第7話 傭兵ギルドのお誘いは突然

 ぐがー。


フェルマーは爆睡していた。


昨日の今日での緊張と疲労で疲れたのだろう。


ノックの音にも目覚めない。


ステラが入って来る。


昨日の戦闘でいきなりAランクのオーガをたった2人だけで倒したんだからそれも当然だろう。



「起きて下さい。フェルマー」



 フェルマーの体を揺さぶる。


たった1年と少しでこれだけの肉体改造に成功するのに驚く。


そしてそれを模擬戦で活かし、オーガとの戦いでも変わらない動きを遂行できる。


フェルマーが寝返りを打ち、ステラの両胸を掴む形になる。


エロガキ(# ゜Д゜)


   ∧∧.∩        ∩_ ∵’、

  (    )/  ⊂/"´ ノ )

 ⊂   ノ    /   /vV

  (   ノ    し'`∪

   (ノ


変わり過ぎじゃないかとステラは心底思った。




「疲れてて眠ってました。決してわざとじゃないです」



 鼻血をステラに治して貰いながらステラに謝罪する。


起きたら外で何事!?


って思って色々あって今に至る。



「疑わしいですが、まあ良いでしょう」


「それで、どうして俺は呼び出されたんですか?」



 治療を終え、ステラはコホンと咳ばらいをする。


……何だ?



「フェルマーに会いたいと言う方がいらっしゃるのです」



 俺に?


そう言ったステラの表情が微妙なのは何でだろう。



「もうすぐ来るはずですので、準備をしておいてください。朝食後、外の広場です」



 そう言って俺に背を向けたって事はもうこれ以上用は無いんだろう。


けど、誰が?


いつものシチューを食べながら考えても何も分からない。



「怪我は無いですか?」



 俯きがちに話しかけて来る女の子がいた。


えっと確か……。



「メリリカ、うん。ちょっと眠いけど、治療してもらったから」


「皆を助けてくれて、ありがとう」



 丁寧に頭を下げるメリリカ。


ほうきを持ってるって事は掃除をしてるんだろう。


寝坊した事をちょっと申し訳無く思う。


俺より少し年下だと思うが、何かあるたびにお礼を言ってくれる、かなり礼儀正しい子だ。


女の子なのに頬に大きな切り傷がある。


何があったかは聞かない。



「いや、夢中になってただけだからさ。気にしないで」



 ぺこりとお礼をし、仕事に戻るメリリカ。


メリリカに限らず、皆本当に良くしてくれて嬉しい。


誰もケガ人がいなくてホッとする。


……よし!


用事が済んだらトレーニング再開しよう!




 広場へ向かうと既にステラがいた。


他にも2人の女の人と兵隊っぽい人が1人いるな。


……何、これ?


どう言う状況??


俺は頭に『?』マークを浮かべたままステラの元へ。



「遅いでやがりませんか?」


「あなたは相変わらずイライラする話し方なのね。エイリス」


「この方がそうなのですか? ステラ」



 汚いお嬢様言葉の人に何かイライラしたような表情の人が一斉に俺を見る。



「ノーザン・フェルマー。初めまして。私はアユムと申します」



 アユムは俺に手を差し伸べて来る。


その手を握り、握手する。



「さあ、さっさと来やがりなさいフェルマー!」



 腰の剣を抜き、俺に向けて来る。


大分手入れがされてる剣だと思った。


だけど意味が分からない。



「エイリス。まず説明をしなさい」


「あら。何も説明をしてやがりませんの?」


「あなたが説明するって言ったからでしょ(# ゜Д゜)」



 珍しくステラが切れてるのが面白い。



「あのー、何がどうなってるのか教えて貰っても……?」


「はぁ……。 ではエイリスが説明しないようなので簡単に。こっちのエイリスはこんな汚い話し方ですが一応傭兵ギルドの長です」


「汚いは誉め言葉でやがりますわね!」



 頭おかしいだろこのエイリスとかいう人。


……って傭兵!?



「おおおおおれがよよっようへ」


「落ち着いてくださいフェルマー」


「先日、孤児院の子供2名によって大半の巨大オーガが倒されたと、派遣した傭兵隊による報告を受けました。なのでそれが本当なのかと、今日確認に伺った訳です」


「なるほど……」


「それが本当であれば、エイリスがあなたを傭兵ギルドに引き抜こうと言ってるんですよ。フェルマー」



 おおぅ……。


いきなりとんでもない事になってないか?



「それで? 来やがる覚悟はある? ノーザン・フェルマー。ああ安心しやがって良いわ。別に君と今模擬戦をしやがるつもりは無いわ。これは君への招待状と思ってくれやがって良いわ」



 それにこの人。


こっちを挑発してるけど目は俺の動きを素早く観察してるのが瞳孔の動きから分かる。


マジで隙が無い。


ギルドの長だけあって多分目茶目茶強い。


この人の元でやるのはある種俺にとっての転機かもしれない。



「迷っているのなら、私と模擬戦でもしてみますか?」



 アユムから提案される。



「ちょ、アユム本気で言いやがってるの?」


「アユムは止めておいた方が良さそうですが……」


「何故2人とも全力で止めに入るんですか」


「俺は良いですよ」



 傭兵ギルドがこうやってわざわざ来てくれた。


俺は傭兵を目指そうと決めた。


やらない理由がある訳無い。


コネクションを作るチャンスだ。




 両拳に布を巻き終え、構える。


アユムは中国拳法のような構えで俺から20m位の距離を取る。



「その拳に巻くものに意味はありやがるのかしら?」


「自分の拳を保護する為です」


「以後それは止めやがりなさい。常に巻いて戦える状態を想定しやがらない事ね。別の形で対応する事を考えやがりなさい」



 言葉は汚いけど的確過ぎる。


オーガと戦った時はキックだけで行けたから良かったけど。



「私はいつでも良いですよ」


「俺も大丈夫です」



沈黙の中、エイリスは嬉しそうな表情でこっちを見ている。



「始めやがって下さい!」



 やる気の無くなるような掛け声と同時に、アユムが詠唱の体勢に入る。



「全てのものよ」



 随分悠長だな……。



「我がものになぷぎゃー!!!」



 もろに顔面に左ストレートが入り、アユムはもの凄い勢いで吹っ飛ばされた。


え……あれ?


肩透かし感が否めないんですけど?


鼻を抑えながらアユムが立ち上がる。



「準備終わるまで待ちなさいよ(# ゜Д゜)」


「いや、始めって言ったやん(´・ω・`)」


「準備があんのよ(# ゜Д゜)」


「お、おう……」



 キャラ変わってません?



「アユムはこの通りのちょー面倒な女だから注意しやがる事ね」


「あくまで模擬戦なので、待ってあげたらいかがですかフェルマー」



 あー……そう言う……。



「RPG序盤に出て来る雑魚ボスみたいな感じなんですね。了解です」


「訳分かんない事言ってんじゃないわよ雑魚じゃないわよ(# ゜Д゜)」


「お、おう……」



 気を取り直して構え直す。



「始めやがって下さい!」



 またアユムは詠唱の体勢に入る。


こいつ、傭兵なのに魔法しか使わないってどう言う事……?



「全てのものよ。我がものになれ」



 アユムの手元が光る。



「マインドネット」



 何かがされたようだ。


アユムは詠唱の体勢のままになってる。


俺に何かがされた訳じゃなさそうだ。


何かを仕掛けた?


1歩ずつ慎重に距離を詰める。


1mまで来たところで一気に飛び膝蹴りをする振りをしたパンチを繰り出す。


俗に言うスーパーマンパンチってやつだ。



「ぷぎゃー!!!」



 普通に吹っ飛ばされた。


はー!?



「なっ!?」


「え!?」



 さっきと同じようにアユムは派手に吹っ飛ばされる。


うん。


完全にRPGの序盤に出て来る雑魚ボスだな。


肩透かし感半端ないわ……。


弱いのかって言うか弱いやん(´・ω・`)


鼻を抑えながら立ってくるアユム。


おー。


意味分からんけどタフだな。


目茶目茶鼻血出てるけど。



「あ、あんた何なのよ(# ゜Д゜)」



 えー理不尽じゃね……。



「何で私の」


「今日はこの辺にしてやるわ」



 エイリスの言葉に、アユムはハッとした表情をする。



「エイリス。私はまだ……」


「また後日、来てあげるわ」



 アユムの言葉を無視して踵を返すエイリス。


ちょっとくらい話を聞いてあげればいいのにと思う。



「後日、フェルマーを貰いに来てあげるわ。ばばあ」


「その呼び方はいい加減にやめなさい(#^ω^)」



 エイリスの後に続くようにアユムと兵隊が帰っていく。


んー?



「ステラ。いまいち何にも分からないんですけど」


「後日改めて来るそうです。恐らく正式にフェルマー。あなたを傭兵として迎え入れるために」



 え?


さっきのを見て?


な、何もしてないんだけど……。



「……何も実感が湧かないんですけど」


「良かったと思いますよ。フェルマー」



 嬉しそうに俺を見てるステラ。



「晴れてここを卒業ですね」



 虚を突かれる突然の発言。


……そっか。


傭兵に迎えられるって言うのが本当なら。


俺、ここを出る事になるのか。

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