第9話 傭兵ギルド

 別れを済ませ、エイリス達と傭兵ギルドを目指していた。


今日から新たな生活が始まる。


孤児院の皆の為にも頑張ろう。


俺の心は踊っていた。



「そう言えば、呼び方はフェルマーで良いのでやがるの?」


「あ、はい。それで大丈夫です。僕はエイリスで良いですか」


「それで良いでやがるわ」



 それだけ言ってエイリスはまた黙る。


って言うか話し方めんどくさくないのかな。


ジーッ……。


こっちはこっちで俺の事睨んでるし。


何て言うか目茶目茶気まずい。



「フェルマー、で良いですか?」


「あ、はい。 ……雑魚ボスさん?」


「アユムです(# ゜Д゜)」



 アユムは俺に食って掛かって来る。


何も変なことしてないんだけどなぁ。


顔面2発思いっきり殴っちゃったけど。



「何でそんなに睨んで来るんですか?」


「何でも無いからです(# ゜Д゜)」



 何でもあるやん……。



「お2人で話してたように、そんなに巨大オーガを倒した事が信じられないんですか?」


「え?」



 ん?



「ステラから聞いたんですね」


「あ、いや……。 まあ、そんな所です」


「まあ良いでしょう。我々の傭兵ギルドは身分も何も関係ない。可能性のある人物は容赦なく引き入れる方針ですから。その話を聞かれても何も問題はありません」


「優秀な人材はうちに全員招きやがれね」



 ははは……。


強引な姿勢に渇いた笑いを浮かべながら俺は考える。


ステラからは傭兵ギルドに誘われた事しか聞いてなかった筈。


でも巨大オーガの話を俺はすんなりした。


どこで知ったのか自分でも分からない。


何でだろう。


考えども答えは分からなかった。




 山を越え、遠くに大きな町が見えるようになった。


孤児院から出た事が無かったから初めて見たけど。



「あそこに見えやがるのが、ラズリの町でやがるわよ」



 目茶目茶でかい町が見える。


町の周りは城壁みたいなやつだろうか?


町を1周ぐるっと囲うように建ってる。


畑と田んぼが半分位の割合かな?


んで、町の真ん中に一際でっかい建物がある。


異世界なんだなーって言うのを改めて実感してしまう。


思わず『でっけー』と声が漏れてしまう。


それを聞いてアユムが溜息をつく。



「ここラズリは悪い言い方をするなら田舎です。他の町はここの10倍は下らないです」



 マジかよ……。


ここだって東京より余裕ででかくね?



「今日中に戻りやがるわよ」


「その言葉遣い、いい加減疲れて下さい」


「誉め言葉でやがるわね!」



 頭を抱えるアユム。


きっと毎回注意しては諦めてるんだなと、2人の関係をちょっとだけ垣間見た。




 着いた町の入り口には門番がおり、簡単なボディーチェックをされる。


1つの国として完全に機能してるんだなぁとどうでも良い事を考えてしまう。


石畳で作られた道路までちゃんとしてる。


賑やかそうな騒ぎ声が遠くで聞こえ、田舎とは思えない位に活気づいていた。



「今は町の生誕祭中でやがるから賑やかでやがるけど、いつもはもっと静かでやがるわ」


「フェルマーも後で覗いてみては? どれだけ食べられるかを競うバトルが結構盛り上がってます」


「へー。フードファイトがここにもあるんですね」


「? ここにも、とは?」


「あ、いえ……。本でしか読んだ事が無かったので」



 フードファイトがこっちにもあるなんて驚きだ。


好きで良く見てたから後で見に行ってみよう。



「着きやがったわ」



 中央のでかい建物に到着。


他の建物と違ってここだけ異常に高い。



「ここがラズリの傭兵ギルドでやがるわ!」


「ラズリの……って事は他の町にもあるんですか?」


「勿論です。全ての町には傭兵ギルドと魔法ギルドの設置が義務付けられていますので」



 普通に整備が行き届いてる感じだなぁ。


中に通される。


町中もそうだったけど、中も清潔に保たれてるのが一目でわかる。



「何かちょっと小汚いのを想像してました」


「町の警備とか万が一にでもモンスターが襲って来た時にもここが頼られやがるのよ? そんな場所が不潔でやがって、町民は信用しやがると思う?」


「なるほど……」


「まぁ、全部の町がそうでやがらないけど」



 口は悪いけど目茶目茶考えられてるんだな。



「じゃあ私は戻ってやるから、後は頼みやがるわね。アユム」



 アユムの返事を待たず、エイリスはどっかへ行ってしまう。



「では、まずは部屋に。そしてギルド内を案内しましょう」




 訓練場、冒険者用のクエスト受付所、魔法による通信所とか。


現実世界顔負けの設備が魔法によって実現されてて驚いた。


訓練所だけでも大体100人位の大人数がおり、エイリスが指導してるのを遠目に確認した。


ギルドの最上階は見晴らしが良く、町の外まで見る事が出来た。


見張り台みたいな役割なんだろう。


でも、傭兵ギルドがこれだけ大きいのに、その位の建物がもう1つ無いのが疑問だ。



「魔法ギルドは基本的に地下にあります。魔法の研究過程を盗まれないようにです。特に上位魔法が仮に盗まれでもすればギルドにとっては大きな損害になり得ます。実際に魔法ギルドがどこにあるのか。それも我々は知りません」



 だから魔法通信所があるのか。


徹底されてるなぁ。


研究者みたいなイメージはそのままだな。


1つ1つが発見であり新鮮で、ギルド巡りだけでも楽しい。


今日はとりあえず休んで良いとの事だから、俺は町を見て回る事にした。


因みに服は、ギルドから新しく貰った服を着ている。


傭兵っぽい鎧とかじゃなく、異世界で言う普段着っぽいものだ。


なんでも傭兵が町を歩くのに鎧を着てたら町民が委縮するから、らしい。


元々格闘家だった俺にとってはこういう軽装の方が動きやすくて良い。


まあ、見た目がまだ子供だってのもあるけど。


お金も無かったから、アユムから50パーネだけ貰った。


パーネはお金の単位らしい。


どれくらいなのかも分からない。


……ぴえん(´・ω・`)


複雑な気持ちになりながら、祭りを見て回る。


ビールっぽい液体を飲んで談笑してる人とか、サーカス団っぽい集団が何かショーをやってたりしてる。


フードファイトは目茶目茶でかい皿に山盛りになったパンっぽいやつをひたすら食べてる。


どんだけ食うんだろうって思ってたら優勝した人は完食してた。


とんでも無いレベルの戦いだった。


フードファイトを見てたらお腹が空いたので、出店のハンバーガー的な食べ物を購入。


これが1パーネ!?


500円くらいじゃね!?


お祭りだからなのか、或いは違うのかは分からないけど。


何か色々挟んであってうまかった。


見た目が子供だから酒が飲めないのは生殺しって感じだ。


他にも出来なかったけど魔法射的とかもあった。


後は魔法関連は研究の成果を見せたり、出店が色々あるけど、傭兵ギルドで何かやるってのは無いらしい。


町の警護もあるからかな?


一通り楽しんだ頃には、もう夕暮れになっていた。


うーん、楽しかったなぁ。


大きく伸びをする。


酒が飲めれば言う事無しだった。


ちょっと静かになりたくて、人がいなそうな場所に移動する。


夕日、綺麗だなぁ。


孤児院の皆、どうしてるだろうなぁ。


向こうにいる時に、こんな風に物思いに耽るなんて事しなかったなそう言えば。


ちょっとだけ恋しくなる。


この世界には電話なんて無いからなぁ。


別れの時を思い出す。


……。


パン!


頬を叩き、喝を入れる。


よし、戻ろう。


ギルドに戻って寝たら、明日から本格的に活動だ。


何をするかは全く聞いてないけど。


祭り会場とは違う道を迂回して帰る事にした。


楽しみ過ぎたからあれだけど、元々町の中がどんな感じなのかを確認する為でもあった事を今更思い出す。


そんな帰り道の途中。


ボロボロの家を見つけた。


中に人は誰も住んでないらしい。


扉も壊されたまま、夕日が差し込んでおり、埃だらけなのがすぐに分かった。


こんな家もあるんだなと思っただけだった。


傾いた表札のようなものを見ると、ノーザンと書いてあった。


ドクンッ。


何故か心臓が高鳴った。

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