第8話 恩は受けて必ず返す。思いで歴史は作られる

 ギルドに戻る道中。


アユムはボコボコにされた顔面を自分で癒していた。


エイリスはそんなアユムを見て溜息をつく。



「いくら何でも手加減し過ぎでやがるわ」


「ち、違います」



 懸命に否定するアユムの表情は、恐怖しているようにさえ見えた。



「だったら、ただのアホを晒しやがっただけだけど?」


「あ、あいつ……」



 鼻血に染まった布を握りしめる。



「空っぽだったんです……」


「空っぽ?」


「魂に何も入ってなかったんです……!」


「そんな事があり得やがるの?」


「わ、私だって信じられません!」



 エイリスは考えた。


今の話が本当だとしたら、ノーザンフェルマーは何者なのか。


上位魔法を無意識に使用してる状態なのか。


或いは別の要因があるのか。


何れにせよ。


上位魔法を無効化できる人物が孤児院にいるのは、エイリスにとって興味深かった。




 そうだよな。


傭兵を目指すって事は。


ここを離れるって事だよな。


当たり前のことに今更気付く。


皆に優しくしてもらった。


別にどうでも良い事でもお礼を言ってもらえた。


格闘家なんて良く分からない事を言ってる俺の話を真面目に聞いてくれた。


確かな温かさがここにあった。


食事をしながら柄にもない事を考えてしまう。



「やったね! フェルマー」


「うん……」



 いつものようにマイルが話しかけてくれる。


嬉しいは嬉しい。


突然すぎて心の整理がついてない。


それだけなんだろうけど。


皆で支え合って来た。


色んな思い出が蘇る。



「はい。これ」



 マイルがそう言って俺に包みを手渡してくれる。



「開けてみてよ」



 中身は……バンテージ?


瞬間、バンテージが光る。


眩しくて目を閉じ、収まったかって所で目を開けると、バンテージが既に両手に巻かれた状態になってる。



「どう? いつも準備に時間がかかって大変そうだったから」



 マイルがバンテージの結び目を解くと、すぐに元の状態に戻った。



「こんな事しかできないけど、応援してるから」



 胸に熱いものがこみ上げる。


マイルに相談して本当に良かった。


これだけ色々助けて貰ったら。


もう意地でもやれなかった夢を叶えてやる。



「返しても返しきれないよ。マイル」


「そんな事気にしないで良いよ! 頑張って!」


「……明日、迎えに来るみたいなんだよ」


「そっか……突然だね」



 マイルは静かに目元を擦る。



「僕も頑張るからさ。いつかまた会えると良いね」


「ありがとう」



 マイルと静かに拳を合わせた。




 翌日。


荷物をまとめたら異常な程に少なかった。


多分中のフェルマーがここに初めて来た時に、何も持ってなかったからだろう。


宣言通りにエイリス達がやって来る。


この人、そう言えば何で側近っぽいポジションにいるんだろう。



「何ですか? こちらを見て」


「いや、昨日の今日で何でって疑問が……」


「どう言う意味でしょう(# ^ω^)」


「安心しやがると良いわフェルマー。弱いのは事実でやがるわ」


「あ。やっぱりRPG序盤に出て来る雑魚ボスみたいなんですね」


「雑魚呼び止めなさい(# ゜Д゜)」



 すげー痛いビンタを食らう。


良いじゃん別に!


衝撃的な肩透かし食らったんだから!


それぐらい思っても!



「頑張って下さいね。フェルマー」


「今までありがとうございます。ステラ」



 色んな格闘術を教えて貰っただけじゃない。


魔法の細かいところまで教えてもらった。


それ以外にも。


ステラに感謝してもしきれないものがある。



「絶対に恩返しします」



現実世界で出来なかった事をこっちで果たしたい気持ちが全く無い訳じゃないけど。


受けた恩は返したい。


ただ純粋にそれだけだ。



「では、フェルマー。行きましょう」


「今日からは私達について来やがりなさい」



 踵を返すエイリス達。


もう1度ステラにお辞儀をして、俺もエイリスに続く。



「頑張ってねフェルマー!」


「オーガから助けてくれてありがとう!」


「フェルマーなら絶対にやれるよ!」


「全員で祈ってるからねー」


「僕も追いかけるから!」


「孤児院を守ってくれてありがとうございます!」



 振り返ると、孤児院にいる仲間が全員集まってた。


……。


目元を静かに拭った。


肩を叩かれたと思ったらエイリスだった。



「言葉ぐらい残して行きやがりなさい」



 大きく息を吸い、ありったけの大声で叫んだ。



「絶対に皆に恩返しするから! 覚悟してね!」



 大きな拍手と声援を背に、俺はこの日、傭兵ギルドに正式に所属した。

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