恩の取り立て
学内で起きた問題に引っ張り出されることもなく予定通りに授業を終えて、安穏安穏と太平楽な気分で食堂に昼飯を食べに来たら、突然、輝くような白金の髪と麗しい碧眼を持つ美人に罵られた。人によってはご褒美かも知れないが、あいにくとユウケイにはそんな趣味はない。一瞬苛立って睨みつけかけたが、見覚えのある顔だと気がついて、ため息を吐いた。
後ろがつかえているのに気がついて、端に少し寄りながら問いかける。
「……えぇと、トウカさん、でしたよね? いきなりの馬鹿呼ばわりは、いくら俺でもちょっとイラッと来ますよ。正当な理由を求めます」
魔獣食堂襲撃事件の時にメルと共にいた人間型の魔物である。悪性研究會では目星はついていると言ったが、生徒代表ユウケイが調べているにも関わらず、いまだ目撃証言すら見つかっていない。
トウカはたじろいで、目を逸らした。
「う、む。いや何、こちらの都合というか、その、中々見つからないものだから……」
以前に会った時も多く言葉をかわした訳ではなかったから、トウカがどういう人物なのか確かに分かっているとは思わないが、こんなにも自信のなさそうな顔をする人物だっただろうかと首を傾げる。むしろ、悪態ばかりつかれた記憶がある。何らかの心変わりか、それともメルの姿がないことが関係しているのか、全く別の理由か。
あまりにも弱気そうに振る舞うので、子供を虐めているような気になって来た。
「もしかして俺、探されてました? 何か急ぎのご用事でしょうか?」
「急ぎという程のことではないが……」
「それなら放課後まで待って、寮で呼び出ししてくれたら、探さなくても会えたのに」
「そ、そうなのか?」
この場所に住んでいれば、自ずと知るはずのことである。
かわいそうなくらい萎れたトウカは、唇を尖らせて、呟くように言った。
「何にせよ、お前には責のないこと。八つ当たりじゃ。すまなんだ」
心にもないことを言っているようには見えない。そもそも深刻に怒っていた訳でもないし、この辺りで手打ちにしておくかとうなずいた。
「いいですよ。許します。それで用事は何ですか?」
ほっとしたような表情を浮かべていた。
「……その前に、どこか座りましょうか。飯食いました?」
トウカは思い出したように腹に手を当てて、首を振った。どことなく切ない顔で見上げられる。腹が減っているらしい。二人で向かい合わせに座れる席を見つけてから、料理人の控える長卓へ注文をしに向かう。ユウケイは肉うどん、トウカは煮魚定食の膳を持って、着座した。
しばらくお互いに食事を取ることに集中する。萎れていたトウカは腹を満たしていくうちに、徐々に表情の明るさを取り戻していった。
お互いにあらかた皿が空になったところで、ユウケイから「それで」と切り出した。
「用事ってのは?」
トウカは口の端に食べかすをつけたまま、にやりと笑った。
「督促の時間じゃ」
元々抱いていた印象に近い、高慢そうな態度である。ただ今は、お腹がいっぱいになって元気になったおかげだと分かっているせいで、年端のいかない子供がそれらしく振る舞っているようにしか見えず、さして腹も立たない。
「先日の借りの件ですか。わざわざご足労いただいてどうも」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます