侵入
がたりとまた運搬機が止まり、少しして外から扉が開かれる。新たな鍵を受け取って、ニコはそれを検分し、ちらとシャラクを見た。
「当たりか?」
答えず、魔眼鏡をかける。世界に一つしかない、ニコ特製の魔眼鏡である。魔力だけでなく、一部の魔物だけが持つはずの、空間や強い思念を見る力なども兼ね備えていると、雑誌に書かれていた。ユウケイには見えない何かを見て、ニコは軽く言う。
「かもな。気合い入れろ」
わくわくと、柄にもなく期待が膨らむ。
ニコは何気なく、鍵を差し込み、回した。
途端、ニコの手首まで魔法陣がふっと浮いて、運搬機が悲鳴のような音を立てながら揺れ始めた。狭い場所に引っかかった物が、何とか抜け出そうとするような、めちゃくちゃな揺れだ。
一際大きな揺れが起き、思わずシャラクにしがみつく。邪魔くさいと引き剥がされたが、一応転ばないよう支えてくれる辺り根は優しい。
揺れは少しずつ収まっていった。
「案の定だな。元々の空間の歪みに加えて、後付けの鍵のせいで、建付けが悪くなってたんだろう。下手なことしやがる。大丈夫か、お二人さん」
「こちらのことは気にしなくていい。それより、上手く扱えそうか」
ニコはにっと口の片端を上げた。
「あぁ。俺のもんにしてやるさ」
この口振りではニコも、ただ鍵穴に鍵を差すためだけに連れて来られたのではないようだ。気になるが、聞ける空気ではない。
「さて。扉を開けてぇんだが、扉の向こう側に何があんのか、分かってねぇんだったよな? どうする」
書斎と名付けられてはいるものの、単なる書斎とは思い難い。怪我をした生徒がいるのだから、何らかの危険があると考えた方が良い。
「俺が行く。この中では俺が一番動ける」
ニコは自分以外であれば、誰でも良いという顔をしている。しかし、ユウケイはそこまで開き直れない。たとえ相手にそう思われていないとしても、ユウケイにとってシャラクは親友である。
「シャラクさん。俺が頼ん……誘ったことだし、俺がやります」
「お前じゃ何が起きても対処出来ないだろうが」
「シャラクさんにだって、対処出来るとは限らないでしょ。開けたら空間の死角に取り込まれて、認識出来ない存在になったりするかも知れませんよ」
「そうなったら泣いてくれ」
「嫌ですよ。取り戻します」
「……」
頭を小突かれた。
「お前が取り戻してくれるんなら、俺が行ったっていいだろ」
ユウケイを軽く振り払い、シャラクは鍵を抜いてニコに手渡すと、取っ手を回した。
小気味良く、扉の開く音がした。
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