第5話 魔法とタックル
夕食を終え、部屋に戻ったら今日の模擬戦の反省会。
まず、思った以上に自分の思い通りに動けて良かった。
これは多分、前の世界に比べて筋力と出るスピードがちょっと違うんだろう。
10mの距離はほぼ無いと思って良いかもしれない。
見えてたから(手加減してくれたから)避けれたけど、もっと距離は遠い方が良いだろう。
それに、異世界だから予想は出来た事だけど。
素手同士の戦いでは最早ない。
特異な武器、武術同士でぶつかる異種格闘戦みたいな感じになるだろう。
だから総合格闘技とは勝手が違うって頭に切り替えなきゃいけない。
それに何より魔法……だよなぁ。
あれが一番怖い。
普通って詠唱しないと発動しないんじゃないの? とか。
今回はたまたま避けれたから良かったけど。
勝手をまるで分かってないのが痛い。
明日辺りにでもマイルの部屋の本を貸して貰おう。
孤児院での作業をしながら、久しぶりの勉強。
何より勉強は嫌いじゃないし、対戦相手を知る事にも繋がるとなれば、むしろ嬉しい。
よし。
反省はこれ位で良いだろう。
明日以降、魔法の事を知って自分の方向性を決めれば良い。
~翌朝~
マイルの部屋に行こうと思ったら早々にステラに呼び出され、何故か今事務室の客用ソファーに座らされている俺。
カウンターがもろ顔面(と言うか鼻)に入ってたから怪我してるんだろうなと思ってたけど、ステラの顔は何事もなかったかのように元通りになっていた。
「どうして急に呼ばれたんですか?」
「フェルマー。あなたは今日から傭兵の為の訓練を受けて貰います」
「え! ホントですか( ゜Д゜)」
突然の提案に開いた口が塞がらない。
突然すぎて嬉しいって感情すらわいてこなかった。
「元々、自分の進路を決めた者に最大限の支援をするのがここの決まりでしょう。一番最初に説明した筈です」
そもそもその俺は別の俺だからなぁ。
間違っても言えないけど。
「そう言う訳ですので、私がフェルマーに教える。それだけですよ」
「分かりました……」
そう言う話ならステラに教えて貰えるのは間違い無くプラスになる。
「1つだけ言っておきたいんですが」
「何ですか?フェルマー」
「昨日みたいな手加減は必要無いですから」
「……良いでしょう」
ステラのハッとしたような表情に違和感を覚える。
「って何で机に座らされてるんですか(# ゜Д゜)」
「フェルマーは魔法を知らないですよね?」
「う……確かに知らないです(´・ω・`)」
魔法の事も知らないって見抜かれてるのはやっぱり……。
「昨日のようにたまたま避けられるとは思わない事です」
あ、そこまで見抜かれてるんですね(´・ω・`)
ステラが黒板に色々書いていく。
部屋に来る前に渡されたノートに板書していく。
学生時代の懐かしさを感じる。
勉強は人並みにしたけど、自分に役立つって実感できるような勉強が出来るのは経験が無い。
ってかめっちゃ楽しい。
~3時間後~
とりあえず分かったのは。
・魔法は魔力を基に、想像→詠唱→具現化で成り立つ。
・魔力は、精神力そのものである。
・詠唱を、魔法陣の形で省略する事が出来る。
・魔法は、複数の魔法を合成する事が出来る。
・上位魔法が存在し、上位魔法は詠唱でしか具現化する事は出来ない。
こんな所だろうか。
おおむねRPGの知識で間違いは無さそうだ。
魔法は、基本的なものと超上位魔法しか無いって事が分かったのも大きい。
詠唱でしか具現化出来ないってのもデメリットとしてあるみたいだ。
異世界で魔法って言ったらチートなイメージがあった。
格闘家からしてみればだけど。
けど、何に対してもメリットとデメリットがあるのは何よりの救いだ。
「質問はありますか? フェルマー」
「精神力は鍛えられるんですか?」
俺自身も魔法が使える可能性を考えての質問。
って言うより使えて欲しいなー(´・ω・`)
って淡い期待。
ステラは静かに首を横に振る。
「鍛えられる、と言う事しか現時点では分かっていません。魔力と実際に魔法が使えるはイコールでは無いので」
ああ、なるほど。
精神力が魔力ではあるけど、魔力があれば何でも出来るかって言うのは別の話って事か。
望みがあるのか無いのか分からない回答だった〇rz
「他には何か?」
「鼻の怪我がもう治ってるのは、やっぱり回復魔法を使ったからですか?」
「ああ。なるほど」
ステラは黒板の文字を消す。
後でノートを見返せるようにはしたから、大丈夫だろう。
「次は体術の鍛錬をするので、外でついでに実践いたしましょう」
おお。
魔法を実際に見れるって事か。
やっぱり専門家に直に教えて貰えるのは良いね。うん。
と言う訳で俺達は模擬戦をやった広場にやって来た。
「では、実際の魔法がどう言うものか。基本をお見せしましょう」
ステラは小型のナイフで自分の首を切る。
ブシャーっとおびただしい量の血が噴き出す。
目茶目茶グロいな……。
若干ひいてる俺をよそに、何も気にした様子も無くステラは両手を合わせ、祈るような恰好をする。
「精霊よ。自然よ。その力を持って我を癒し給え」
同時にステラ自身が光に包まれる。
おお。
「ヒール」
ステラの首の傷がみるみる治っていく。
これが魔法ってやつか!
急所に攻撃が入ってもこうやって治せるのってすごいな普通に。
「ざっとこんなものです」
「って事は、さっきの詠唱を、紙に埋め込めば詠唱を省略できるって事なんですね」
「そうです。まあ回復魔法は支援魔法なので、魔陣札に埋め込む人は余りいませんが」
それで使う人物によって威力が変わると……。
ステラは紙に書いて使ってた。
魔法陣って言うか術式って言った方が良いのかは分からないけど。
まあ俺が魔法を使えたら色々試してみよう(´・ω・`)
「魔法の実践披露はこの位で良いでしょう」
ステラは構える。
空気が凍るのを感じた。
俺も構える。
「私が構えた瞬間に表情も構えも変わりましたね」
「今日は素手で良いんですか?」
「フェルマーに教えると言った筈ですよ。私の打ち方から吸収する事も出来るでしょう」
素直に嬉しい。
ステラは勝敗では無く、今の俺に必要な事。
実践から学ぶのが一番手っ取り早いと見抜いたんだろう。
そう言う相手に見られてる事に感激する。
「ありがとうございます」
ありがとうとごめんなさいが言えない人間は屑。
それが俺の座右の銘だ。
ステラが微笑んだ気がした。
微笑むと同時に俺に詰め寄り、右フックを顎に向けて放って来る。
顔を逸らして避け、腹に放った右ミドルキックはステラの左手で防がれ、距離を取られる。
間伐入れずに放ったワンツーを手でカットされ、回し蹴りを空いた顔面に当てられる。
だけど、予測しながら受けた為意識的なダメージは無い。
カウンター対策を踏まえた上で、踏み込むスピードとかも調整して来てるな。
迂闊に踏み込まず、距離を詰めてジャブでのけん制を試みる。
距離にして1mほど。
異世界でこの距離は近過ぎないか試したかったのもあるし、相手がどう反応してくるか気にもなっていた。
カウンターを貰ったのが理由か、ステラは気軽に踏み込んで来なかった。
ステップを見てハイキックを放つが、ステラの手でガードされる。
打撃を全部手でガードする気みたいだな。
それでこっちが打つカウンターを警戒し、スピードを若干落としてケアをする。
打撃対策し過ぎじゃね?
それなら。
総合格闘技をやってる俺としては、それでも問題無い。
ストレートを打つ振りをして体勢を屈め、ステラの右足を取りに行く。
「なっ……!」
片足を取れば、後は柔道の足払いの要領で倒す。
やっぱりタックルをやって来るとは思ってなかったみたいだ。
後は1本を決めに……。
ふにゅっと柔らかい感触が右手に残る。
これは……。
最初にステラを見た時の寂しい胸元を思い出す。
胸って大きくなくても柔らかいんだな……。
「いつまで触ってるんですか(# ゜Д゜)」
∧∧.∩ ∩_ ∵’、
( )/ ⊂/"´ ノ )
⊂ ノ / /vV
( ノ し'`∪
(ノ
くらった事の無い程の衝撃だった。
~1時間後~
俺は正座をさせられていた。
傷を魔法で癒すステラの顔は、まだちょっと赤かった。
「とんだエロガキですね……」
「いや、あれだけ打撃の対策打たれたらタックル行くしか無いなと。決して触ったのはわざとじゃなくて(´・ω・`)」
「まあ良いでしょう。あの戦法は素手同士での戦いであればかなり有効ですし。だから攻撃が単調なのかと納得も行きました」
むう。
確かに良く単調だとは言われてたけど。
戦術まで単調にはしてないんだぞ。
ほ、ホントだぞ?
「目線、動きは良くこちらを把握していますが、魔法や武器も考えれば、今のままでは良くないです」
確かに。
打撃と寝技だけじゃなく、動き方からバリエーションを持てと。
現実世界(って表現で良いのか?)とは勝手が違うと改めて痛感する。
って言うかさっきのパンチが目茶目茶痛かった。
あの体勢であんな攻撃たまったもんじゃない。
「或いは、フェルマー自信が武器を使う事も視野に入れた方が良いかと」
ステラは俺の方を見て来る。
治療が終わり、痛みも全部無くなった。
……。
答えは決まってる。
「拳だけで、俺はやります」
俺が何で転生しても格闘家になりたいって思ったのか。
やり残した事があるから。
元の世界に戻れないなら、こっちでやるしかない。
意固地だって思われたって別に良い。
それを俺は悪いと思わない。
「そうですか」
ステラは何も言わずに立ち上がり、構えた。
「治療も終わりましたし、やりましょう。違った攻撃、目線の使い方、動き方を常に意識してみましょう」
何も言わないでこうして協力してくれるステラには感謝しか無かった。
~一方その頃~
そこはモンスターの巣窟と言われる場所だった。
だが入り口には厳重な封印魔法が施されており、モンスターはそこから出られなくなっている。
複数の傭兵で構成された討伐隊がモンスターを退治、封印して回っている為だ。
だからモンスターに村や町が襲われる事は殆んど無い。
封鎖された区域や洞窟は、主に冒険者用の格好の狩場となる。
封印を破る事は低級モンスターには不可能。
例え誰かが封印を破ったとしても、区域毎に管理をする専門の機関がある。
そんな十分な管理体制の中。
封印は突如破られた。
凶暴なモンスターの眼光が、確かに光った。
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