【1-1】ようこそ『BIT』へ
これが走馬灯か。
光の中に記憶が蘇ってく。
僕の好きな街並み。この店懐かしいな、ずいぶん前に潰れたんだっけ。
ミカちゃん、あの時唯一手を差し伸べてくれた。
お母さん、お父さん、ずいぶん迷惑かけたなー。
映画のフィルムみたく場面場面で僕の脳を通り過ぎ、その思い出はどんどん色褪せ、ぼやけていく。
あー、僕、死んだんだな。
今思い返せばいい人生だったかも。
いや待て、思い返せない。
「なんで僕死んだんだ!?」
今世紀一番の大声を出したのと同時に僕は目を覚ました、いや、生き返った?
僕はどうなったんだ?強い光に目が眩んでちゃんと前が見えない。
「やっと走馬灯が終わった、はぁ、Mr.ドッグ、走馬灯を見せなければならない制度改めない?」
近くで女性の声が聞こえる。走馬灯?僕が見てたことを知ってる?Mr.ドッグ?
「ラビット、考えてみなさい。YouTubeで場面切り替えが無くて不自然だと感じる動画、たまにあるだろ?それと同じだよ、『生』と『死』にもメリハリをつけなきゃいけないんだワン」
ラビット、この女性の声の持ち主か?ワン?
ぼんやりとしていた視界が徐々に鮮明になる。なんだろう、どこだここは、僕はさっきまで家の付近を歩いていた。でもここは室内のようだ、真っ白で広くてコーヒーの匂いがして、僕を囲うように机が並んでいて沢山人影が見える。裁判所に似た場所のようだ。
「あー、えっと、『曽根山 透』くん。目の焦点を合わせて私を見てくれる?」
目を細めて声のする方を見るとそこにはコルセットドレスを身に纏ったヨーロッパ系のおばさんが立っていた、声の割に歳はいってるな。
ん?、今気付いたけど手足が動かない。椅子に座らされているのはわかるが縛られている感覚は無いのに!
あの!ここどこ…なんです…か……?あれ…なんでだ、言ってるはずなのに、どうしてだ!口を動かしているのに!喋れない、声が出ない!
誰か状況を!状況を教えてくれ!頭がパンクしそうだ!
「一回落ち着いてくれる?えっと、そんなに目で訴えられても困るのよ。こちらの会議が終わるまであなたの自由は私たちに剥奪されているから、少しの辛抱よ」
落ち着けたって、ああ、呼吸困難になりそうだ!いや、死んでいるから呼吸はしないのか?あれ?不思議な感覚だ、息をしているのか?僕は今どうなっているんだ?いやいや違う違う!そんなことより会議ってなんなんだよ!少しの辛抱ってどのくらいなんだよ!
「ああよかった、落ち着いたようね」
ちっとも落ち着いてないって!
「それじゃあラビット、今回の件を説明してくれワン」
だからなんなんだよ語尾にワンって!
「はい、Mr.ドッグ。さあ、処物課日本班の4人!入ってきなさい!」
処物課日本班?なんだその課、聞いたこともない。
身動きが取れず見えないが、後ろからまばらな足音が聞こえてきた。
「裁判長フクロウ、読み上げお願いします」
イヌとウサギに続いてフクロウまでいるのかここには。
「わかった、では始めさせていただきます。えー、右から、」
後ろから歩いてきた4人が僕の前で歩みを止めた、黒スーツの後ろ姿だ。
No.58 『真鳥 元』
No.59 『サラ・ティニー』
No.75 『寺本 矢那継』
No.29 『コーズナー・B・ウォン』
「えー、この4人は任務遂行中の失態で目標の処理を失敗。しかしそれに加え一般人『曽根山 透』を不慮の能力使用で殺害しました」
んんん言ってることは全く理解できないがやっぱり僕は死んでいるんだ、この4人に殺された、のか?能力、で?
「しかし」
しかし?
「前例が無いのです、BITメンバーの能力で生きている人を殺してしまうというのは初めてのことで」
「なるほど。確かに能力が生きた人間に干渉できた試しはなかったワン、一体どういうことだワン、この人間は何者なんだワン?」
何?何一つ状況が掴めないだけど?僕は普通生きている人間には干渉できない能力によって殺された?何者かなんて聞かれてもただの人間だし、てかワンワンうるせ!
「それでですねMr.ドッグ、私から提案があるのですが。いいですか?」
ラビットと呼ばれるおばさんは僕の肩に手を置き、僕たちを囲むように座っている人影を舐めるように見て、僕の意見なんて聞かずにこう言った
「この男、『曽根山 透』をBITメンバーに迎え入れ、処物課日本班に配属することを進めます」
オーバービュー・エフェクト クモ @kumo_p
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