第2話 転生、~ボディよ頭がおかしいのか~

 はい、眼前にはホワイトホール、白い明日が……って違う。空間上に真っ白けっけな穴が開いております。自然発生した物なんだって。

 なお、現在位置は最初の街からちょいと離れた神殿みたいな場所でございます。神殿と言っても遺跡みたいな物で、広い石の土台があって、そこから石柱が伸びただけの神殿。天井のデザインだって素敵な青空だ。良いね、人工物に囲まれながらも自然を感じることが出来るナイスデザイン。ああ、私の後ろにはアルフレッドさんが待機している。押すなよ? 絶対に押すなよ?

 何をしてるかって? 転生するんだよ今からよ。何もしなくてもいつか勝手に転生するらしいんだけど、なんか記憶を保ったまま転生するならこの穴に飛び込んだ方が良いんだって。いつかは今かも知れないってことで、カフェ行った後に小休憩したらここに来たわけよ。

 どうにもこの世界には、魂が十分な……まあ俺みたいな状態になると通れる穴があって、そこに飛び込むと通常、つまり勝手に転生するパターンよりも一気に次の世界に移れる。通常ルートだと魂の負担が大きくて、記憶を失うリスクがあるけど、穴を通るルートだと一気に移れるから負担が少ないんだって。で、この白い穴はそのうちの一つなんだと。私は飛び込むためにここに来たわけだね。まあ、今から転生すると言っても、緊張する程度だ、さっさと飛び込んで……その前にアルフレッドさんから受けた転生説明の復習だ。


・記憶を保った転生には生前の原型を留める程度の死体に宿るパターンと赤子として生まれ変わるパターンがあるよ! レアケースで人間もしくは人間に近い種族以外もあるんだって!

・転生する世界によって死体パターンと赤子パターンの比率は変わるよ! 今から行くところは半々ってところかな!

・赤子パターンは生まれ直すだけだけど、死体パターンだと、死体の生前の見た目と魂の特徴が混じった外見になるよ! 復活のタイミングが見られない限り生前の知り合いにバレなくて安心だね!

・魂の充電もバッチリかつ、この世界から来た魂が宿った死体は、例え腐っていようと急速に再生していくよ! 生きて考えられる程度に体と脳ミソが再生するまで意識は戻らないけど、だいたい半日~一日で完了するし、土の中にあったりするとそもそも宿りにくいから安心!


 以上、アルフレッドさんの説明の復習でした。……再生するって怖くね? さっきまで腐ってた死体がぐんぐん再生していくんだぜ……。まあ復活する側だからそんな恐怖は味わわなくて良いんだけどね。

 さて、いつまでもここに居ても仕方ない。とりあえずアルフレッドさんに一つだけ質問したら行こうか。

「アルフレッドさん、神って居るんですか?」

 ずっと気になってたんだ。……もしも居たら、不信心な俺はとんでもない環境に転生するだろうからさ。

 いきなり質問されたアルフレッドさんは、少し困惑するも答える。

「神……ですか。……すみません、ここでも神を崇める宗教団体はありますし、僕も信仰しています。それに、神と"呼ばれる"存在が実際に居る世界もあります。ですが、土地によって神の定義が曖昧なのでどうにも……」

 ……そんな感じなのか。結構どこも同じような物なんだなぁ……。まあ、行くか。

「――そうですか、安心しました。それではお世話になりました! 行ってきます!」

 大きな声で自分を勇気付けると、走り幅跳びのような形で白い穴に飛び込んだ。すると視界が白く染まり、全く何も見えなくなる。

「え、あっ! 行ってらっしゃい、良い人生を!」

 アルフレッドさんの声を聞きながら、吸い込まれるような、落ちるような感覚とともに意識が無くなっていった。


――


 どれだけ経っただろうか、近くから水の流れる音がする。不潔な謎のぬめりがある瞼を開けると、緑色の天井が見える。恐らく森林なのだろう。……転生成功か……。何故か凄く嫌な臭いがする……頭もぼんやりと……ってめっちゃ苦しい! あまりにも苦しいので「ゲホッ! ガハッ!」と咳をすると、腐った肉のような悪臭を放つ汚い茶色の半液体が口からこぼれ落ちる。

 えっ死ぬ? もう死ぬの俺。まだプロローグだぞこっちは。吐き気まで来やがったよ。ああもう近くに川とかあるんだよな? 水音がする方向を見ると、結構大きめな川が流れている。その川にヨロヨロと近寄り、水の中に胃の内容物を吐き出す。

「オロロロ……ゲホッ! ぐず……」

 吐瀉物から漂うは腐敗臭。マジで死ぬからな……肺と胃に何入れてくれてるんだよ生前のボディ……。ちょっと泣くぞ……。涙を流したらどろどろした物が混じってやがる……。

 その後、腹痛まで来やがったので野糞……いや、野腐肉in糞も決行するはめになり、最終的にありとあらゆる穴から腐敗臭のするブツを出すことになった。まあありとあらゆる穴なので性器周りも含まれてる訳よ。そこで気が付いた。

「おお……マイサン……。お前は付いて来てはくれなかったのか……」

 まさかの女の子ボディ。男だよ俺。……まあ、地球と同じならヒトは雌雄の個体数にそこまで差がないからな……珍しいことでも無いか……。……まあ良いよ、生きていられるだけ感謝……って、"その穴"からも腐敗物出るのね……。

 ――少し経って色々と出し切り、多少は楽になった。そこでちょっと周囲の状況を確認してみる。

 まず現在地は森だ、わあ遭難。次に私の状況を見よう。服なぞ甘えとばかりに全裸の体はぬめりやら謎の腐った皮やら腐敗臭のする赤黒い汚れで不潔、先ほど色々出したので口の中も最悪だしなんなら出す前から最悪だった。ウジも出てきたし。次に爪、なんと言うか、根元で一回ポッキリ割れて、再生してる途中って感じ。古い爪の下に新しい爪が食い込んでいってるあれよ。ちょっといじったら古い爪は取れてしまったので、いっそ全部と思って全部取った。良く女の命なんて呼ばれる髪は黒い長髪で……触ったらごっそり抜けた。いやこえーよ。そして自分が寝ていた場所が気になったので振り返ってみれば……。

「うおぉ!? ああ……ヒトの死体かよ驚かせやがって……。いや驚くに決まってるだろ……RとGの間に十八が付くぞこの描写は」

 普通にヒトの死体が落ちてたよ。腐ったのが三体ね。この体の生前のお仲間かな? 自分含めて全員全裸だし、そこかしこ食われてるし……盗賊にでもやられたのかな? 文明レベルが知れるね。

 仮定盗賊は使えそうな物は全部取っていったようで、恐らく野宿していたであろう死体達の周囲には何も転がっていない。せめて布か刃物は欲しいんだけどなー。

 ……ところで、俺ってさっきまでこいつらと同じ状況だったんだよね? なるほど腐敗物の理由が分かったぞ。そりゃこの状態から再生したんなら腐ったものが出てくるのは当然だよね。スッキリしたところで体もスッキリさせようか、体汚いもん。

 川に入ると冷たく心地よい水が体を撫でる。川は深いところでもギリギリ足が付かない程度で、澄んだ水の中には危険な感じのしない魚や甲殻類が棲んでいるようだ。……一応、死体は流しておくか、臭いしな……。川から上がって死体を引きずり、川に落とす。嫌悪感はあったが、そもそもあの死体達と同質の汚れが付いていたので割り切ることが出来た。さあもう一生そんな割り切り方が出来ないように体を洗うぞー!

 もう一回川に入り、まずは髪の不安が残る頭を洗う。もう全部の髪の毛が抜けたんじゃないかと思うほど大量の黒い髪の毛が抜けたが、ベリーショートだけど髪の毛は残っている。あれか、爪と同じで全部生え替わったのか。それとこの体、身長は普通だけどガリガリだね、再生にエネルギー使ったのかな? それか元からガリガリだったか。……下手に巨乳でムラムラするより良いか。生活が安定したら太ればええねん。あ、また吐きそう。

「おえっ……オロロロ……」

 上手に吐けて偉い。水に溶けてく吐瀉物を見ると、何やらキラキラした物が見える。汚いなと思いつつもそれを拾い上げると、なんと金貨だ。十円玉程度の大きさの金貨が吐瀉物に混じっていた。まさかと思って最初に吐いた場所に行くと、またもや金貨。合計で十枚の金貨が手に入ってしまった。

「ええ……ボディちゃん何やってるの……? そんなに取られたく無かったのかな……?」

 ドラッグとかを警察から隠すために胃に隠したとかは結構聞くけど金貨って……飲むの辛かっただろこれ……。

 とりあえず金貨は洗って川岸に放置。体の臭いを完全に取るのは難しいだろうが、ある程度清潔にしておきたいのでまだ洗おう。指でやることになるし川の生水は不安だけど口の中も洗わなきゃな……。ああ……そうか、性器も洗うのか……ド腐れボディめ、この機会に洗い方マスターしてやるよ。淡水性のヒルの類いに気を付けながらな。

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