第4話 ステラとの模擬戦
「なるほど……」
翌日、朝食後に俺は事務室を訪れた。
書類やら本が机に積まれており、いかにもって感じの部屋だ。
「傭兵……って事になるでしょうねそれは」
「やっぱり傭兵ですか」
「ですが、そのカクトウカ? って言葉をどこで覚えたのですか? フェルマー」
適当に喋ってごまかしておく。
まさか転生したなんて言って信用して貰える訳が無い。
「まあ、それは良いでしょう。なれるかは何とも言えませんが、人を守ると言う意味においては、冒険家よりも立派だと思います」
何か褒められた。
流石クリームch
「失礼な事を考えていませんか?」
「いえいえ滅相もございません!」
何でこんなに笑顔が怖いんだろう。
「ではフェルマー」
ステラが立ち上がる。
「簡単な試験をしましょう」
「筆記試験って事ですか? いや、何も知らないのにそれは」
「違います! 私と模擬戦をしましょうって事です」
って訳で俺とステラは森の中の開けた広場にやって来た。
これからやると話したら、マイルも来てくれた。
ステラは細長い剣を抜く。
レイピア……だっけ。
RPG位でしか見た事無いけど。
「安心してください。これは模擬戦用の武器です。刺さっても死にませんが死ぬほど痛いだけです」
……なるほど。
両手を構える。
拳は一応ステラに頼んで貰った長い布を巻いている。
包帯はもしもの時の為のものだからと断られた。
「武器は何かと思いましたが、拳なのですね。道理で休みの日に基礎体力ばかりつけている訳ですね」
知られてた事に驚くが、院長なんだからそれもそうか。
ステラがフッと笑う。
「何か変ですかね?」
「いいえ。嬉しいのです。ここに来たばかりの頃の貴方を思うと。よくぞここまで変わりましたね。フェルマー」
入ってる中身が違うから……何て事は一筋の涙でかき消される。
「本気でいらっしゃい。フェルマー」
「はい」
「合図をお願いしても良いですか? マイル」
2人の間の言葉が途切れる。
距離にして10m程の間合いに、緊迫した空気が漂う。
「は、始め!」
緊張したようなマイルの合図と同時に、ステラが素早い突きを俺に放つが、それを間一髪で避け、カウンターのハイキックをステラが避けて距離を取る。
総合の距離とは違い、相手が武器ありだから戦う勝手が違う事を差し引いても。
この人普通に強い。
前進するフェイントを入れても反応してくる。
俺から距離を詰め、ボディへの三日月蹴りをステラにレイピアでいなされる。
2段目のハイキックは手でギリギリ防がれるが、ガードごと5m程ステラを吹っ飛ばす事に成功する。
追撃の為に詰めた距離は突きで防がれる。
「ここまでとは……」
ステラは何かの紙を取り出す。
丸の中に色んな書き込みがされてる……あ。
俺が横に避けると同時に、その場所に大量の氷のつぶてが襲い掛かっていた。
やっぱり魔法……あるんかーい(´・ω・`)
同時にステラの突きが俺の急所に来る。
けどスピードが速いだけでかわすタイミングは2撃目で掴んだ。
ギリギリでかわし、構えた拳にステラが顔面から突っ込む形でカウンターが決まる。
「く……」
ぐらついたステラに拳を突き出す。
魔法が来る事を予測できてなかったら危なかったなこれ……。
マイルの部屋に感謝。
ステラは両手を上げ、降参の意思を示す。
「あのトレーニングだけでここまでとは……お見事です。フェルマー」
「す、すごいよフェルマー……」
「傭兵でもやって行けそうですか? 俺は」
模擬戦に勝った事よりそっちの方が心配だ。
「元々、私も傭兵でしたから」
あ、そうなんだ。
希望の光が見えた嬉しさを感じる。
「とりあえず今日はここまでです。鍛錬を忘れてはいけませんよ。フェルマー」
そう言い、ステラはレイピアを仕舞い去っていく。
普通に強かった。
しかも多分本気じゃないっぽい。
実際に本物のレイピアだったらこっちにかかるプレッシャーもあるし、どうなってたかは分からない。
「見てるこっちが緊張しちゃったよ」
「いや、実際とんでも無かったよ」
ドカッと腰を下ろす。
1分にも満たない模擬戦だったにも拘らず汗の量が凄い。
だけど久しぶりにこうして戦えて得られた達成感や満足感は気持ちが良かった。
~ステラの視点~
寝室に入って来たステラはレイピアを所定の位置に戻し、鼻血を布で拭うとベッドに座り込む。
ベッドと机、それに衣服を収納するチェストだけと言う、非常にシンプルな部屋だ。
「仮にも傭兵長を務めた事もある私に……何て威力の攻撃でしょう」
引退してからかなり時間が経ってるとは言え、孤児院の生徒に負ける訳が無い。
私に1撃でも与えられれば上出来。
ステラはほんの軽い気持ちでテストをするだけのつもりだった。
それだけ、フェルマーの意思表示に嬉しさを感じた。
ここからゆっくりと成長して行けば良い。
そう思っていた。
だが、結果はこれだ。
慢心と言わざるを得ない。
鼻血を拭う。
彼が体力強化をしていた事は知っていた。
だとすれば、かなり前から決意していたのだろう。
当時の彼では私を納得させられない。
だから体力強化と言う準備をしてから私に相談をして来た。
決意した瞬間に、あえて話さなかった。
彼の決意を、私は見切る事が出来ていなかったのだ。
「しかもあのカウンター……完全に私の攻撃を見切っての行動でした」
だが、彼は武の心得がある人物では無かった筈だ。
あの動き方は何かしらの作法を身に着けている者の動き。
しかも、彼はその前まではこちらが心配するほどに壊れやすい状況だった。
何かをきっかけに、彼の中の何かが明確に変わったのだろう。
その変化にステラは恐怖さえ覚えた。
再度出て来た鼻血を拭い、ステラは思った。
ノーザン・フェルマー。
彼は一体何者なのか……と。
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