第3話 そもそも格闘家が異世界には存在しない……?

 翌日の朝。


直人、もといフェルマーは木を物色していた。



「何かいい感じの……ここが良いな」



ジャンプして枝に掴まり、そのままけんすい。


いち……にーい! さー……ンギギギギ!


これは無理だ。


枝から降り、それだけで息が上がってる自分に溜息をつく。


まさかここまで筋力が落ちてるとは……。


正確には落ちてるんじゃなくて元々無いんだけど。


格闘家どころか一般人にも勝てないんじゃないだろうか。


これはまだステラに話せないな。


現実を突きつけられて終わるだけ。


汗をぬぐい、呼吸を整え、再び枝に掴まる。



昼食を終え、今度は院の敷地内を走った。


今日は畑仕事も漁も休みだから自由で良かった。


1週が大体5㎞位だろうか。


この世界での単位は知らないけど。




~1時間後~


仰向けに寝転がっているフェルマーがいた。



「ま、まさ……いっしゅ……ゲホゲホオエッ!」



 胃液が出てきそうな感覚に襲われる。


でも、最低1週は走れる体力はあるようで良かった。


後はこれを、負荷を上げながら繰り返す。


トレーニングとは、大抵が地味なのだ。



 そして夕食後。


自室で腕立て、スクワットと腕立て、シャドーを欠かさず行う。


頭で考えてる事に体が追い付いてこない事にイライラする。


まあでも、しょうがない。


トレーニングとは、大抵が地味なのだ(2回目)



 そんな感じで最初は翌日は筋肉痛で動けないわ、バービージャンプしてもすぐばてるわで大変だったフィジカルトレーニングも、半年、1年と続ける事でだいぶ様になってきた。


現役時代……とまではいかないけど、気付いた事があった。


筋力やスピードが全然違った。


特にスピード。


一瞬で20m位の間合いなら詰めれる位のスピードになっていた。


力は軽いストレートで太い木も1発で折る事が出来る位。


転生前の肉体で異世界に来てたらどうなってた事やら……と女々しく思う。


休みの日にしかできなかったトレーニングも、筋力や持久力がついた事により普段の仕事効率も上がり、仕事の日にもトレーニングの時間が取りやすくなったのも追い風だった。



「ノーザン、す、すごい体になったね」


「マイル分かってくれた? 仕事の合間にトレーニングしようと思ってさ」


「頑張ってたよね。でも、なんでまた急にやり始めたの?」



 夕食の席でマイルが俺に聞いて来る。



「実はさ……」



 他に聞こえないように小声で言う。



「まだ誰にも言わないでほしいんだけど」


「うん」


「格闘家になろうと思ってさ」


「……? カク……トウカ?」



 マイルはキョトンとしていた。


予想はしてたけど、やっぱり無いのか……?



「それって何をするの?」


「戦うのが仕事……かな?」


「冒険者……って事?」



 うーむ……。



 夕食を終え、マイルの部屋にお邪魔する。


俺の部屋とは違い、本が所狭しと積み上げられていた。



「こんなに本が……これどうしたの?」


「ステラに貰ったんだ」



 そしてランタン。


これのお陰で夜も本が読めるらしい。


魔法と書かれた書物が沢山ある。



「それで、カクトウ……カ? って一体何なの?」


「えっとね……」



 ざっくりと説明する。


戦いが主な仕事。


それにより貰えるファイトマネーで生計を立てる。



「そう言う職業があるんだね……」


「やっぱり無いのかな?」


「うーん……聞いた事無いけど、僕も本の知識だけだしね。でも」



 マイルは本を取り出す。



「モンスターから街とか王族を守る傭兵……かな? 傭兵同士が戦うって言うのはあるって本に書いてあるよ」


「傭兵か……」



 って事は、この世界では人同士が戦うにしても、他の職を全うしながら催し事でやるって感じか。


そう言う意味では転生前と何ら違いはないから安心だ。



「誰にでもなれるのかな? 傭兵って」


「うーん……そこまでは書いてないから分からないね」


「そっかぁ(´・ω・`)」



 流石に凹む。


努力が無駄になるって確定した瞬間は、何だろうと落ち込むものだ。



「でもさ、なれると思うよ僕は」



 笑顔でマイルは俺に言う。



「努力したって夢が叶わないなんて、そんな世界嫌じゃない」



 ……。


確かにそうだ。


俺の言った事を一緒に考えてくれて、否定さえせずに聞いてくれたマイル。


マイルに話して、本当に良かったと心から思った。



「ステラに明日相談してみるよ」


「うん。頑張ってねノーザン」


「フェルマーで良いよ。マイル」


「分かった。フェルマー」


 無言で拳を差し出した。


マイルは嬉しそうに、俺の拳に拳を合わせた。

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