第20話 ガルパチョフに与えられたチャンス 【ざまぁ回】

 ギルドの換金所で魔硝石を換金した。

 合わせて826万エーンである。

 周囲からは大歓声が沸き起こる。



「す、すげぇええ!」

「このギルド始まって以来じゃねぇか??」

「くぅうう!! 羨ましいぜ!!」



 俺だって驚いている。


 こんな大金を手にしたのは初めてだ。


 奪われた貯金を軽く超えてしまったな。

 うーーむ。貧民の俺がこんなに稼ぐなんてな。天国にいる両親が知ったらどれだけ喜ぶだろうか?


 しかも、今回は現金払いである。

 カウンターは金貨の山となった。


 ギルドの冒険者達は俺の肩を抱く。

 

「おいゼロ。今夜はこの金で飲み明かそうぜ!」


 やれやれ。そんな無計画なことができるかよ。




「ダメだ。この金は全額貯金だ」





 冒険者達は目を細めた。

 まるで台風の目にでも入ったように、場は静まり返る。


 ……しかたないなぁ。


 俺は酒場のカウンターに1袋の金貨を置く。



「マスター。この金で、ここにいるみんなに飲ませてやってくれ!」



 大歓声が沸き起こった。




「ひゃっほーーーーい!!」

「ひゅぅううううう!! そうこなっくっちゃぁあ!!」

「流石はゼロだぜぇえ!!」

「剣士ゼロ・バンカー万歳!!」

「不死身のゼロが青いギルドに帰ってきたぞぉおお!!」




 やれやれ、現金な奴らだぜまったく。


「なぁ飲もうゼロ!! 今夜はお前の武勇伝を聞きてぇ! どうやって生き返ったか話してくんねぇか?」


「いや。悪いがそうゆっくりもできないんだ。俺はデオックを探している。どこにいるか知っているか?」


「知らねぇなぁ。今日は姿を見てねぇぜ。もしかしたら街を出てったのかもな。あいつらここんとこ落ち目だったからなぁ」


 詳細を聞くと、ダンジョンの挑戦は失敗続きでパーティーの等級が落ちているらしい。


 デオックがこの街を出るのは考えられない。

 青のギルドでしか俺の死亡認定はできないからな。しかも認定を受けなければ預金通帳は使えないんだ。

 今日の昼で、死亡申請を出して1週間が経つ。

 つまり、俺が生きていることを知らない奴らは、昼になれば認定を受けるためにこのギルドへやってくるんだ。



◇◇◇◇



ーーギルドの宿屋ーー



 俺は扉をガシンと蹴ってぶち開けた。


「念の為。宿屋にいてるか探す」


 しかし、人の気配は無い。

 どうやら誰もいないようだ。


女人化ガール!』


ボンッ!


 煙りに包まれた魔剣は美少女ラルゥに変化した。


「ここがご主人様が暮された宿屋ですか?」


「……ああ」


 俺の荷物は見当たらないな。

 不要な物は捨てて使える物は売ったのだろう。


 いつもみんなで使っていたテーブルが目に入る。


「ここでマチェットをやったんだ……」


「マチェットってなんです?」


「商人を出世させるボードゲームさ。スタートは短剣しか持ってないんだ。そんな商人がドンドン出世していくんだよ」


「へぇ〜〜。面白そうですねぇ。私もやりたいです」


「4人以上でやるゲームだからな……」


 そうだ……。

 いつも5人揃って……。

 このテーブルでやっていたんだ。



『ハハハ! ゼロっちは、また負けだよ』


『くそーー! 次こそ勝ってやる!!』


『ゼロ……負けた……俺……勝った』


『よぉし! もう一勝負いこう!!』


『何度やってもゼロっちの負けだってのハハハ!』



 みんなはイカサマをして、俺はいつも負けだった。

 でも……。楽しかった……。



「ご主人様……。凄く悲しそうな顔してますね」



 突然、凄まじい殺気を感じる。

 俺はラルゥを抱いて部屋の隅へと移動した。



「ウインドダーーン!!」



 ほぼ同時と言っていい。

 風の魔法が俺達を襲った。



ドバンッ!!



 俺達に当たらなかった魔法は、そのまま一直線に宿屋の窓を破壊した。


 モロに喰らっていれば吹っ飛ばされて危なかったかもな。


 眼前にはスキンヘッドの賢者ガルパチョフが立っていた。




「チッ! ……はずした。……くやしい」





 探す手間が省けた。


「また俺を殺そうとしたのか?」


「ゼロ……。どうして……生きてる?」


 どうしてだと?




「地獄の底から復活したんだ! お前達をぶっ飛ばすためにな!」




 ガルパチョフは顔を歪めた。




「っく! どうして……そんな……可愛い子……連れてるんだ?」




 ふん。こんな奴にラルゥを紹介するかよ!



「ラルゥ! 魔剣モードだ!」


「承知しました!!」



ボン!!


 煙りに包まれたラルゥは魔剣へと姿を変える。



「何!? ……美少女が……剣に……なった?」



 俺は魔剣を構える。



「貴様をぶっ飛ばすためにな。女神が魔剣になってくれたんだ」


「ま、魔剣??……そ、そうか……。あの時の……魔剣……か!」



 ガルパチョフは風の魔法を球体にして部屋の中に漂わせた。



「ゼロ……。お前……生きてると……。色々……厄介」


「ふん……。安心しろ。貴様らが俺を殺そうとしたことはギルドに報告していない」


 ギルドに報告すれば王国の衛兵が動く。

 計画殺人は重罪だ。捕まれば死罪。


 ガルパチョフはニヤリと笑った。


「ククク……。お人好し……ゼロ。……俺のこと……まだ……好き……なんだな」


 やれやれ……。


「俺がお前らの罪をかばっていると思っているのか? だったらお人好しはそっちだ」


「何!?」


「お前らを衛兵なんかに渡すかよ。俺がこの手でぶっ飛ばしてやるんだからな!」



 ガルパチョフは危険を感じ風の魔法を発動する。



「死ね!! ゼロ!! この……。小さな……。部屋なら……。連発……すれば……逃げれない!! ウインドダーーン!!」



ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!!



 風の魔法の連射攻撃。

 こいつが言うとおり、狭い部屋だと逃げれないな。

 しかし──。




「逃げる必要なんかない!!」




 俺は魔剣を垂直にして正面に構えた。





刃防御エッジディフェンス!!」





 迫り来る風の魔法に魔剣の剣身を押し当てる。



カツーーーーンッ!

カツーーーーンッ!

カツーーーーンッ!

カツーーーーンッ!

カツーーーーンッ!



『ご主人様! 決まりました! 5ガード、成功です!!』


 ガルパチョフは目を見張る。



「何ィィイイイイイイ!! ま、魔法が弾かれた!?……だとぉ!?」



 俺は目を細めた。



「ガルパチョフ。お前がダンジョンで俺にしたこと……。忘れてないぞ」


「ひ、ひぃいいいッ!!」


 ガルパチョフは恐怖のあまり背を向けて走り出す。


 逃すかよ。




「峰打ちぃいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」




バシィイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!



 魔剣の峰打ちがガルパチョフの背中を捉える。



「あぎゃあぁああああああああああああッ!!」



 倒れるガルパチョフの眼前に仁王立ち。



「魔剣が片刃の剣で良かったな」



 ガルパチョフは涙を流した。



「た、助けて……くれ……。わ、悪かった! 謝る……から……。命だけは……助けてくれぇえええええええ!!」


「お前はあの時、俺の頼みすら聞いてくれなかったな。妹のイチカを助けて欲しいと願ったのに、笑って断った! それだけにとどまらず、イチカに酷いことをすると宣言した!!」


「あ、あの時は……。本当に……悪かった……。は、反省してる。……だから、ゆ、許してくれ!! お、俺達は、……仲間だろ?」


「仲間ぁ……だとぉおお!?」



バシィイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!



 俺の峰打ちがガルパチョフの頬を打つ。



「あべぇらあああああああああッ!!」


「2度と言うな!! 虫唾が走る!!」


「ず、ずびばじぇん……。だずげでぇえ」


 ガルパチョフはボロボロと涙を流す。


「ふん! 俺の頼みは聞かなかった癖に、自分は命乞いか」


「お願い……じまず……。命だげばぁ……だずげでぐだざいぃいい」


「クッ!」



 俺は後ろを向いた。



「行けよ」


「へ……?」


「てめぇのツラなんて2度と見たくない!」


「た……助けて……くれるのか?」


「今度会ったら命はないからな」


「た、助かった……。へへへ」



 ガルパチョフの視線を感じる。俺の背中をジッと見つめているようだった。

 俺は気配で察知する。奴はゆっくりと後ろに下がり距離を取っていた。



「ゼロ……。悪かった……反省……してる」



 こいつの顔なんか2度と見たくないな。


 俺は振り向きもせず応えた。


「フン! 信用できるか! 早く消えろ!!」


「消えるよ……消える──」



 ガルパチョフの動作音が聞こえる。そして勝ち誇ったように宣言した。



「──ただし、お前がな!!」



 その瞬間、風の魔法を発動した。



「この距離……なら……外さない。メガウインドダーーン!! 死ねぇゼロォォオオオオオオ!!」



 メガウインドダーンは通常のウインドダーンの上位風魔法だ。

 発射速度は速く、背中を向けていたのでは防御が間に合わない。


 しかし、俺は事前に用意していた。

 空間に光る切れ目。そこは亜空間に通じている。

 メガウインドダーンはその切れ目に吸い込まれるように消え去った。



「な!? き、消えた!? 魔法が消滅した!?」


収納斬ストレイジスラッシュ。消えたんじゃない。収納したんだ」


「は!? しゅ、収納??」


「こんなことだろうと思ったからな。亜空間の切れ目を事前に作って置いたのさ」


「な、何ぃいい!?」


「チャンスはやったんだがな」


「ひ、ひぃいッ!!」


「悪は死ななきゃ治らないか……」


「ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」



 魔剣の連打が炸裂する。





「峰打ちッ! 峰打ちッ! 峰打ちッ! 峰打ちッ! 峰打ちッ! 峰打ちッ! 峰打ちッ! 峰打ちッ! 峰うッ! 峰うッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰ッ! 峰打ちぃいいいやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」



「あがッ! げぼぉッ! でべぇッ! ずべらぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」




 ガルパチョフは体中の骨が折れて血だらけになった。

 ピクピクと痙攣する。

 俺はぐったりと倒れ込むそいつの襟首を掴んで持ち上げた。



「おい!」


「……あ……あがが」



 頬をペシペシと叩く。



「デオック達はどこにいる?」


「し…………知ら……ねぇ…………」


「俺の通帳はどこだ?」


「デ……デオック……が……持ってる……ッガク」


 ガルパチョフは失神した。


 こいつが単独で行動しているところを見ると嘘ではなさそうだ。

 粗方、デオックが俺の通帳を持って姿を眩ませたんだろう。

 俺の貯金を独り占めするなんて、あいつの考えそうなことだ。


 俺はガルパチョフを投げ飛ばした。



「残り、3人だ」



 魔法使いドド。戦士霧丸。盗賊デオック。

 首を洗って待ってろよぉおおおおおおお!!



 ラルゥはいつの間にか人化して、横たわるガルパチョフに目をやった。


「ご主人様が投げ飛ばした先……。フカフカのベッドでしたね」


「……偶然だよ」


「ふふふ……」


「な、なんだよ」


「ご主人様優しいです」


「ふん! 偶然だっての!!」




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武器:魔剣ラルゥ。


魔剣レベル:12。


魔剣スキル:

炎攻撃剣ファイヤーブレード 水攻撃剣アクアブレード 女人化ガール 鑑定剣ジャッジメントソード 小回復剣リトルライフソード 照明剣フラッシュソード 収納斬ストレイジスラッシュ 地図剣マップソード 風攻撃剣ウインドブレード 刃防御エッジディフェンス 風乗り剣サーフソード 剣印ソードスタンプ


住居:ヒポポダーマの屋敷。


従獣:ヒポポダーマ。


アイテム:金銀財宝多数。


ラルゥの好感度:♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡



所持金:800万エーン。


貯金:0エーン。

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