第2話 異世界でもやろうと思えば出来るんじゃね?

名前:ノーザン・フェルマー

年齢:13歳

身長:161㎝

体重:48㎏


 1週間の生活で、自分自身の大体の情報は分かった。


服装や人、周りを見ても。


紛れもない異世界に転生したって事実。


ここは孤児院であり、俺は酷い虐待を受けてたらしく、ここに連れて来られたそうだ。


最初は気付かなかったけど、所々にあざとか切り傷が確認できた。


共同の風呂のようなものがあり、入ろうと思って服を脱ごうとして止めた。


これを見て良い思いをする奴はいないだろうと。


それが間違い無く影響してると思うけど、元々殆んど人と話さない性格だったそうだ。


ステラのあの表情は、俺を常に心配しての事なんだろうと納得する。


孤児院の皆は優しかった。


そうしてくれる理由が、元々同じような境遇だからかは分からないけど(お互いがお互いの事を知ろうとしないのを察したから聞いてない)、あったかい空気がここにあった。


畑仕事をしながら整理する。


とりあえず情報を整理していないとどうにかなりそうなのもある。



「ノーザン。サボってるとまたステラに叱られるよ?」



 褐色肌の男子が、俺に声をかけて来る。


名前はマイル。


手の甲に酷い火傷がある。


何があったかは聞かないでいる。


因みにステラは俺が転生して最初に会った金髪の女の人だ。


本名はステラ・サーチェル。



「これが終わったらって思うと嬉しくてさ」


「そうだね。早く終わらせちゃおう」



 そう言い、お互いに畑を耕す作業に戻る。


いわゆる自給自足をここではしている。


近くには湖もあり、漁の班と畑仕事の班に分かれ、こうした作業に明け暮れるのだ。


ここで一生を過ごす奴もいれば、一獲千金を狙って冒険者になる奴もいるらしい。


冒険者を目指す奴の多くは途中で死ぬらしいけど……。


ホント、格闘家とは程遠い事になったと実感する。



「さあ、今日はもう終わりましょう!」



 ステラが手を叩きながら仕事終わりを告げる。



~夕食~


「大地の恵みに感謝を」


「「感謝を」」



 海鮮のシチューみたいな食事がここでの常識らしい。


うまいけど、中に入ってるものが見た事もないような形をしている。


味はにんじんとかジャガイモとかなんだけど。


星形でとれる赤いものがにんじんの味なんて思わなくない(因みに名前はそれぞれキャロ、ポタトって言うらしい)?


でも、完全にス〇ラおばさんのクリームシch



「何か失礼な事を考えませんでした? フェルマー」



こんな感じで思っただけで素晴らしい程の笑顔で睨まれるから気軽におばさんって思えない。





そして寝る。


そんな感じで1日が終わる。


寝る前にどうするかを考えるようにしてる。


でも、どうしても転生前を思い出してしまう。


転生前と後での自分の境遇が似過ぎているのだ。


孤児院の日々、養子として引き取られてからの生活。


大学まで受かり、親が喜んでくれた日。


格闘技の試合に心打たれ、格闘技をやろうと決めた時の親の顔。


仕事をしながらプロになり、順調に成績を積み上げて行った時は泣きながら喜んでくれた。


チャンピオンになって親に。


いや、関わった全ての人に恩返しがしたかった。


別に女の子を助けた事を後悔なんてしないけど、何か、こう……。


落ち込むは落ち込む。


……この世界で格闘家になれないか。


孤児院育ちの奴がどう言う道に進むか。


そこに格闘家っていう道は無い。


って言うか聞いた事が無い。


起き上がる。


だけど、そうじゃないと俺は思う。


誰だって血の滲むような努力をして現実世界のあのリングに立ってる訳で。


こっちにだって似たようなのはあるかもしれない。


無いなら探す。


うんまずはそれで良いや。


そうと決まればまずは……。


自分の細い体を見る。


体をでかくしないとなぁ。


すっかり日が落ちた中、フェルマーは静かに闘志を燃やした。

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