神無し転生、肉体付き
シッソウする生物
第1話 ここはどこ? なんでここ?
天高く広がる青空、古代ローマと現代が入り交じったような街並み、行き交う爺、婆、爺、爺、婆、若者、婆……。老人多くね? 超高齢化社会?
……そんな中で天を仰いで叫びたいけど、大声出す勇気が無いので控え目に「どこだここ」と呟いた。おっと、どこだここと言っても、皆目見当が付かない訳でも無い。多分ここは天国か何かだろうと分かる。通行人の頭に天使のわっかみたいの付いてるもん。いや天国あるんかい。絶対無いだろうと思ってたのに無念だよ全く。しかし、キリスト教の教義的にゃ、生前やってきたことが異端にもほどがあるし、仏教の浄土にしちゃ何か違う。主に景色ね。……まあ天国にしてはそれっぽく無いぞと言ったところ。
そんな感じで困惑していたところ、後ろから「お兄さん、新しい人?」と声を掛けられた。そこに居たのは全体的に色が落ちたような体色の青年。亜麻色の服を着ているので本当に全部から色が抜けたようで、さらにわっか付きだ。そいつに対してビビりながら「新しいヒトって言うのは……。……すみません、あまり状況が飲み込めてなくて」と私――まあ一人称なんて俺でも私でも僕でも我輩でも構わないんだけどさ――我輩が話し掛けると、「……あー……、新しい人で合ってそうですね。失礼ですが、死んでますよね?」「えっ」……思考を挟まず返答する。食い気味にね。すると青年Aさん(仮名)は「えっと、ここはいわゆる死後の世界でして……いや、全ての世界を繋ぐ場所と言った方が適切かも知れませんね」と上手い説明を探しながら話す。青年Aさん攻めるね。こんな状況じゃ無かったら変人扱いだぜその台詞。
「……はぁ」
ごめんね僕もまだ信じ切れてないよ。ほら、その証拠の煮え切らない返事もしたよ。
「……と、とにかく! ここじゃアレですし、一旦そこの店にでも入りましょう!」
結局、その場でこの私を説得する必要性は無いと判断したようで、良く分からないがどうやらカフェのような店に案内される。
店内に入れば街中と同じく爺婆オンパレードではあるが、しっかりと整備された木製のテーブルやカウンターが目に入る。俺たちが適当な席に座ると、店員らしきお婆ちゃんが水……水……? 水にしても存在感の薄い液体が入ったガラスのコップをテーブルに置く。
一先ず水(仮定)を一口飲み、話を始める。
「……あー、唐突ですが、先ほど貴方が仰ったように私は死んでいるという解釈でよろしいでしょうか」
「ですね……。ここに居るということは間違いないかと」
神妙な顔付きで話す青年Aを尻目に、テーブル近くのガラス窓に、わっかの付いた小さな白い霊魂のような物がコツンと音を立ててぶつかり、Uターンして去っていった。
「……今のは?」
青年Aに聞くと「ハエか何かの虫ですね。人間であった魂は形を留めておける……いや、形を覚えていられるのですが、虫ほどになると覚えてない個体も多いようでして」と答える。
「……なるほど。アレは……?」
店の外を四つ足で歩く謎のグニャグニャを指差す。
「犬……? 犬でしょうか。多分犬です」
「はぁ……イヌもああなるんですか。ならアレは」
さらにイヌを連れて歩く二足歩行のグニャグニャを指差す。
「人間ですかね……。認知症が進みすぎていたり、全身がぐちゃぐちゃの状態を覚えちゃってるとああなったりします」
「……なるほど。中々エグいですねぇ……」
あまりにも当たり前に歩いていたので、驚きを通り過ぎて普通に質問してしまった。少なくとも私の生まれた世界とは程遠い世界であるのは分かった。
「んん……とりあえず私が死んだと言うのは分かりました。死んだとして、これから何かやるべきことだったりってありますか? いや、貴方に聞くべきなのかも分からないのですが……」
「ああいえ、僕でも大丈夫ですよ。新任ではありますが、街中のパトロールと新人さんの誘導が仕事なので」
「あ、そうだったんですね。そうとは知らず失礼しました。なら遠慮無く……私、これからどうしたら良いんでしょうか」
「そうですね。僕は頭にリングがありますが、これは言わば"魂の充電切れ"を表す物でして、この状態から魂が復活すると記憶が全部無くなるんです。しかし、貴方は頭にリングが無いので、"次の世界"に記憶を保ったまま転生出来ますね」
おっと結構な情報をぶつけられたぞ? とりあえず俺の頭ってわっか無いの? ……無いね。とっさにガラス窓を見るも、ガラス窓に映る姿にわっかが確認出来ない。……で、転生? 次の世界に?
……次ってのがなんなのかはともかく、正直ロマンあるな。全国の中学二年生憧れのシチュエーションじゃん主語でかすぎたわ。ごめんな全国の中学二年生。
「……なるほど、ところで、元の世界に帰るっていうのは……?」
するとAさんは「少し厳しいことを言いますが」と前置きし、「無理ですね。魂の循環は基本的に一方通行で、次の世界に行くことは確定しているんです。偶然、奇跡的に、元の世界に帰る方も存在しますが、期待はしないで下さい」と続けた。
「つまり、どこかの世界で死ぬと、ここを経由して次の世界、そこでも死ぬとここを経由して次の世界……って感じになってるんですか?」
「あっ、そうです。すみません、説明足らずで……」
「ああいえ、大丈夫ですよ」
まあ新任らしいしね。ベテランだったら『クソ分かりづらいな畜生』ってなってたけどね。何様だよ私。
そんな時、青年Aが「ところで」と一旦区切って話始める。
「貴方がどこの世界から来たのか把握出来てないのですが、何か特定出来そうな情報などはありますか?」
なるほど確かに、自分の出身を話していない。多少申し訳ない表情になってしまう。
「そうですね……。私のようなヒトは地球という星に住んで居ましたね、地球では西暦が暦として使われていて、死んだ年は西暦二〇二一年です」
……死んだ年は多分要らない情報だな。まあオタクの自分語りだと思って許してくれ……。
「なるほど、ありがとうございます。それでは次の世界は、貴方の世界で言うところの『中世風ファンタジー』の世界になります。魔法や格闘術で怪物と戦うような、貴方の世界から見れば原始的とも取れるような世界ですが、技術体系がそもそも異なる世界なので比較が難しい所も多いですね」
中世風ファンタジーねぇ……ダークファンタジー入ってないと良いけど。と、冷めた意見はここまでにしよう、正直めっちゃ楽しみだし。前世の未練? あるっちゃあるけどそこまで無い……というか死んだのなら仕方がないと思っている。達観しているというよりは、まだ状況が分かっていないんだろうね。多分後で後悔するヤツ。とまあ、俺としては乗り気な訳で「……夢がある話ですねぇ」とだけ、オタク特有の早口――自虐だが――が出るのを抑えて話す。
「それなら良かったです」
青年Aが続けて「……ここでごねられても困りますから……」と呟く。苦労の多い職場なのかも知れない。まあ私みたいな死んだことに気づいてないヤツも居るだろうし、そんなのの相手は面倒だろうとも思う。
……突然だが話を変えよう、重要なことに気が付いた。
「……そういえば……なんですけどね? 自己紹介をしていないと思いまして……」
そう青年Aに話すと、あちらも気が付いた様子で「ああ! 失念していました、僕はアルフレッド・リネーと申します。何とでもお呼びください」と慌てて自己紹介をしてくれた。……言葉、なんで通じてるんだろ。同じ言葉を使ってる様子でも無いのにね、分かるんだよ……恐怖だよね。ってことはどうでも良くてだな、こちらも自己紹介を返さなければ失礼だしそもそも言い出しっぺは俺だ。さあ自己紹介!
「ご丁寧にどうも。私は卯麦凉(うむぎりょう)と申します。……まあ悪口じゃなければ何とでも……」
――まあ、分かってるとは思うけど、これは私が異世界転生して楽しくやる……予定の物語だ。小説ならここら辺で一話終わっても良い頃だね。中身が無いけどね。
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