深い事情が……。あれ? 記憶に欠落があるよ? どうしよう」


「へ?」


「あの小憎たらしい賢者に封印されたのは覚えてるんだけど……」


「記憶、はっきりしないの?」


「うみゅー。自分が魔王であいつに封印されたって言うのは覚えてるんだけど……」


 っていうかさ、この子、まおうまおうって言ってるけどどう見ても悪い子には見えないんだけど。


「その封印した賢者って、どんな人だったの?」


「んー。見かけはかわいい女の子。金髪ふわふわの髪に碧と金緑のオッドアイで、あたまにふわふわでかわいい猫耳が生えてた、かな?」


 はい? 猫耳の賢者?


「っていうかそれっていつ頃の話なの? わかる?」


 ものすっごく古い本に封印されてたのだ。このクマの子には時間の流れなんてわからなかったかもしれないけど一応聞いてみる。


「んー。たぶんけっこう前? 外の様子、ちょっとよくわかんなかったから……」


「そっか。ねえくまさん。あなた悪いこと、したの?」


 そうだよそれを聞かなきゃだ。この子が悪い子ならもう一回封印しなきゃかもだし。


「はうー。あうあう。ボク、わるいまおうじゃ無いよ? っていうか魔王っていうのは真の皇とも書くんだよ? 言うなれば神様みたいなもの?」


 ああ、うん。


 その設定、あたしのおはなしのやつだ。間違いない。


 っていうことは……。



 この世界っててっきり書きかけのあたしの小説世界だと思ってたけど、もしかして違う?


 もしかしたらもっと色々混ざってる可能性があるってこと、かな?

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